第4章 疑惑〜1〜
新章に入る前に、是非お読みください。
本章より非常にデリケートな描写が展開していくため、本作にはR15を適用しています。
本作はフィクションでありますが、主人公・日向颯希のキャラクター設定にあたっては、綿密な取材の下、メッセージ性を持たせた内容とする事とし、作者・日多喜瑠璃の身近に実在する少数派の方の同意・承諾を得ています。
当該案件に関するご質問等については、お受け致しかねます事をご了承下さい。
また、差別・偏見・誹謗中傷といった内容が含まれると判断したコメント等は、削除対象とさせていただきます。
以上、ご理解いただいた上で読書をお楽しみいただくと共に、社会へ向けたメッセージ的要素を感じ取っていただければ幸いです。
第4章 疑惑〜1〜
「まぁ、飲めや」
厄介な男は、正社員への推薦を受けるために頑張った。そして、試験に合格した。
「あぁ、莉玖ちゃん。いい所で会うたわ」
「こんにちは。どうかしたの?」
もう高校生なのだからと、母親は颯希にお洒落をするよう勧めた。音楽に熱中するのもいいが、たまには服装にも目を向けて欲しいと。
もちろん颯希だって、お洒落に興味がない訳ではない。
ただ―。
「どんな服着たらいいのか、分からへん」
だから母親は、女子の目で颯希がかっこよく見える服を見立ててやって欲しいと、莉玖に頼んでみた。
莉玖とてお洒落に関しては得意ではないが、颯希の母親の頼みならと、二つ返事で引き受けた。
「河原町にファストファッションの量販店が何軒かあるし、サッちゃん、行ってみよ。安く買えるで」
「あ、あぁ…」
2人は地下鉄に乗り、市内屈指の繁華街・河原町へと出かけた。
河原町周辺といえば、颯希にとっては楽器店へ行く時などによく通る。とはいえ、洋服店などは覗いたりしない。
洋服を買いに行くのは、近所のスーパーと併設するショップぐらいだろう。
三条京阪駅で電車を降りると、人波に呑み込まれそうになる。
車窓はトンネルの壁ばかりだが、動物園や平安神宮、祇園や八坂周辺へのアクセス駅を通っているため、観光客で溢れかえっている。
「いつの間にかこんなに仰山乗ってはったんや」
「ねぇ」
2人はあくまでも幼馴染だ。お互いを異性としては見ていない。なのでデートのようなワクワク感を持っている訳ではない。
それでも、洋服というものは“メンズ”と“レディース”で形や柄が異なり、そう言った視点では男女を意識しない訳にはいかない。
互いに似合う似合わないを指摘し合いながら選んではいるのだが―。
「サッちゃん、これなんかどう?」
「何かそれ、好きになれへんわ」
「そう? かっこいいのにな…」
「あ、あっちのがいい!」
「え? あ、あれレディースやで」
「サイズ合うで、ほら」
自分で服を選ぶ―。
どうも形や柄が好みに合わない。
何を着れば良いのか分からない理由は、そういう事だったのだ。
*
2年の月日が過ぎ去った。
MUSE LABでは、Nick Shock ! は最早伝説と化している。
莉玖を抱きしめた事で、少し気恥ずかしさを覚えた颯希だが、その後、止まない出演依頼に応え、5回のライブをこなした。
大学生である剛と彰人、そして莉玖や穂花も、就職活動や卒業論文の作成に追われる時期になった。
皆が落ち着くまでの間、ライブ活動は休止。颯希も、ここぞとばかりに残業や休日出勤をこなし、貯金を増やしていく。
―みんな落ち着いたら、南条さんに会いに行こう。
そう約束した。
つまり、自費制作でのアルバムリリースを、実現に向けて動き出そうという訳だ。
何もかも順調に進んでいく。
そんな風に見えた。
「課長、受かりました。日向、俺も正社員や。よろしくな!」
契約社員は通常、2年で正社員への採用試験が受けられる。
高原は頑張った。
太田課長からきつく叱られて以降、貪欲に仕事をこなし、改善活動にも積極的に参加した。契約社員でありながら部署への貢献度が高く、その活躍が認められたのだ。
高原を苦手としていた颯希だが、その頑張りにより職場の雰囲気も向上した事から、以前とはかなり印象を変えていた。
「飯食いに行こう」
いつも無口な徳永からの誘いだ。
高原のお祝いも兼ねて、仕事を共有する者同士、たまには一緒に―。
「行きましょう! なぁ、日向」
「あ、あぁ」
正直、このような席は得意ではない。しかし、帰宅しても1人きりだ。断る理由が見当たらない。
少し躊躇いながら、颯希も参加する事にした。
それは、良かったのだろうか?
「何や、もう酔うたんけ?」
「あ、うん…自分、弱いみたい」
高原は、クスッと笑った。
徳永は高原に、無理に飲ませないよう注意した。
しかし、元々声を張らない徳永の注意など、高原には届かなかった。
「分かってますよ。なぁ、日向」
酒に弱い訳ではない。高原がどんどん飲ませるのだ。
「お前、ライブハウスでめっちゃ人気出てるんやて?」
「めっちゃって…それはないけど、箱の方から誘いは来るようになったわ」
「凄いやんけ。まぁ、飲めや」
そう言って高原は、颯希のグラスにビールを注ぐ。
「アレけ? あの高い声で。腹話術みたいな…ははは!」
「腹話術ちゃうっちゅうねん!」
「まぁまぁ、怒らんと。飲めや」
「もうええって!」
「気にすんな。こんな時ぐらい飲んだらええねんて」
「だからぁ…」
颯希も初めは上手くセーブしていたが、音楽の話、バンドの話を言葉巧みに話されると、つい自分も熱くなってしまう。
そして、知らぬ間に飲まされていた。
「日向って」
名を呼びながら、高原は颯希の両肩を掴んで揺する。酔いはさらに回る。
あまり触れられたくない颯希は、高原の手を振り解いた。
「もぅ…やめてってぇ!」
その口調に、高原は堪えきれずクスクスと笑った。
週明け月曜日の昼休み、颯希は休憩室の雰囲気がいつもと違う事に気付いた。
何故か居心地が悪く、すぐに席を立つと、B室工場内のデスクに向かって座り、頬杖をついた。
読んでいただき、ありがとうございます。
年齢的にはお酒も飲めるようになりました。
しかしまぁ、呑ませ上手って居るんですよ。
上手い事喋って、自分はあんまり飲まずに人に勧めてばっか。
私はあんまり好きじゃないです。
酔わされたら、あとから辛くなりますもんね。
みんなで楽しく酔いたいです。




