第4章 疑惑〜24〜
第4章 〜24〜
まさかのひと言に戸惑いは隠せない。
信頼を得るって、こんなにも…
※差別偏見誹謗中傷厳禁
沈黙がしばらく続いた。
かける言葉が見つからず、いや、正直なところ、颯希とは別の意味で、剛は強い不安感に襲われていた。
性的にはマジョリティである剛。
もしここで颯希が同性への恋愛感情を語ったとしたら…そして、もしその相手が自分やバンドのメンバーだったりしたら、どう向き合っていけばいいのか。剛は同性からの恋愛感情を受け止める事は出来ない。それはきっと、彰人も同じだろう。
しかし、ここで放った言葉は、決して冗談ではなく、しかも長い間の葛藤の末に意を決した、そして、剛を心から信頼しての言葉である事は、疑う余地もなかった。
颯希はようやく声を出した。
「すまん。お前らには迷惑はかけへんつもりや。」
―ああ。
「分かってくれとも言えへん。ただ…」
「何や?」
その後に続く言葉が怖い。あらゆる事を寛大に受け止めてきた剛も、苦しい程の緊張感に襲わせる。
「ただ…自分は男の体やし、男として生きられるし、これまでも男として生きてきた。」
―自分…
颯希は、言葉を詰まらせながら、必死の思いでその気持ちを剛に言った。
「お前が心配してんのが自分の思てる通りやったら、それは気にせんでええ。自分、こんな奴やけど…莉玖が好きや!!」
少しだけ、安堵の空気が流れた。しかしそれは、すぐに不安感へと変わった。
「莉玖ちゃんには?」
「はっきりとは言うてへん。でも、莉玖は分かってると思う」
「そうか…」
少し溜めた後、颯希は重い口調で言った。
「ゴリの披露宴終わったら、少し…距離を置こうと思う」
この言葉が、剛の心を激しく揺さぶった。剛は、堪らず大声を上げた。
「何でや!! 莉玖ちゃんはお前の事好きやって言うたやんけ! お前のそんな理由で勝手に距離置くとか言うなや!!」
「分かってくれ! このまま一緒にいたら、莉玖はほんまの意味での恋愛が出来ひん。莉玖には、もっとまともで男らしい人と…」
「そやから言うてるやんけ!! 莉玖ちゃんはお前の事が好きやて言うてんねや。莉玖ちゃんにとって、お前がどんなんであろうとお前はお前ねん!! 莉玖ちゃんが惚れてる日向颯希やねん!!!」
剛は勢い余って颯希の胸ぐらを掴んだ。
しかし、すぐにその手を緩めた。
そして…颯希の体の小さな事を、あらためて感じた。
「距離、置くんか?」
「その方がいいのかなって思う…」
「そうか…」
剛は、少し間を置いた。
そして、眉をハの字にして言った。
「もうそろそろ、自分を大事にせえよ。お前、いっつも周りの事ばっかり考えて…」
颯希はその言葉を受けて、目頭が熱くなった。
剛は、颯希を気遣いながらも頭をフルに回転させて言う。
「俺らもな、お前が日向颯希であろうと、ギター少女さつきちゃんであろうと、それは関係ない。お前はお前で、俺らの仲間。俺らのリスペクトする颯希に変わりないねん」
「あ、ありがとう…」
―そんなに泣くなよ。
颯希は、剛の言葉に号泣した。
小学生からの付き合いの中で、今、初めてこの違和感について話した。剛はそれを、全身で受け止めてくれた。
「タケ…」
「まだ何かあんのか? 話してええぞ」
「うん…あのな……ギター少女ちゃうねん。ギター女子や」
「あ…」
「こんな感動のシーンで、ボケんなや!」
―ぶわっはっはっは!
―あはははははは!
春が近い事を感じさせる、夜の町。
まだ少し肌寒さを感じる空気が、2人を包み込む。
カフェから颯希の自宅マンションまでは、歩けば30分程だ。
「なぁ、バンドって、いつ再開出来るやろ」
「演りたいなぁ。俺は仕事始まる言うたかて、そんなに私生活変わる訳でもないし」
「ゴリやなぁ。6月に結婚控えてるし」
長らくセッションしていない。
まず演る事―。
これを合言葉に、突っ走ってきた。しかし、就職や結婚と言えば、人生の転機だ。自ずと優先順位は入れ替わる。
「ゴリの家庭が落ち着いたら…かな?」
そう言った端から剛は、ふと思い付いた。
「演らへんか? ゴリの披露宴」
「余興?」
「おぅ。俺らならではのお祝い、演ろうや!」
2人の目が輝いた。
そして、声を揃えた。
「まず演る事!!」
読んでいただき、ありがとうございます。
剛の目線になって、考えてみましょう。
LGBTQ+って、わりと『同性愛』に結び付けてしまいがちなのではないでしょうか?
5つのアルファベットの内、3つが性的指向を示しています。
だからかな?
でも実は、性自認(自認する性)と性的指向(恋愛対象)は別なんですね。
さて難しい問題です。
颯希の口から、気になるひと言
自分がその立場だったら、どうするんだろう?




