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第2章 独立〜32〜

第2章 〜32〜


ライブ当日。

バンドメンバー達は、ライブハウスへ。

詩織が京都駅に降り立つ。

その時、莉玖は…

 12月4日土曜日―。

 博多行「のぞみ15号」は、京都駅14番ホームに定刻通り到着した。名古屋市鶴舞から1時間足らずの旅だ。

 時速270キロ。名古屋から「のぞみ」に乗ってしまえば、京都まではわずか35分程度。尻込みする程の長距離とまではいかない。


 弾むような足取りで2番ホーム・琵琶湖線乗り場へと向かう。されどコンコースには観光客が溢れかえり、真っ直ぐに進む事など不可能だ。


「いやっ!」


 出会い頭に、見上げる程長身の外国人男性とぶつかりそうになった。


「ゴメンナサイ…」

「の、の〜ぷろぶれ…む…」


 発音もおぼつかない、完全な日本語英語で答える。男性は少し笑った。


 ―あたし、英語の成績悪かったねんなぁ。


 12月に入ったばかり。まだ冷え込みもさほど強くないこの時期。

 初めてのボーナスを見越して買った、キャメルイエローのレザージャケットを羽織り、セーターとスカートは明るい同系色で纏める。そしてロングブーツ。肩より少し下まである髪をアレンジし、大人っぽく片耳を出す。

 少し背伸びしてみた。自分に出来る、目一杯のお洒落をしてみた。


「莉玖はどんな服着て来るかなぁ」


 琵琶湖線に乗り換えて、ひと駅移動して下車すると、詩織はジャズライブのあとで颯希と話したベンチを横目に、まずは実家へと向かった。



「莉玖〜、そろそろ行かなあかんのちゃう?」


 働いてるんだから、いい服着てお洒落して来るのだろう…そんな風にしか回らない頭で、出かける準備も捗らない。


 もう高校生ではないのだから、少しぐらいは化粧もしておかなくてはと鏡に向かってみるのだが、残念ながら自分はそのセンスもテクニックも持ち合わせていない事ぐらい、人に言われなくても分かっている。

 無理をする必要はない。普段通りの自分でいい。それでいいはずなのに、詩織がどんなお洒落をしているのかが気になる。


 一緒に歩くのだから、見劣りだけは避けたい…? 違う。その程度なら、ここまで躍起になる事もない。

 莉玖は気付かない内に、自分でも気付いていないその理由を口にしていた。


「あたしがサッちゃんの付き人なんやから!」


 今夜ステージに立つ颯希。

 華やかかつ奇抜な衣装を纏い、メイクを施したその姿。

 そんな颯希をサポート出来るのは、自分しかいない。そこを詩織にアピールするのなら、口紅も塗らないいつもの自分では駄目だ。

 そんな思いに縛られる。

 ショップのアドバイザーに見立ててもらった1本の口紅。その柔らかな色は、プロに任せるととても美しく、鏡に映る自分に色気さえ感じたはずだ。

 それなのに―。


「お母さん…あたし、おかしい?」


 どうしても自分で差した結果に納得いかない。


「あらぁ、莉玖。可愛いわ」

「お店で試した時と全然違う…」

「そんな訳ないやん。うふふ…」

「分かった。じゃ、これで行く」

「早よせんと、詩織ちゃん待たすで」

「うん…」


 颯希とほぼ同じ長さのボブヘアを、明るい金髪に染めた。

 胸に大きくロゴが描かれたトレーナーに、ワイドパンツ。やや薄手の黒いダウンジャケットを、少しはだけたように羽織る。

 かなり無理をしたかもしれない。少し気恥ずかしさを感じたので、黒いコーデュロイのキャップを被ってみた。


「行ってきます…」

「あ、莉玖…」

「うん?」

「めっちゃ可愛いで。お世辞抜きで」


 母親のその言葉に、嬉しいというよりは少しホッとした。



 同じ時、彰人は車に颯希と剛を乗せ、持参する機材を積み、Soundboxへと向かっていた。

 京の街並みにはまだ紅葉が艶やかに彩りを添え、その様子をひと目見んとばかりに観光客が溢れる。

 京都らしい光景なのだが、所々交通渋滞を引き起こすため、観光に無関係な者は、走行ルートを上手く選ばなければならない。


「そやからお前…」

「すまんって。三条京阪ってこんなに人来ゃはる思てへんだわ」

「観光地やて、何べんも言うたやん。あははは」

「ま、ゴリしか運転出来ひんねやさかい、せいぜい頑張ってくれ」

「早よ免許取れ! お前ら」

 ―あはははははは!


 車内は意外にもリラックスムードだ。

 とはいえ、会場に近付く程に3人の口数は減っていく。

 彰人は、車を停めた。

 その瞬間に、顔にこそ出さないものの、各々の心の中に緊張が走る。心臓がバクバクする。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 インディーズとして活躍する先輩バンドが、後を追うように到着する。この2組よりは早く着きたかったが、何とか間に合ったようだ。


 楽屋の片隅で、リハーサル前の最終確認をする。南条がやって来た。


「おはようございます!」

「おはよう」

「今日はよろしくお願いします!」

「うんうん。あ、福島さんは?」


 颯希には話していなかった。剛は言葉を濁しながら話した。


「ここは初めてっていう友達を連れて来るんです。今、待ち合わせ場所に行ってまして…」

「あぁ、そう。来たらこっち(楽屋)に入ってもろてな」

「はい」



 地下鉄烏丸御池駅―。

 新風館の前で少し冷たい風を感じながら、落ち着きなく周りをキョロキョロ見回す莉玖の姿。

 颯希達とは違う緊張を感じる。


「莉玖ぅ〜! 久しぶりぃ〜!!」


 少し控えめに自分の名を叫ぶ声が聞こえた。

 いつも教室の片隅で恋愛小説を読んでいた、夢見る少女・詩織は…


 大人びた姿で、莉玖の目の前に居た。

読んでいただき、ありがとうございます。


お化粧したり、綺麗に着飾ったり。

どう見られたいかではなく、どうありたいか。

まだまだ経験の少ない2人の、目一杯のお洒落ですね。

女子って大変だぁ。

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