第2章 独立〜35〜
第2章 〜35〜
いよいよNick Shock ! の登場。
厳しい条件の中で練習を重ねてきた3人は、自らの実力を超えるかのような力を発揮する。
会場の盛り上がりは予想以上だが、その中で密かに火花を散らす者も居た。
※3000字を超えます。でも、ストーリーに入り込めば、あっという間かも。
私こと作者の力も試されるところですね。
髪色に合わせたエクステが靡く。
颯希は、まだ伸びきらない髪をロングに見せる。
いよいよNick Shock ! のステージだ。
12月、冬の始まりだというのに、ライトで熱せられたステージ上の温度は高い。
髪をかき上げる仕草をして、チラッと客席に目をやる。
―凄い!
満員となった客席には、総数350人が密集する。想像以上の大舞台だ。
「僕らの後輩、紹介します! 高校を卒業したて。そんな若い3人の、情熱溢れるステージをご覧ください!! Nick Shock !」
南条からのコールを受け、彰人がドラムスを叩く。
オープニングは「Freewheel Burning」(ジューダス・プリースト)だ。落ち着け。落ち着いて演れ!
緊張が走る中、颯希のギターがAmの8分音符を刻み始める。
彰人のドラムスがアップテンポでリズムを刻み始めると、剛のベースが入り、疾走感のあるリフが鳴り響く。
―おおーーーっ!!
どよめきにも似た歓声が聴こえる。
パワフルで歯切れの良いロブ・ハルフォードのヴォーカルが特徴的なジューダス・プリーストの楽曲を、女声のそれにも似た颯希の丸みのあるヴォイスが歌い上げる。
少しぎこちなさを感じさせる颯希の英語発音だが、早口言葉のような部分も何とかこなす。
圧巻なのは、間奏のギターだ。
ヘヴィ・メタル特有の、見せる、そして魅せるリードギターは、目にも留まらぬ速さの指遣いからドラマチックな展開へ。
本来なら2人のギタリストが奏でるメロディに、颯希は1本のギターで挑む。
剛のベースが、彰人のドラムスが、それをサポートする。そして、音圧を落とす事なくアドリブで切り抜ける。
「これよ! これがNick Shock ! の実力よ!!」
圧倒されるように観入る詩織と穂花に、莉玖は叫ぶように言った。
自分が彼らの事を一番知っているとでも言うかのように、激しく鼓動する胸から言葉を吐き出すように大声を上げた。
客席の一部から、歓声と拍手が湧いた。脇谷の率いる、剛の大学の軽音サークルだ。
すると、それに釣られるように会場全体に拍手が広がった。
―いける! これはいけるぞ!!
3人は、続けて2曲目の「Back in Black」(AC/DC)へ。ミドルテンポの、ヘヴィかつストレートなロックンロールで、これもかなりのハイトーンヴォイスだ。
サビに入ると、剛の野太いヴォイスがバックコーラスで重なる。
ハードロックを知る人で、この楽曲を聴いたことのない人はいないかもしれない。それ程の名曲故、観衆からも叫び声が聴こえる。
間奏のギターソロでは、決して広いとは言えないライブハウスのステージだが、アンガス・ヤングよろしく颯希は右へ左へ駆け回る。
「こんばんは! “肉食”のNick Shock ! 」です!!」
剛が挨拶のMCを入れる。バンド名の意味に少し笑いが起こり、会場が和んだ。
3曲目は「We Rock」(DIO)。
彰人の合図と共に、3つのパートが一気にスタートする。最初の8小節に、ドラムスのアレンジをかなり入れたので、まるでオリジナル曲のように入っていく。
その激しさをさらにヒートアップさせるように、うねりのあるAmのギタートーンが16分音符を刻みながら、迫力あるリフを奏でる。
ヘヴィ・メタル界では代表格とも言えるヴォーカリスト、ロニー・ジェームス・ディオの声量は、目を見張るものがある。激しいバックトラックに呑み込まれないよう、腹式呼吸の練習を積み重ねた。
声質は変えられないが、可能な限りエッジを効かせたヴォイスで、颯希は歌い上げた。
練習期間は決して長いとは言えない。多少荒さも感じられる。
とは言えこれらの楽曲を3ピースバンドでこなすには、演奏テクニックはもちろんアレンジ能力も重要だ。
これに関しては、客席の反応も良好だ。
「こんな素敵な会場で、こんな素敵な観衆の皆さんの前で演奏させていただけるなんて、とても光栄です!」
剛のMCに、拍手が湧き起こる。これだけの規模、これだけの人数は、初体験だ。
今まで、小規模ライブハウスで演ってきた。
観衆は石ころと思え。それは、緊張を解すためのおまじないとして言ってきた。
ここは違う。
この客席からの圧は凄い。彼らは石ころではない。一体化しなければ!!
