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第2章 独立〜34〜

第2章 〜34〜


ライブイベントが始まった。

インディーズ・デビューを果たし、人気を博す2組。

各々の持ち味が披露される中、楽屋で待つNick Shock ! との間を行き来する莉玖は、見たこともない程に落ち着きを失っていた。

 歓声が聞こえる。


 Day Light のプライベート・レーベルを借りて自費製作し、一定の売り上げを維持するバンド、The Effect of Garlic は、明るいイメージのJ-ROCKを奏でる男性4人組バンド。

 かなりの人気のようだ。


 贅肉を削ぎ落としたかのようなシンプルなドラムセットが、軽快なリズムを刻む。

 ストラトキャスターから発せられる輪郭のはっきりしたクリーントーンが、カッティング主体のこのバンドにピッタリ合っている。

 そして、サウンドの要はシンセサイザー。爽やかな空気感をもたらす、透明感のあるトーンを奏でる。


 さすがに上手い。

 個々の実力はもちろん、各々が主張しすぎないバランスの取れたサウンドが、ヴォーカルの甘いトーンを見事なまでに引き出している。

 歌詞を、そしてメロディを聴かせるバンドとは、こういうものなのか。



 続いてはガールズバンド、淡色組織。

 20代前半と思しき女性ばかりで構成された5人組だ。


 アップテンポのロックサウンドを基調とするが、女性目線の歌詞と、しっかり作り込まれた流れるようなメロディが、何とも可愛らしい。

 ヴォーカルの女声を殺さないよう、バックトラックでは全体の音圧を抑え、間奏に入った途端、ギターとキーボードが泣き叫ぶように歌い出す。

 つまりは、全ての楽曲で全てのパートに見せ場が用意されている。


 緩急のはっきりした特徴的な楽曲構成は、先程のバンドとは全く趣の異なるサウンドだ。



 3組目が、Nick Shock ! の出番となる。


 3人はこの時、上を見て圧倒されないようあえて楽屋にこもり、MUSE LABの時のように雑談で心を落ち着けていた。

 彰人はスティックを持つ手をリズミカルに動かす。

 剛はエア・ベースとでも言おうか、両手を踊らせる。

 そんな2人の動きに合わせて颯希は、体を軽く揺らしてリズムを取る。

 緊張の中にも、笑顔が見え隠れする。この感じが心地良い。


 淡色組織のステージが終盤になる頃、スタンバイを促すため、楽屋に莉玖が入って来た。


「凄いね! 2組とも」


 ―はっ!?

 剛が振り向き、口元に人差し指を立てた。

 莉玖にはその意味が分からなかった。


「でも、Nick Shock ! も絶対負けてへんから…」

「だからぁっ!」

「え?」


 彼らの実力が高い事など、言われなくても分かっている。

 その実力に圧倒されてはいけない。程よい緊張感を保つため、敢えて気を逸らしていた。


 莉玖にはそれが伝わっていなかった。

 仕方ないだろう。いい音楽を生で聴くなど、誰もが興奮するものだ。

 しかし出番を待つ3人にとっては、メンタルを整える大切な時間なのだ。


 ―あ、あ、あたし…余計な事言うた…。


 莉玖の顔が青ざめた。珍しく焦りの表情を見せた。


「大丈夫。気にすんなって」


 颯希は少しうわずった声で宥めた。しかし、案の定気の短い彰人は苛立ってしまう。


「行こう!」


 剛はその様子に気付いた。そして、素早く機転を利かせて立ち上がった。


「特にゴリは、すぐにセッティング出来るようにしとかんとな!」

「お、おう」


 3人と莉玖は、楽屋の扉をそっと開け、その隙間から入れ替わりのタイミングを伺う。

 淡色組織のファンだろう。男女問わず、メンバー一人一人の名前を叫ぶ。そんな光景が目に飛び込んできた。


「最早アイドルか」

「みんな推しが居てるんかな?」


 その時、客席入り口の扉が開き、客の数人が出入りすると、差し込む光に照らされ、後方の席にいるグループの顔が見えた。

 剛はすぐに気付いた。


「脇谷さんや! 来てくれはった!!」


 軽音サークル総出だろうか。そのグループは、優に10人を超えていた。


「しゃあっ! 頑張るぞ!!」

「脇谷さんて、先輩の?」

「そや! 俺が行ってる大学の軽音、仕切ってはるんや」


 一方、彰人の通う大学からも、数名が来ているようだ。


「ほのちゃんが呼んでくれたかな? 気合い入るやんけ!!」


 そんな2人を横目に、落ち着かないのは莉玖だ。

 チラチラと客席を見ては颯希に目線を移す。


「莉玖がそんなに緊張してもしゃあないやん」


 颯希は微笑んで、莉玖の背中を指先で軽くポンと叩いた。


「お、お客さんの人数…凄すぎて…」

「そやなぁ。あはは…」


 颯希は穏やかに言うと、客席に目を向けた。

 そして、詩織と目が合った。


「しーちゃん…来てる?」

 ―見ないで、サッちゃん。

「う、うん」

「待ち合わせてたのって…」

「そ、そう…ね」


 会話にならない。

 笑顔ではなく、熱い視線を颯希に送る詩織。

 いや、もしかしたらNick Shock ! の3人に送っているのかもしれない。そう思えば思う程に、詩織の視線が颯希に向いている気がする。

 別にいいじゃない…そう思ってみる程に、心はソワソワと落ち着かなくなる。何なんだろう、この気持ちは。


「莉玖、どうした?」

「ん、ん、な、何か…何でもない」

「大丈夫な。俺ら気合い入れたし、バッチリ決めるしな!」


 剛は胸元で拳を握る。

 ―そうじゃない。何か分からへんけど、何か違うの。

読んでいただき、ありがとうございます。


The Effect of Garlic のギターサウンドについて。

フェンダー社の代表的機種であり、エレキギターの2トップの位置に君臨する(瑠璃の主観です)ストラトキャスターは、個性的なトーンを持ちながらどんなジャンルにも合う、名器中の名器。

颯希のギブソン・レスポールとは対極的なトーンって言えるかな。

複数所有する場合、この2機種を揃える方が多いようです。


さてさて、莉玖の心がどうしようもなくざわついています。

次回はNick Shock ! がステージへ。

お見逃しなく!!

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