第1章 卒業〜6〜
第1章〜6〜
このままでは、本当にこじれてしまう…
颯希と穂花の直接対決、始まります!
その翌日、颯希は3組と4組の間の柱にもたれかかり、落ち着きなく、廊下を行き交う生徒達を目で追っていた。
「あ、莉玖…」
プイッ―。
あからさまに颯希を避けるかの様に、莉玖は目の前を通り過ぎた。
今、言葉を交わしたり一緒に歩いたりなど、出来る訳もない。とはいえ、あまりにも不自然な態度もどうかとは思うのだが。
莉玖が怒っているのは、つまらない噂の原因を作ってしまった事なのだろう。だとすれば、何をどう話せば理解してくれるのか?
余計な事を言えば、それだけ溝を深めるばかりだ。
「どうしたの? 喧嘩でもした?」
「誰?」
「んもうっ! こないだ言うたとこやろ? 酒井。酒井穂花っ!」
―はぁ〜、お前やん、引っ掻き回してんの。
「何で自分なんかに構うんや?」
―何でってぇ。
「あのな、言わしてもらうけどな」
颯希が穂花の顔を見る。目線の高さが同じ事に気付く。
「変…変な噂立てたん、お前やろ!? 『済んでる』って、何がやねん!? 自分かて気が落ち着かへんかったら、ええライブなんか出来へんぞ」
「ちょっと待って。『済んでる』とかって、あたしは知らんよ」
「タケのグループメッセージに入ってたんや。お前、知らんねやったら、誰が言うとんねん!?」
「それは、ホンマに知らんねん。誰か勝手に膨らましてるわぁ」
―原因作ったん、お前やんけ! 余計な事しやがって!!
本音はそう言いたかったのだが、少し言葉を和らげた。
穂花を気遣ってではない。
瞬時に考え直せば、火種は自分だ。
その後に返ってくるかもしれない言葉を想像すると、強く言えなかっただけだ。
「ライブって、こないだ頼んだ文化祭のやね? 何で? 堂々としたらええやん」
案の定、謝罪的な言葉など皆無だ。自分が先に言葉を荒げたなら、返ってくる言葉も、“ド”が付く程の直球だった事だろう。
―堂々と。
そういえば、同じ事をみんなから言われている。という事はやっぱり、自分は堂々と…してないのか。
「あ…のな」
言おう。言ってしまおう。恥ずかしくなんかないから。そう自分に言い聞かせ、思い切って言葉にしてみる。
「こないだのあれ、ぺ、ペンケースな…」
「あ、あれね」
穂花は、同じ目の高さから颯希を見た。そして、先日の様にかがむ仕草で、少し低い位置から顔を覗き込んだ。
「知ってるで。日向君のやろ?」
「は?」
これまた拍子抜けだ。きっと誰かから聞いたのだろう。
「日向君が可愛いの持ってる事なんてな、あたし、何とも思てへんねん。みんな知ってる事やし。そやけど日向君、なんか焦って福島の名前出したやん」
莉玖の名を出した事。少し気恥ずかしかったから、莉玖の物と言ってしまった。それだけだ。それだけなのに―。
「実は気になってんのちゃうん? よう一緒に居るのに、付き合おうて思わへんの? その気ないんやったら…」
「もうええわっ! やめろっ!!」
かなりイラッと来た。その気がないのなら、何だ?
思い返せば、高3になった今でもまだ女子と交際した事もない。
バンドに熱中するあまり、誰かのために時間を費やすなんて勿体無いと思っていた。
別に誰と付き合うとか、そんな事をしなくても、すぐ側にいつも莉玖が居た。それでいいと思っていたし、莉玖が側に居るのも、ただ幼馴染だから。そういう理由のはずだ。
「自分の事は自分自身が決める。お前にどうこう言われる筋合いはないねん!」
「でも…好きなんやろ? 福島の事」
「……」
スパッと返され、何も言葉が出て来ない。
好きじゃないと言えば、それは嘘だ。でも、付き合いたいかと言えば話は違う気がする。
「分かったって。あたしが福島に謝ってくる」
穂花は走り出した。
「お、おいっ!」
颯希は穂花を呼び止めようとしたが、それでも追いかける事はしなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
SNSやなんかが普及して、手軽にグループメッセージが送れる現在。
その拡散能力は本当に凄いですね。
私は「誰と誰が付き合ってる」とか、そういう情報には疎かったのですが、何でもよく知ってる子って周りに居たし、そんな情報ってどうやって仕入れるのか不思議に思っていました。
もしかしたら穂花みたいな子が居たのかな? なんて思いながら、恋バナのストーリーを書いています。