第3章 告白〜14〜
第3章 〜14〜
ここまで、恋も仕事も学業も、夢中になって突っ走ってきた。
払拭しきれないものだって、身体をリズムに預けてしまえば、どこかへ吹っ飛んでしまう。
様々な想いは、今、音となって観衆を包み込む。
特別版でお送りする、Nick Shock ! の熱いライブ、開演です!
※3000字を超えます。
少し遠慮がちに伸ばし、遠慮がちに明るく染めた髪。
白いTシャツは、裾部分に染料を染み込ませた刷毛を一振りし、肩の部分には大胆に切り目を入れる。
ボトムスは豪快にダメージ加工を施したスキニージーンズ。
「独特やな」
剛にしてそう言わしめた。
ド派手なのに、愛器・レスポールが映える。ステージに立てば、ちょうどいい感じだろう。
「俺らには似合わんやろな」
そう言って彰人は、颯希を足元から髪までゆっくり目線を移動させる。
「お前、目つきヤラシイねん。それだけは止めろや」
「いや、ははは…お前それ、意外とええやん」
「意外って言わんといてっ! あたしが一生懸命考えたんやし」
「そうか。ほな、めっちゃカッコええやん」
「莉玖やから言うて言い換えるな!」
―わっははは!
彰人は、ロックバンドのロゴが入ったTシャツに、デニムのショートパンツ。これがいつものステージ衣装。全身をフルに使うドラムスは、動きやすい方が良い。
剛は、フェイクだがレザーパンツ。真っ白な無地Tシャツに黒いベストを羽織る。典型的なHRバンドのスタイルだ。
「さぁ行くぞ!」
「しゃあっ!!」
通い慣れた箱、小ぢんまりしたステージも、勝手知ったるもの。
サッとセッティングを済ませ、音合わせも完了。
「こんばんは! Nick Shock ! です。5月に久しぶりにこのMUSE LABに帰って来ました。今日は、5月とは全く趣の違うライブをお見せします…んやけど、いつからか1人足らんくなってますね。お、お〜い…」
剛のMCでスタートする。
脱退した礼を、滑稽に探す素振りを見せると、観衆から笑いが起こった。
「あ、ノッポ君、遠いとこの大学行く言うて、脱退しました。彼の想いは、俺らが良いライブをする事で叶うと信じてます。今日は、全曲Nick Shock ! のオリジナル曲を披露しましょう。じゃあ、行くぜっ!!」
ジャーーーーン!!
彰人の合図から颯希のワンストロークでオープニング。
颯希のギターソロ、剛のスラップから彰人のドラムソロ、そして3つの音が重なり、「インスパイア」が演奏される。
もう3人にとって当たり前となった、テンションコード。しかもリズムまで外す。
これには観衆もどよめく。
流れるように、バスドラムがリズムを刻み始めると、スライドバーが被せられた颯希の中指がフィンガーボードを滑らかに滑る。
そしてヴォーカルが―。
剛だ。剛の低音ヴォイスが8小節、リードを取る。そこから颯希にチェンジし、8小節進むと、ストレートなロックンロールパターンを16ビートで奏でる。
とてもノリが良い曲だ。
初披露というのに、サビになると観衆までもが「Hey !」と声を発する。
―これや! この感じ!!
―気持ちええ!!
「『クルーズ・オン・ハイウェイ』…ありがとうっ!!」
歓声が沸き起こった。
それを鎮める仕草で、剛が両手を前に出した。
「ここから、俺たちの初めてのアコースティック曲を聴いてください。『Believe』」
静かになった会場に、アコースティックギターの音色だけが響く。
イントロから、ハーモニクスを合図にベースとヴォーカルが入る。
BメロはFM7のノートが印象的だ。夏の終わりから秋へ移ろう季節感が、音だけでも伝わる。
サビからはドラムスが入り、観衆からも手拍子が聞こえる。
会場に、優しい空気が流れる。
演奏パターンが変わり、間奏が入った後、ベースのみが演奏される。その間、颯希はギターをアコースティックからレスポールに持ち替える。
静かに奏でられるベースラインに、颯希の優しい声でBメロが重なる。
そしてそこからは、一気に盛り上がるサビパターンが繰り返される。
―Believe in myself !
