第4章 疑惑〜11〜
第4章 〜11〜
気付いてないフリ…
自分はもう、どっちでもいい。
そしてまた、自分の行動を疑ってしまう。
「へぇ〜! 莉玖、やるやん!!」
穂花は、莉玖が起こした行動に嬉しさを感じた。
恋に迷っていたあの日の莉玖とは違い、随分積極的になったものだ。
「で、日向君はどう言うてたん?」
「それがね、気付かへんのかなぁ」
「でも、化粧品置いとくなんて、イコールお泊まりやん。それぐらいは…」
「思うやん? でも気付いてへんの」
―気付いてないフリしてるだけ。
そういえば、莉玖は颯希の事を「好き」と言った。しかし、颯希からの答は聞いていない。
あのライブのエンディングで、自分を受け止めて微笑んだ颯希は、全身優しさに溢れていた。何故かその時、「来てくれたんやな」と聞こえた気がした。
間違いなく颯希は、自分の事を大切だと思ってくれている…はずだ。
それは、思い過ごしなのか?
金曜日の夕方、颯希はギターを背負い、四条大橋へと向かった。
道路利用申請はその都度済ませてあるが、挨拶のため、まずは八坂署に立ち寄る。
「こんにちは」
「あらぁ、颯希ちゃん。今日は一段と女の子やねぇ」
窓口に居たのは、西田だ。もう颯希の事を女性と信じてしまっているかのような口振りだ。そして颯希自身も、もう言い返す気も起こらない。というよりは、完全に受け入れてしまっている。
―一段と? まぁ、そやな。
髪の左サイドを耳に掛け、後毛を垂らしている。莉玖が言ったように、男子がやってはいけない訳ではない。とはいえ、さながら女子の容姿である。
少し肌寒さを感じる夕暮れ時。羽織ったいつものオーバーサイズのパーカーが、服装までも女子っぽく見せてしまう。
颯希自身それは自覚していたし、ましてや西田にかかれば、もはや男子扱いなどしてもらえる訳もないだろう。
そして、歌い始めたその楽曲は―。
『365日の紙飛行機』(AKB48)
子供の頃に憧れたアイドルグループ。
その歌を、自分もメンバーになった気分で弾き語る。
丸みのあるハイトーンヴォイスは、優しいメロディをより優しく歌い上げる。
「次は、弾き語りを始めるきっかけになった曲です。『壊れかけのRadio』聴いてください」
何人かの通行人が、足を止めた。
彼らは皆、中年と見られる人達。
この歌を聴いて、青春を過ごした世代なのだろう。
一旦自宅に帰り、自分時間として颯希を手伝いに来た西田も同世代だ。青春の思い出を噛み締めるかのように聴き入っている。
「あの女の子、上手いな」
「徳永英明の高い声やったら、女の子でも歌いやすいんやな」
そんな声が聞こえてくる。完全に女子と思われている。
元々女子と間違われる事も多かった颯希だけに、この日の髪型なら当然だろう。
このひと時―。
何故か心地良かった。
いつもなら、女子と間違われても「男子だ」と言い返す。しかし颯希は、そこに気付かない間にストレスを感じていたのかもしれない。
―女子と思うなら思ってくれ。自分はもう、どっちでもいい。
美化運動は、徐々に効果をもたらし始めていた。四条大橋周辺から、ポイ捨てされたゴミが見当たらなくなっていた。道路使用許可を出した西田の鼻も高い。
もちろん、颯希もこの結果に満足し、清々しい気持ちで、帰りの地下鉄に乗り込んだ。
ところが―。
―何やってんねや、自分。
コンコースから地上へ上がる階段の途中、突然自らの行動を疑ってしまう。
さっきまでの気持ちはどこへ?
清々しさは、どこへ消えたのだろう?
女装している訳ではない。髪を耳に掛けているだけだ。それなのに、あたかも女装しているかのように映る。
自己嫌悪?
言葉にならない思いを持ち帰り、自宅のドアを開けた。
ギターを背から下ろし、声を張ってカラカラになった喉をうがいで潤す。尚も鏡に映る自分に違和感を感じる。
何をどうすれば、この気持ちが癒やされるのだろう。
ふと棚に目が行く。
それまで存在していなかった物が、目に入る。
颯希は、そっと手を触れた。
「莉玖の…化粧品…か」
読んでいただき、ありがとうございます。
『365日の紙飛行機』って、あれ聴くと話す事が出来ないんです。
話していると涙声になってしまうんです。
好きだな〜、あの歌。
『壊れかけのRadio』、良いですよね!
徳永英明さんの声、本当に沁みますよね。
さて、颯希君。
なんか女子化してますね。
高原にはいろいろ言われてるんだけど…大丈夫なんだろうか?




