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第1章 卒業〜8〜

第1章〜8〜

即興インストゥルメンタル曲のパターンを組み立てるため、4人はスタジオへ。

どのような練習をするのか?

スタートです!

 この日は珍しく、4人一緒にスタジオへ向かった。巨漢の彰人がドアを開けると、一番に入ったのは颯希だ。


「お? 珍しいやん」


 颯希、彰人、剛、礼。いつもと違う順番にオーナーは少しキョトンとしながらも、4人を笑顔で迎えた。


「今日はCスタしか空いてへんけど、ええか?」

「TAMAっすね。あと…」

「アンプはフェンダーとローランド。ベーアン(ベースアンプ)もローランドやわ」

「了解っ!」


 使い慣れたのとは違う機材になるが、今日は打ち合わせがメインだから、音質はさほど問わない。剛はオーナーにそう伝えると、Cと書かれたホルダーの付いたキーを受け取った。



「まず、何から始める?」


 スタジオに入った4人がそれぞれ機材のセッティングを済ませると、剛が切り出した。


 その言葉にいち早く目を輝かせたのは、礼だ。

 このバンドにいて少し強がっていた礼だが、明らかに他の3人から遅れを取ってしまっている。それは否定しようがない。いざスタジオに入ると、もう誤魔化しようもないのだ。


「はは…もう逃げられへんな。よしっ!」


 礼はそう呟いた。


「譜面なかったらろくに弾けへん。俺、やっぱりお前らにはついていけてへんねや」


 ―そんな事はない。

 そう言いたかった剛だが、否定すれば、尚更礼の悔しい気持ちを抉るかもしれない。特に何も言葉にせず、礼の顔を見て頷く。


「な、なぁ、颯希。2人に演ってもらって、俺、アドリブ弾いてみる。お前、それ聴いてアドバイスしてくれ」


 礼はギターを手に取った。

 186cmもの長身。肩から下げられた愛器・シェクターが、小さく見える。大きな手に包み込まれる様に握られたネック。


「キーはAm。6弦5フレ(フレット)のポジションで、バレーコード(人差し指で全ての弦を押さえて構成する和音)押さえて」


 礼の腕は長い。軽くヘッドを上げ、ネックを立てる様にすると、簡単に押さえられる。


「Amっていう事は、平行調(長調と短調の関係)はCか」

「平行調は考えるな。ロックの基本はマイナーや」

 ―お、おぅ。

「そしたら、6弦5フレからスケール(音階)弾いてみて」

「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ…」

「ドレミは考えんでいい。(押さえる)ポジションを指に叩き込むんや。頭で考えてたら、テンポについていけへんぞ」

「そう…やな」


 礼だって、長らくこのバンドでギターを弾いている訳だから、戸惑う事はない。

 しかし、独学でここまでやってきた。そして、好きな楽曲をコピーして練習してきたのだから、基礎に関しては、いささか未完成感が否めない。

 剛の単調なベースラインに乗せて、礼はしばらく音階を刻んだ。



「ナチュラル・スケールには慣れたな。それと、もう一つ多用されるスケールは…」

「ペンタトニック(5つの音で構成される音階)やな?」

「まぁな。ペンタ覚えといたら、ええ感じにはなる。でもな、礼にマスターしといて欲しいのは、ブルース・スケールや」

「え、えっと…」

「A・C・D・D#・E・G。コイツが使えたら、平行調でもブルージーに弾ける。さっき『平行調は考えるな』言うたんは、そういう事や。このパターン覚えといたら、キーが何でも、ポジション変えるだけでOKや」


 礼の、アドリブの特訓が始まった。徐々に他のパートも加えていき、それぞれがアドリブを混えながら、約4分間のインストゥルメンタルの楽曲が作られていった。


 何度も何度も音を外した。リズムが狂った。テンポが遅れた。それでも、最後のステージを飾りたい。そんな想いが4人を掻き立てる。


 いつしか音のズレは解消され、自然にブルースノートが響き、完璧とは言えないまでも、その演奏は誰に聴かせても恥ずかしくないレベルに仕上がっていた。


「いける!」

「ええ感じや!!」

「最高やんけ!」

「おぉ、楽しなってきた!!」



 この時の颯希の表情は、とても頼もしかった。20cmをはるかに超える身長差から、いつも礼を見上げていた颯希だが、この時ばかりは不思議と大きく見えていた。


「颯希、サンキュな!」


 礼とて、Nick Shock ! のメンバーとしてギターを弾くのだから、アマチュアレベルとしては高い演奏力を持っている。その大きな手をフルに活かせば、その幅をさらに広げる事が出来るはずだ。


 手が小さく、指が短い颯希と比べても、オーソドックスな奏法については有利だ。

 礼は颯希自身からそうアドバイスを受けた。


「俺には俺の…」

「うん。礼にしかない有利な特徴は、活かさな勿体ないやろ?」

 ―確かに。

自分(オレ)には出来ひん事、礼は出来るんや。自信持って“ドヤ顔“しようや」


 自信を持つ。

 今の颯希からそう言われると、何も言い返す事はない。そんな、普段とは違う自信たっぷりの、堂々とした颯希の姿に、礼は言葉に出来ない何かを感じ取っていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


沢山の用語が出てきました。

その中で、ブルース・スケールと言うキーワードが。

そもそもブルースって、アメリカ南部を起源とする黒人霊歌の発展形だそうで、そこからロックをはじめとする様々なジャンルに影響を及ぼしたんですね。

本文中にもあるように、音階は特殊です。

でもこれが、ナチュラル・スケールを用いた主旋律を持つロックやポップスにだって、マッチするんですね。

主にギターの間奏などで多用されています。

半音がいくつも入るので、少し意識して聴いてみると面白いかもしれませんよ。

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