エンディングでは、剛に加え、彰人もコーラスに参加した。
驚いた事に、彰人はファルセット(男声の裏声)を綺麗に決めた。
会場は一気に盛り上がり、涙する者も。
そしてそれは、颯希を見守る莉玖の目にも―。
拍手が止まない。
それでも時間は守らねばならない。
剛のMCが、観衆を引き寄せる。
「次が最後の曲です! 『Wow wowow』と言ったら『Year year !』と、『Hey !』には『Hey !』と返してくださいっ!」
「行くぜぇっ!! 『Blacklist !』」
―ダッダッダダダ…!!
同じ失敗は繰り返さない。
ちゃんと伝えた。そして、伝わったはずだ。
颯希のハイトーンヴォイス、剛のヘッドヴォイスが、Am7のノートが醸し出す雰囲気に溶け込む。
彰人のシンバルに追随し、観衆は腕を突き上げる。
間奏のギターは完璧だ。堕ちてゆく様を表現したフレーズから、バスドラムの響きへと続く。
―ダッダッダッダッ…!
そして、タムの連打を合図にかけ合いが始まる。
「Wow wowow」
―Year year !
「Wow wowow」
―Year year !
「Hey !」
―Hey !
「Hey !」
―Hey !
「Hey !」
―Hey !
「Hey !」
―Hey !
「Ahーーーー!!」
成功した。
これだ。これが欲しかった。
会場と一体に。
観衆は石ころなんかじゃない。間違いなく“人”であり、“仲間”だ。一体になれてこそ、最高のライブなんだ。
曲はエンディングへ。
大盛り上がりを見せたNick Shock ! のライブが終わる。
持ち時間ギリギリだというのに、アンコールの声さえ聞こえてくる。
そんな中、客席で1人ソワソワと落ち着きのない莉玖。
―頑張れ。
詩織はそう言って背中を押した。
「恋」だと、穂花は言う。
幼少の頃からずっと一緒に居た颯希。
小さく華奢だけど、どこか逞しささえ感じるようになった、堂々としたその姿。
「恋」だと、自分も思う。
離れてはいけない。
離してはいけない。
―化粧、上手やな。
Soundboxでのライブの日の、あんなに張り詰めた空気の中でも、颯希はそう言ってくれた。
気にかけてくれていた。
この想い、きっと颯希は受け止めてくれるはずなんだ。
もう迷わない。迷ってなんかいられない。
莉玖は穂花の顔を見た。
穂花は微笑んで頷いた。
観衆が見守る中、その衝動を抑えきれなくなった莉玖は、出せる限りの声でその名を叫んだ。
「サッちゃーーーん!!!」
大歓声の中、颯希は振り向いた。そして、莉玖と目が合った。
「莉玖ぅ!!」
声が届いた。
優しく微笑む颯希の目に、吸い込まれそうな感覚を覚えた。
莉玖は、ゆっくりとステージに向けて歩き出す。
「ほら、行けっ!」
穂花がその背中を押した。
莉玖の想いは一気に加速し、軽やかな足取りで段差を飛び越え、ステージに駆け上がった。
颯希の腕が、莉玖の体をしっかりと受け止めた。
「サッちゃん…」
「莉玖!」
「サッちゃん……好き!」
「莉玖…あはは…」
―うわぁ〜〜〜♡
歓声はさらに大きくなった。
颯希は、受け止めた腕を少し伸ばし、莉玖の顔を見て笑った。
「莉玖…あはは……恥ずかしいやん」
「いいの…一緒やから」
颯希は莉玖の肩に左腕を回すと、観客席に向かって右手を上げ、大きく振った。
歓声は、またさらに大きくなった。
―Nick Shock ! Nick Shock ! Nick Shock ! Nick Shock ! ……………
読んでいただき、ありがとうございます。
恋は盲目…
これを良い意味に捉えると、こんな行動もある意味盲目なのかな。
加速した恋は、止められません。
観衆が見守る中、莉玖、やりましたね!
あらあら、小道具さんとスタイリストさんがスタンバイしてますよ。
第4章に移る前に、ちょっとお化粧直しです。




