第3章 告白〜10〜
第3章 〜10〜
颯希の職場にて。
クレーム対応…
リーダーになり、初めての案件に、颯希は走り回る。
そこに現れたのは、厄介な男。
ライブを1ヶ月後に控えた8月、最高気温38℃を上回る酷暑の中、汗だくで走り回る颯希の姿があった。
どうやら高原が担当した製品の中に、欠陥が見つかったらしい。
―オーライ、オーライ!
構内に大型トラックが入ると、太田課長、神崎主任、徳永室長と共に、職長心得の肩書を持つ颯希も倉庫に向かう。
「えっ?」
「嘘やろ!?」
開かれたトラックの荷台を見て、皆が口々に驚きの声を発する。
「これ、全部やそうです」
運転手は、右手で円を描くように積荷を指した。
欠陥が見つかったのは僅か1ケースのはずだが、そこには何と、同日出荷の計30ケースが返品されてきた。
「ちょっと待て! 連絡受けたんは1ケースやぞ!!」
さすがに太田も憤慨し、担当の営業マンに電話をかける。
営業マンも困惑した様子で応える。
「すみません。書類も手違いみたいです。今、修正版送ってきたんで、FAXしときました」
颯希は急いで事務所に走り、2枚のFAXを手に取り、また倉庫へ走ると、一方を太田に手渡した。
それぞれのFAXを見比べてみる。
『納入された30ケースの内1ケースに、梱包材の段ボール破損が見られ、内部に欠陥が確認されたため、使用を停止しました』
「ほら、書いてへんやろ?」
太田は手に持ったFAXを徳永に見せて言った。
「いえ、日向君、それ貸して。課長、ここ、『全品』が足されてます。全品使用を停止って事ですよ、これ」
「はあ〜!? 29ケースは使ってもらえへんのか?」
「クレームです。全品再検査しろと…」
兎にも角にもまずは開梱し、該当部分の確認をしなければならない。
「高原か?」
「違いますよ。彼は梱包までしか担当してないです」
「梱包材の破損が製品まで響いてるっていう事やろ? これ、運送ちゃうか?」
上司達のやり取りに、颯希は違和感を覚えた。
運送が破損させたのなら、何故この会社で責任を?
「なぁ、日向。やったのは運送やったとしても、製品はうちで補償する。それから今度は、うちから運送に賠償してもらわなあかんっていう流れや」
「とりあえず、潰れた段ボールはたたんでくれるか?」
「はい、分かりました」
そこへ、高原が現れた。休憩時間になり、心配になって工場を離れて来たと言う。
自分が仕上げた製品だと言い、居ても立ってもいられない素振りを見せる。
「心配すんな。お前のせいとちゃう」
「でもまぁ、とりあえず見とけ」
そう言われて高原は、休憩時間内のみ現物確認に立ち会った。
その時―。
「日向! 何してんねん!?」
突然、神崎の野太い声が飛んだ。
梱包材の段ボールがあまりにも硬く、容易に折れてくれない。仕方なく颯希は、床に置いた段ボールに膝を付き、力任せに折り曲げようとしていた。
神崎は、そのやり方が気に入らなかったようだ。
「見とけ! こんなもんな、斜めに立てて蹴り入れたら終いやんけ! ほら!!」
神崎の体重によって、段ボールは1発で折れ曲がった。
「男やろな! 女みたいに上品な事してんと、ガツンといけや!!」
「あ、すみません…」
それを背中で聞いた高原は、思わずクスッと笑ってしまった。太田はそれを見逃さなかった。
「こら! 何も可笑しい事ないぞ。笑うぐらいやったらお前がやれ!」
「あ、はい、すみません」
そうこうしている間に、休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「高原、とりあえず現場に戻ってくれる?」
「了解です」
高原は颯希の指示を受けると、ニヤリと笑って工場へ戻って行った。
「日向も戻っていいぞ」
「あ、いや、見学させてください」
徳永が抜け、高原が居る現場。
颯希は直感的に、戻りたくないと思った。
今は真面目に仕事をしているとはいえ、高原は高原だ。高校生の頃を思い出せば、暴言やハラスメントの絶えない、あの男である事は変わりない。
嫌な胸騒ぎがした。
その夜、スタジオにはいつものメンバーと莉玖が来ていた。
少し浮かない表情で現れた颯希を、3人は心配そうに見た。
「ちょっとな。仕事上の事やけど…」
「また残業とか?」
「じゃなくて」
仕事の話をしたところで、3人には分かる訳がない。何があったかなど、伝えようとしても意味がない。
しかし、この名前だけは―。
「高原が居るねん」
「高原ぁ!? あの高原け?」
「何でや!? 何で彼奴が居るねん?」
「ニートやったらしいけど、契約社員で来とんねん。しかも同じ現場に」
少し震えていた。
その様子を、莉玖は見逃さなかった。
今の颯希の姿。それは、自分に自信が持てずに俯いていた、高校生の頃のそれに似ている。
ならば、今こそ自分がしっかりしなければ。
―サッちゃん…あたし、守ってあげたい。
莉玖は心の中で、そう呟いた。
読んでいただき、ありがとうございます。
ものづくりに携る人にとって、クレームは恐怖以外の何でもありませんね。
私もよく分かっていないのですが、注文コードみたいなのがあって、その内のわずか1個に問題があっても、そのコードに該当する製品は全部駄目と判断される事…食品などはそうですよね。
生産者にとっては理不尽じゃないかって思うのですが、問題を起こしたのなら仕方ないのかなぁ。
面倒くさい厄介な男・高原が、じわじわと出てきます。
クレームのみならず、この鬱陶しい部下の対応も迫られます。
よりによって、こんな時に弱点を見られてしまうのですね。




