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第4章 疑惑〜25〜

第4章 〜25〜


この人達には、どこまで話していいのだろう?

突然の訪問者。

彼らは味方になってくれるのか?


※差別偏見誹謗中傷厳禁

「日向さん、居られます?」


 インターホンから、聞いた事のある声が聞こえる。

 アコースティックギターを横に置き、パソコンを睨む。


「面倒くさっ」


 少し悪態をついたのは、曲作りに集中しているからだ。


「健康管理課の中塚です。支援室の福本さんも一緒です。お話してよろしいでしょうか?」

「アポなしは困るんですけど…」

「すみません。近くに来ていたもので」


 会社には、従業員の安全と健康について事務的に管理する“健康管理課”があり、同部署の現場的役割で従業員に寄り添う“健康管理支援室”が設けられている。

 颯希は渋々ドアを開けた。

 ドアの前には、中塚と福本が立っていた。


「どうぞ」


 何の話だろう? 大体予想は付く。休職中の身だ。この先についてだろう。



 中塚は、机の上のパソコンの画面と、その横のギターに目をやった。


「カッコいい」


 福本はそう呟いた。


「これって、音楽の何かですか?」

「そうです。作曲ソフトです」

「まぁ! カッコいい!」


 中塚の問いに答えると、福本はまた感嘆の言葉を言った。

 ふと我に返ったように、中塚が話を切り出した。


「すみません。手短に…日向さんね、復帰についてはどうお考えですか?」

「あ、いえ…」


 復帰など、まだ考える余裕がない。

 というより、復帰する事のメリットって何だ? 会社に居れば、確かに収入は安定するし、社会的にも信頼を得られるだろう。それは大きなメリットで、生活に関わる重要な事案だ。

 だからと言って、あの誹謗中傷の嵐の中、どうすれば生き延びられる?

 颯希にとって、不安以外の何物でもない。


 誹謗中傷の原因があの路上ライブの動画であるならば、女性であるかのように化粧し、髪を整え、レディースファッションを身に纏った自分のせいだ。

 しかし、そうじゃない。高原が正社員となった日を境に、颯希はあの職場に居づらさを感じ始めていた。


 高原が嫌だから?

 それも違う。面倒だと思ってはいたが、まだ普通に仕事は出来ていた。

 高原が正社員になって以降、自分を色眼鏡で見る従業員が急激に増えた気がする。

 そこからの、動画拡散だ。


 誹謗中傷の原因、それはきっと先日のメモのように、高原が、中傷する言葉を多くの臨時従業員達と共有していた事に違いないだろう。


「だから部署を異動したって、どの職場にも高原から余計な事を植え付けられた人が居るんですよ」


 八坂署の西田から「颯希ちゃん」と呼ばれる事に関しては、誰も何も悪い事をしていない。“君”ではなく、“ちゃん”を付けただけだ。

 そう呼ばれながら、女性歌手の歌を弾き語った事も、何も悪くない。

 そして―。


自分(ボク)にとっては、女装って言葉は違うんです。側から見たら女装って言われるんやろうけど、それも自分(ジブン)が着たい服、やりたい格好をしただけなんです。それを誹謗中傷されるんやったら、自分(ボク)は会社の殆どの人から否定されてる事になります。そんな職場に戻って、安定した収入だけは得られても…」


 中塚は戸惑った。

 やりたい格好が、女性のような服装や髪型?

 福本が何かに気付いたように、中塚に耳打ちする。中塚は少し頷くと、手帳を鞄に仕舞った。


「すみません、日向さん。急にお邪魔して申し訳ないです」


 福本が、続いて言う。


「あのね、日向さん。日向さん自身が『嫌だ』とか仰るならいいんですけど、もしその気になってくださったら、健康管理支援室にいらして。ゆっくりお話出来たらって思うので」


 2人は立ち上がった。そして、深く頭を下げると、福本は名刺を颯希に手渡した。


 ―何で今さら名刺?


 颯希はそれを手に取ると、裏のメモ書きに気付いた。

 少しだけだが、光を感じた。



 今、自分は闇の中に居る。そして、その出口の扉を閉め切ったまま、もがいている。

 この扉を、大切な人の力を借りて、開ける事が出来たなら―。


「閃いた…かも!」


 颯希は再びパソコンに向かった。そして、キーボードを叩き始めた。まるで、軽快にリズムを刻むように。


 数ヶ月後に迎える、彰人と穂花の結婚式。

 皆がまだ高校生だった頃を思い出す。


 穂花は、ある事がきっかけで入試前だというのに闇に陥っていた。

 その手を引いたのが、彰人だ。

 大学を卒業し、社会人になるまで、ゆっくりゆっくり歩いてきた。

 この先、2人に何が起こるかは分からない。

 だけど、ずっと大切にしてきた音楽。その音楽が、これからも2人を導いていくだろう。

 迷ったら歌え!


 ―まず演る事。


「よしっ!」


 書き上げた詞を読み返してみる。

 おかしな表現はないか?

 響きは美しいか?

 そんな事を意識しながら、颯希は送信ボタンを押した。


『タケ 出来たぞ!!』

読んでいただき、ありがとうございます。


少し光が…。

大きな会社には、名称は違うかもしれないけど、ここで言う“健康管理支援室”のような場所が設置されている場合が多くあるとか。

瑠璃が働く会社にもあります。

そこには常駐の看護師さん(かな?)が居て、週一回産業医さんが来られます。

体、心、あるいは社会的に良好な状態で働けるよう、従業員に寄り添ってくれるんですね。

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