第3章 告白〜12〜
第3章 〜12〜
返品分の再検査が進まない。
それは、練習にまで響く。
しかし、颯希のひと言に、皆が歓喜した。
夏の終わりと言うにはまだ気温も高い、9月初旬の京都。
日が暮れるのも早まり、いつもの時刻、いつものように通り過ぎる新幹線も、夜空を走る流れ星のように煌々と光を放つ。
ふと見ると、莉玖のスマートフォンにメッセージが入っていた。
『アッ君から聞いたよ。大丈夫?』
穂花だ。
颯希の職場に高原が居る事を聞きつけ、心配して声をかけてくれたのだ。
『うん、大丈夫』
そう返信すると、辺りを見渡してみる。
警戒すればするほど怖くなる。事が起こった訳でもないのに。
莉玖は再び自転車に乗ると、スタジオに向かって全力で漕ぎ始めた。
「あ、あれ? サッちゃんは?」
そこに居たのは、剛と彰人。少し焦ったそうに手足を動かし、予約時刻間際のロビーで颯希の到着を待っていた。
「まぁ…仕事なんやろな」
―ふぅ〜。
さすがにリーダー職ともなると、いろいろ忙しいのだろう。
そんな風に話しながら、3人は颯希の到着を待った。
「あの…このあと待ち合わせが…」
なかなか帰らせてもらえないのは、返品分の再検査が急がれるからなのだが、面倒な事に高原がやたらと絡むため、段取り良く進まないのだ。
「待ち合わせって、練習っすか? リ、ー、ダ、ー??」
しかしこれには、さすがの徳永も顔をしかめた。
「高原なぁ、普通に喋れ」
「あ、すみません」
「別に自分かて、リーダー面して上から物言うてる訳ちゃうしな」
「下からっすもんね! ヒッヒッヒ…」
ああ言えばこう言う。本当に面倒くさい。
そこへ神崎が心配そうに現れると、高原は急におとなしくなった。
「高原! お前邪魔になんねや。早よ帰れ!」
「主任。日向が帰りたいらしいんで、帰らせてあげてください」
「お前が邪魔するから作業が進まんのや!」
熊のような男・神崎の一喝で、高原はそそくさと帰って行く。
自分が作業したのだからと言って、何かにつけて機械を停める。一度“良品”として扱った、本件と無関係な部分までを、ああだこうだと言って話をややこしくする。
神崎はそれを分かっていた。
「すまん、日向。練習やろ? 帰ってええぞ」
「ありがとうございます、主任」
「金山さんも、遅うまでご苦労さん。あとは俺と徳永がやるさかい、帰り」
気難しいが義理堅い神崎のおかげで、颯希はようやく会社を後にし、スタジオへ向かう事が出来た。
「ごめん!」
「気にすんな。仕事やろな」
「うん。でも、遅刻してしもた。抜けられへんから、連絡も出来んかった」
「ええから、ええから!」
50分間の枠で練習のつもりだったが、颯希は20分の遅刻だ。充分な練習時間を取れなかった。
仕事なのだから―。
そう言うが、少し心苦しい。
一方、不安感を抱くのは他の三人だ。
また1年前と同じ事を繰り返すのではないか? 颯希の体力や気力が心配だ。
しかし颯希は言う。
「前みたいなストレスはないで。仕事終わったら、全部自分時間や」
この言葉が逆に不安に拍車をかけるのだが、今の颯希は本当に強くなった。
それは、皆がそう思うところだ。
颯希は胸を張った。そして言った。
「高原は阻止したで!」
どう言う事か?
皆が驚く中、颯希は少し笑った。
「日付、間違えて教えてん。嘘ついたん違て、間違えて秋分の日て言うてしもてん」
「おおっ! マジかっ!!」
「マジ? よっしゃ!!」
「うん。マジで間違えてんけど、訂正はせんかった。そしたら今日、めっちゃ怒って嫌がらせ言うてきよった」
高原が再検査の邪魔をした事。
颯希がライブの日付を間違えたのを真に受け、前売りチケットを買いに行った。
そして、別のチケットを購入し、敬老の日には他の予定を入れてしまった。
あとから気付いた高原は、仕事中颯希に対し、嫌がらせ行為をした。結果、当該作業に携わる全ての人に迷惑がかかった。
そしてそれが、神崎の目に留まったのだ。
「でも、あとが心配やわ」
それはそうだろう。しつこいのも高原の特徴だ。
その日の朝―。
「おいコラ! 日向! お前、嘘言うたやろ!!」
「何がや?」
「ライブの日!」
「え? 秋分の日や言うたやん」
「マジで言うとんのけ? 9月15日…」
横で聞いていた金山が、颯希に声をかけた。
「日向君、それ、敬老の日やで」
間違えた。本気で間違えてしまっていた。
「ええっ!? ごめん」
「謝らんでええわ。来て欲しないんやったら、そう言えや」
―うんまぁ、図星やけどな。
高原は、この言葉使いで徳永から叱られた。
そのあと、“さん”を付けて颯希を呼んだのだが、その言い方についてもまた叱られた。
「とりあえず高原、真面目にやらんかったら正社員の試験には推薦出来ひんぞ!!」
翌朝、太田はかなりきつい口調で高原を叱りつけた。
読んでいただき、ありがとうございます。
じわじわと嫌がらせ行為を繰り返す。
この陰湿な行為が、残念ながら現実社会にも起こり得るものなのですね。
颯希のように、上司に守られる身。
それは、普段から真面目に頑張るが故。
イメージって大切で、例えば仕事が上手く出来なくても、真面目に働く姿が評価されるなら、職場から大切にされるもの。
そうあるべきだと思います。




