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第4章 疑惑〜23〜

第4章 〜23〜


もがき苦しみ、やり場のない思い。

頼るべきは、あの男か?


※差別偏見誹謗中傷厳禁

 どうも納得いかない。いや、納得いかないと言うより、心が落ち着かない。それも違う。気持ちが定まらない…そう言った方が適切なのか。


 ―男、男、男…。

 皆、申し合わせたように同じ事を言う。

 確かに自分は男だ。体を見れば、何も疑う余地などない。

 颯希は、あらためて自分の両腕を見た。

 徐々にではあるが、太く、ゴツゴツとしていく二の腕。肘を曲げて力を入れると、筋肉が盛り上がる。


 ―嘘や!


 この上ない違和感と、変わりゆくその体形。  

 恐怖だ。恐怖さえも感じてしまう。


 体は疲労が溜まり、筋肉痛が治らない。もういっぱいいっぱいだ。それなのに、容赦なく力仕事を押し付けられた。

 そのくせ、口を開けば「オネエ」などと好き勝手に言いやがる。


 ―まてよ?

 男って、そんなに強いものなのか? そういえば周りの男子。同じ仕事をしていても、苦痛など訴えたりしていない。

 自分が知らないだけで、皆辛いのか? いや、そうでもないと思う。




「おう、颯希。どした?」

「忙しいとこ、すまん」

「いや、卒論も書いたし、全然ええぞ」

「ありがとうな」


 男を語るなら剛だ。颯希は剛を呼び出した。


「聞いて欲しい話がある」

「分かった」


 夜のカフェは、仕事帰りの人達のテイクアウトで混雑していた。人は多いものの、席はいくらでも空いている。しかし、剛の顔を見て話せるだろうか? そんな不安を抱えながら、颯希は窓に向かうカウンター席に座った。

 ほろ苦いエスプレッソが、心の中の傷に染みていく様に、胸の奥の奥を刺激した。


「なぁ、タケ…」

「うん」

「イチゴ美味そうやな。俺、ショートケーキ食うわ」

「はは…お前、そういうとこ屈託ないねぇ。ほんで、話って?」

 ―ああ。


 颯希の顔が、また曇った。


「あのな、自分(オレ)って、一体何者やろう?」


 その言葉の意味は、剛には分からなかった。しかし、ただならぬ思いが颯希の心を締め付けている。それだけは感じ取れた。


「お前の質問に対する答なんかどうかは分からんけど…」


 少し間を置いた後、剛は口を開いた。


「お前は何者…って、俺にとってはツレや。もっと言うなら、親友。俺はそう思ってる。」

「ありがとう。でも…」


 剛なら何でも話せる。そう思って呼び出した相手だ。自分を大切に思ってくれているなら、嬉しい。しかし、聞きたいのはそれじゃない。


「職場には、パートの女性が何人か居て、その人らの作業のサポートが自分(オレ)の仕事。製品運んだり、くっそ重たいシャフトを機械にかけたり…」

「キツイんか?」

「キツイ…正直言うたら」


 物品を丁寧に扱い、一定動作を繰り返す作業は、パート従業員の仕事だ。その現場に居る男子従業員の仕事は、彼女達の作業の段取りをする事。重い物品の運搬なんかは…


「“男”の作業…らしいわ」

「それでお前も任されたんやな」

「でもな…」


 元々小柄で華奢な颯希に対し、その重量感は積もりに積もり、身体を破壊していくが如く負荷をかけてくる。かなりキツイ仕事なのだ。


「周りの者が、口を開いたら『男やろ!』って抜かしやがる。アイツらは別に『キツイ』とも言わへん。自分(オレ)はアイツらとは違うんか? 別の人種なんか?」


 少し口調を荒げ、そう言うと、颯希は腕を捲った。


「筋肉付いたな。細い腕やったけど、ちょっと男らしい腕に…」

「言うな!」

「え?」

「男って…男って一体何や!?」


 どうしたものか? 剛は激しく困惑した。


「べ、別にゴツイ体とか、力自慢とか、男にそんな定義なんかあらへん。あ、いや、何か間違うたかな。え、えっと、体の構造…かな。」

「あるモン付いてたら男ってか? あぁ、訊いたのが間違いやった」

「おい、颯希! そんな言い方ないやろ!」

「ほな、も一回訊くけどな、男って何や!? 自分(オレ)は職場でも…親父にも、男扱いされてへん。でも、付いてる。付いてるだけで、男やないんやて。“オネエ”らしいわ! お前が言う通りやったら、俺も男やのに…」

 ―颯希。

「この腕。ゴツゴツして太なってきたこの腕。自分(じぶん)は男や思てんのに、この腕が違和感でしかない。怖い。何でや!? なぁ、タケ。男って何なんや!? 教えてくれ! 何や!? 男って…なぁ!」


 颯希は涙ぐんだ。

 剛は颯希に対し、言葉を返す事が出来ず、ただ茫然とした。

 2人は、店を出た。



「帰れるか? てかお前、帰っても誰も居らへんな」

「大丈夫や。気ぃ紛らしたかったら、ギターがある」

「そうか…」


 夜の道を、ゆっくり歩く。時折通る車のライトが、眩しい程に目を刺激する。2人はお互いの顔を見る事もなく、ただ前を向いて、横に並んで歩いていた。

 住宅街に入り、小さな公園のベンチに座った剛が、ようやく今の思いを声に出した。


「すまん、颯希。親友とか抜かしながら、何も役に立てんかったな」


 剛の言葉に、ふと顔を向けてみる。颯希は右手で拳を握ると、少し笑いながら剛の頬に軽く当てた。


「クッソ役立たず!」

「何やと!? ボケ!」

 ―あはははははは!


 今度は剛が拳を返した。

 思いっきり笑ってみた。笑う程に目頭が熱くなった。そして颯希は剛の顔を見て号泣し、心の中に閉ざしていた“不安感”とも喩えられそうなモヤモヤした思いを声に出して呟いた。


「タケ…自分(オレ)、女かもしれん…」

読んでいただき、ありがとうございます。


父親に頼れないなら、いや、こんな場合は家族より親友に頼った方が、気が楽なのかもしれないですね。

だけど、そんな親友とて経験のない事。戸惑うのが自然で、それは悪い事じゃなく仕方のない事。

何とかしてあげたいのだけど、剛はどのように対応するのでしょう?

傷付く言葉は御法度ですよ。

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