第4章 疑惑〜17〜
第4章 〜17〜
自分の置かれた立場が、深い葛藤の要素になる。
秘密にしておきたい…否…。
そして、仲間の幸せ舞台は近付く。
莉玖のスマートフォンにメッセージが入った。
どれぐらいぶりだろう? 名古屋に居る詩織からだ。
Soundboxでのライブの後、京都駅での事が思い出される。元気そうな文面を見て、ホッとした。
『穂花から聞いたよ! 日向君に告ったって?』
『それも随分前の話よ』
『そうなんや。上手いことやってるのね!』
その、本題はというと―。
『穂花から招待状来たの!』
『わっ! 詩織にも行ってるんやね。で、出席するの?』
『もちろん! しない訳ないやん』
『やったぁ! じゃあ、久しぶりに会えるんや!!』
いよいよ仲間の結婚が、莉玖と詩織の心の中で現実化してきた。
穂花側の立場から、彰人の事をいろいろ考えてみる。
路上ライブのシンガーにそそのかされ、穂花の指にリングを嵌めた彰人。
逆に言えば、シンガーが何もしなければ、緊張のあまりリングを渡す事も出来なかったかもしれない。
緊張とは無縁のような男も、大舞台となると駄目だった。
それが―。
『アッ君…頑張ったのね!』
友達の幸せを喜ばない人なんて居ない。
もし自分が颯希と結婚するとしたら、詩織は喜んでくれるのだろうか?
―何を今更。
でも、ここに来るまでは彼女が障壁だったのも否めない事実。
少なくとも、莉玖の心の中では。
颯希のスマートフォンに、彰人からメッセージが入った。もちろん、おめでたい話だ。
『後日招待状送るけど、そういう事やぁっ!!』
何ともご機嫌なメッセージだ。
友達の幸せを喜ばないなんて、あり得ない。
だが颯希には、並行して不安な気持ちがある。
最終的に2人の糸を結んだのは、路上ライブのシンガー、即ち颯希だ。それも素敵と言える事実なのに、その時の颯希は、颯希であって颯希ではない。
普段とは全く別の自分。
八坂署の西田が呼ぶそのキャラクター、“ギター女子さつきちゃん”だ。
―どんな顔して出席したらいいんやろ?
ゴミを拾ってくれているのが、彰人と穂花だった。それに気付いたから、誤魔化すように歌った。
2人も気付いたはずだから、誤魔化すように歌に乗っかってプロポーズした。
そんなところだろうか。
それで良かったのか?
兎に角、2人はめでたく結婚する事になった。心から祝いたい。
なのに、鴨川美化運動のシンガーの身バレが怖くて、深く悩んでしまっている自分が居る。
しかしそれだけではない。
式から披露宴への出席に対し、二の足を踏む理由。
―フォーマルスーツか。
スーツ姿が嫌だ。
メンズとレディースにはっきりと違いのある、スーツが嫌いだ。
男性である以上、メンズスーツを着るのが常識だろう。だけど、自分があんな姿になる事には拒否反応が出てしまう。
『余興演るから、その衣装で出席させてくれ』
悩みに悩んだ颯希だが、そう打ちかけて、送信ボタン手前で躊躇った。
―余興って、何を演る? 『Butterfly』(木村カエラ)か? いやいや、この曲を演るのなら、身バレ必至やんか。
2人を囃し立てるように歌ったこの曲。もちろんその時の服装にすれば、その姿はギター女子さつきちゃんそのものだ。
―いや、何をそんなに固執する? 別にあの服を着る必要はないぞ。
そうは思ってみたものの、やっぱりスーツが嫌だ。何故だか分からないが、兎に角スーツが嫌なのだ。
その時、剛からメッセージが入った。
『おうっ! ゴリの結婚式、もちろん行くやろ?』
もちろん行く。親友であり、バンドメンバーの彰人だ。そして、踏み出せない思いを後押ししたのも、剛のメッセージだ。
『何かしらんけど、お前の歌で結ばれたのかもしれんって言うとるぞ。披露宴でも歌ったれや』
颯希はハッとした。
やはり2人は気付いていたのだろうか? ならば、何を隠す必要が、躊躇う必要があるのか?
その瞬間に颯希は男だった。男として、剛のメッセージに返信した。
『余興やし、思いっ切りやるで!!』
読んでいただき、ありがとうございます。
莉玖の心に積もる不安。
この時点では、もう詩織は親友として認めても大丈夫でしょうね。
一方の颯希。
身バレが怖い。
親友のために、大嫌いな服装を要求される。
だけど心から祝いたいんですね。
親友の幸せ舞台、颯希はどう乗り切るでしょうか?
それはまだまだ先に引っ張りますよっ!




