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今宵、一期一会の晩餐を  作者: 白鷺雪華
6/15

稲荷寿司

まだまだ寒さが続く季節

ここ食堂「菜食兼美」では

おでんなどの鍋物を提供しており、

ご飯と味噌汁はセルフでおかわり自由なので、

おかわりしていただける

お客様も多くなっている。


いまは開店してしばらくの朝なので

お客様の姿は少ない。


私は新規のお客様が着席されるタイミングで、

お水の提供とともにご注文を伺う。

「納豆定食お願いします」

「はい!

 キムチかたくわんお付けできますが

 いかがですか?」

「キムチで」

「かしこまりました

 少々お待ちください」

私は調理場に戻り調理を開始する。

と言っても、ご飯をよそって味噌汁を注げば

すぐにお出しできるのだ。


「おまたせしました。納豆定食です」

私はテーブルに料理が乗ったお盆を置く。

「ありがとう。いただきます」

「ふふ、納豆に味噌汁に豆腐と

 大豆大活躍だね」

「日本人は米と大豆で

 育ってきたところあるもんね」

 お客様は味噌汁を飲みながら呟く。

「そうですよね。

 大豆は遥か昔から

 日本の食卓を支えてくれてますね」

私は言葉を返す。

「味噌も醤油も大豆の発酵食品だもんね」

「そう考えると発酵食品って

 食べない日がないね」

「味噌と醤油って絶対家にあるし、

 当たり前に料理に使ってるし」

「確かにないって場面が

 考えにくいですよね」

「発酵食品は単体でも美味しいですし、

 栄養満点ですが発酵食品どうしを

 組み合わせるとさらに良いです」

「その中でも納豆とキムチは

 最強の組み合わせですからね」

「さっすが〜 わかってる〜」

「お客様のチョイスが素晴らしいからですよ」

納豆とキムチに含まれる乳酸菌や

ビフィズス菌などの善玉菌は、

腸内環境を改善する効果があり、

腸内環境が良好になることで、

消化や免疫力の向上につながる。

他にも血圧の降下や抗炎症作用など

体によい効果が盛り沢山。


実は私も夕食に

キムチ納豆ご飯を食べることが多い。

おかげでコロナウイルスが

猛威を奮ったときも一度も感染せずに

香りや味を楽しむことができた。

ちなみにワクチンは一度も接種していない。


「すみませ〜ん」

「は〜い! ただいますぐに」

さて、いまはそれよりもお客様だ。

待たせてはならない。

今日もお腹いっぱい美味しく食べてもらおう。


今日という日はまだ

始まったばかりなのである。



閉店後……

入口に女性のお客様がお二人立っていた。

お二人とも幼さの残る顔立ちで

異なる制服を着ている。


私は笑顔で

「いらっしゃいませ~

 お好きなお席へどうぞ」

とお客様をお出迎えする。


お二人も笑顔を浮かべて、

テーブルに向かい合って着席された。


今宵は2月はじめの(うま)の日。

初午(はつうま)と呼ばれる

五穀豊穣を祈る日である。


初午とは一般的に、

初午の日に行われるお祭りや風習をさす。


初午ということばは、

2月最初の「午の日」からきている。

和銅4年(711年)2月初午の日に

稲荷大神が稲荷山に

鎮座したゆかりの日なので、

その年の2月最初の午の日を初午と呼ぶらしい。

そのため初午の日にちはその年ごとに変わる。


初午には、全国各地の稲荷神社で

「初午祭」というお祭りが行われる。

稲荷神社に祀られている穀物の神様が

初午に降臨したとされることから、

初午に稲荷神社を参り、

五穀豊穣を祈るようになった。



全国の稲荷神社で

お祭りが行われるってことは、

それだけ人も集まるんだろうから、

経済効果も高いのかな……


そんなことを考えながら、

本日最後の料理を提供する。

「おまたせしました。稲荷寿司です」

私はお二人の前に

稲荷寿司と味噌汁、ガリを並べる。

「わぁ、きれい」

「お稲荷さんだ〜」

お二人が目を輝かせて呟く。

「いただきます」

「いただきます」

揃って祈りを捧げて味噌汁を口にする。

「あぁ、美味しい」

「油揚げとお豆腐だね。大豆尽くし」

「あとはネギね」

「本日は五穀豊穣を祈る日とされているので、

 大豆食品をふんだんに使っています」

「そうなんだ」

「だから大豆なのね」


お二人は稲荷寿司に箸を伸ばしたが、

その手が途中で止まる。

「あれ? 形が違うね……」

「うん 三角形と俵型?」

どうやら、稲荷寿司の形が違うのに

気づいて疑問に感じているようだ。

「お客様、稲荷寿司は

 東と西で違う部分があるんです」

「東では長方形に切った油揚げを

 醤油と砂糖で甘辛く煮て酢飯を詰めて、

 俵型に仕上げることが多いとされています」

「関西では三角形に切った油揚げを使って、

 中に詰める酢飯も

 甘辛く煮た椎茸やにんじん、

 ゴマなどの具材が入ることが多く、

 五目稲荷と呼ぶこともあるんだとか」

「本日は東西の稲荷寿司を

 2つずつご用意しました」

東西での稲荷寿司の違いを説明する。

「へぇ! そうなのね! 知らなかった」

「あたしも! 形が違うだけじゃなくて、

 中の具材も違うんだ」

「私、東の俵型からいただくね」

「ならあたしは、西の三角形から……」

お二人がそれぞれ違う稲荷寿司を召し上がる。

「う〜ん! 甘辛くて

 噛むたびにお出汁があふれる」

「うんうん! 酢飯ともあうし

 刻まれた具材も甘い」

「俵型のは酢飯だけだけど、

 より味を感じられるね」

「そうなの? じゃ次は俵型の食べよ」

「私は三角の」

お二人とも東西どちらの稲荷寿司も

気に入られたようで私も嬉しくなる。


初午に油揚げだけではなく、

油揚げにすし飯を詰めたものを奉納したのが

「稲荷寿司」の始まりと言われている。

キツネの好物である油揚げに、

稲荷神のおかげでもたらされた

米を詰めるようになったとされている。


その後もお二人は会話に

花を咲かせながら食事を続ける。

「これ生姜かな?」

「色が赤いけど生姜みたいだね」

「あ! 酸味があるけど歯ごたえもいいよ」

「薄く切ってあるのも食べやすくていいね」

「口直しにもいいしこれ好き!」

「お稲荷さんにもあうよ」

うちのガリ、生姜の甘酢漬けは手作りである。

単品でのご注文も可能でお酒とともに

頼んでいただけることも多い。



「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

お二人が手を合わせて食事を終える。

「美味しかった!」

「うんうん、本当に!」

喜んでもらえて私も嬉しくなる。

「ありがとうございます

 美味しく召し上がっていただけるのが、

 一番嬉しいです」

「お寿司は稲荷の他に握りやちらし、

 巻きなどがありますから、

 また召し上がっていただきたいです」

「お味噌汁もご用意しておきます」

「わぁ、いいね、いいね!」

「また一緒に来ようね!」

「うん、もちろん!」

お二人は同時に席から立ち上がると

「またね」と一礼の後に消えていった。


テーブルには空になった食器と

一つの小袋が置かれていた。

小袋の中には大豆がぎっしりと詰まっていた。

私は小袋を手のひらに収めて、

「日本の自給率も上げるようにしなきゃね」と

思うと同時に呟く


_____またのお越しをお待ちしております_____

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