「ここから、僕らのオリジナル曲を披露させていただきます!」
剛が叫ぶ。
彰人のドラムスのフリーソロから、シンバルとバスドラムの連打をバトンのように受け取り、颯希のギターのフリーソロへ。
ハーモナイズドチョークのロングトーンをバトンに、剛のベースのフリーソロ。激しいスラップから徐々にリズムに乗ってゆく。
ドラムスが入る。徐々にテンポが上がってゆく。
BPMを150から130に落とし、持ち時間に対応すると共に、テクニックを披露するのにも余裕を持たせた。
颯希のギターが、16小節のリフを奏でる。一気に音圧が上がり、楽曲は展開されていく。
―俺がリズムキープする。お前らは思う存分やりたい事やれ!
彰人は、颯希と剛にそう言った。この言葉に応えなければいけない。持てるテクニックを出しきれ!
「あ! これっ!!」
詩織が気付いた。テンションコードだ。コード進行から音を外す、文化祭ライブでみんなの度肝を抜いた、あのプレイだ。
「いいえっ! ここからよっ!!」
―え? 何よ、このテンション??
しかしそれだけではないと、莉玖は詩織の言葉を押し潰すように声を重ねた。
その声は詩織の耳元に響き、詩織は少し迷惑そうな目をしてチラリと莉玖を見た。
そのプレイは、練習を見てきた莉玖だけが知る、さらなる高等テクニック。颯希は、彰人と剛がキープするリズムからも、わざと音をずらしてしまう。
―凄い! 凄いぞ颯希!!
―お前、本番でこれを演るか!!
眩暈でも起こしたかのようなギターソロ。それは、「Black Dog」のエンディングを思わせる。
非常に難易度が高いが、Led Zeppelinのコピーを再三演ってきて、颯希はそのテクニックまでも習得していた。
これには彰人も剛も驚かざるを得なかった。倒れる寸前まで練習を重ねてきたが、その間にこれ程までレベルアップしていたのだった。
曲のエンディングではコードもリズムも綺麗に戻り、沸騰する拍手の中、彰人のドラムソロに力が入る。
そして、インストゥルメンタルは最後のワンストロークで終わった。
「松山ーー!!」
軽音サークルのメンバーが、剛の名を叫ぶ。
穂花は触発され、彰人の名を大声で叫んだ。
「アッくーーーん!!」
「日向くーーーん!!! カッコいい!!!」
たまらず詩織も声を上げる。そのひと言に、莉玖の心が激しく揺れた。
詩織が叫ぶなど、思ってもみなかった。しかし自分はというと、何故かこういう時に限って声が出ない。理解不能な緊張感が、莉玖の全身を氷のように冷ややかに覆いつくした。
「では、最後の曲になります。途中で合図をしますので、声を出していただけたらありがたいですっ!! 『Blacklist』」
気合いが入った。
彰人はいつものように声を上げた。
「しゃあっ!!!」
読んでいただき、ありがとうございます。
ライブの盛り上がる様子、伝わったでしょうか?
世界トップレベルの実力を持つ3組のバンドの楽曲をコピーを披露した3人。
それを伝えようとする私こと作者の能力が充分なら、彼らの自身たっぷりの表情を想像していただけるのかなって…そう思いたいところです(これ自体何を言ってるのか…笑)。
そんな中、詩織の“存在”に対して心をざわつかせる莉玖。
本当は、とてもいい子なんですよ。




