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第1章 卒業〜4〜

第4話です。

剛に誘われて、2人でスタジオ入り。

音を想像しながらお楽しみいただけると嬉しいです。

 剛は颯希を連れて、いつものスタジオ「ウエストリバー」へ入った。

 4人の時とは違い、個人練習用の小さな部屋の鍵を受け取ると、剛が先に中へ。少し間隔を空けて、颯希も入室する。


 最低限の機材が所狭しと並べられている。

 2人は、それぞれの愛器と常設してあるアンプをケーブルで繋ぎ、PowerスイッチをONにする。

 15分前までは、先客が使っていた。真空管も充分に温まった状態だ。


 ジャラーーーン!


 軽くストロークして、断線などない事を確認する。


「今日は2人やしな」


 そう言いながら剛は、リズムボックスをミキサーに繋いだ。

 と、颯希が突然、「Eruption」(ヴァン・ヘイレン)を弾き始める。

 ピックで弦を弾かず、右手の指でフィンガーボード上の弦を叩き弾いて音を出す高等テクニックで、次々と連符が刻まれていく。

 しかし―。


「コラ! 俺は何したらええねん!?」


 つまりは、ギターソロなのだ。


「休んどけ。あははは!」

「アホォ! 俺にも弾かせや」

 ―あはははははは!


「何()る?」


 剛は颯希を煽るかの様に問うた。

 レパートリーは数多(あまた)ある。曲名が返ってくると思っていた。しかし、颯希の返答は剛には予想外だった。


「ん〜、とりあえず、8ビート150BPNのAmで行こか」

「え? 即興け?」

「うん。やってみようや」


 スピーカーから、いかにもドラムスが叩かれる様な音で、刻まれるリズムが流れる。

 剛は自慢の愛器であるフェンダー・プレシジョンの太い弦を叩く。


 ズン! ズン!


 野太い低音が、床を揺らすが如く響く。


 ギューーーーーーーン!!


 ピックが低音弦を激しく滑り(ピックスクラッチ)、パワーコードへ。

 AとE、2つの音のみで構成されるヘビーで豪快なサウンドが、腹の底に響くように唸る。

 そしてそのまま流れるように、颯希のしなやかな指が、フィンガーボードの上で踊り出す。


「おお! ええ! ええぞ、颯希!!」


 フィンガーボードを滑る様に、左手は低音から高音へ。煌びやかなトーンが響く。


 触発されたかのように剛の右手が、さらに激しく野太いトーンを放っていく。


「気持ちええ!!」


 颯希の2本の指にホールドされたピックが、目にも止まらぬ速さで弦を弾き、軽やかなステップを踏むかの様に踊る左手の指とシンクロする。


 それをリードするかの様に、剛の左手が、右手が、まるでブレイクダンスを踊るが如く暴れる。


 無になれる。夢中になれる。この時ばかりは、嫌な事も全て吹っ飛んでしまう。

 頭の中には五線譜。瞬時に音符が刻まれ、腕が、指が、そこに追随してゆく。


 やがて右手が強く振り下ろされ、10分程の即興演奏が終わった。


「はぁ〜っ、快感〜〜」

「タケ、お前、表現がエロいわ。」

「ええやんけ。気持ちええやん!」

「ア〜ホッ!」

 ―あはははははは!!

「なぁ颯希、これライブで演らへんけ!?」


 剛は、ふと思い立って言った。

 文化祭のライブを控えて尚、乗り気になれなかった颯希だが、この瞬間に少し熱いものを感じた。


「礼と彰人が『演ろう』言うたら、やりたいな!」

「説得しよ。持ち時間20分やし、5分ぐらい入れよけぇ!」


 2人は顔を見合わせ、互いにニヤリと笑った。



 1時間のセッションを終え、スタジオを出た2人は、その近くの公園のベンチに座った。


「なぁ、颯希」

「うん」

「お前な…」


 汗をかいた。日が落ちると気温もぐっと下がる季節。身体を冷やさない様に、上着を羽織る。


「さっきのが…あれが、お前らしさや。音楽に取り憑かれたみたいにギター弾きまくる、あれが一番お前に似合うてる姿やと、俺は思う」


 少年の頃から颯希を見てきた。莉玖程ではないにしろ、ずいぶん長い間見てきた。

 剛は、そっと語り始めた。


「あの姿があって、可愛いもん大事にしてる姿があって。中学生なっても、高校生なっても、いまだに謎があって、新しい姿があって」

「何やねん? そんな急に」

 ―あぁ。


 剛は空を見上げ、少し言葉を溜めた。


「オモロイねん。お前と居ったら」

「はは…そうか」

「なぁ、颯希。お前はお前。他の誰でもないねん。音楽以外でも…自信持てや」


 高校生活も、あと少し。卒業すれば、颯希は社会に出ていく。今のままではちょっぴり心配だ。

 心配とは声に出さないが、剛はそんな目で、表情で、エールを送った。

 高校生だからと少し遠慮がちに伸ばしていた髪をバッサリ切り落とし、初めて眉を、耳を出した。そんな颯希の横顔を、剛はチラッと見た。


「お前、髭、生えてきてるやんけ」

「そういうお前、もっと生えてるやん」

 ―はははははは!


 剛は目線を前に向け、自信たっぷりな面持ちで呟いた。


「俺もしっかり“(おとこ)”やしな」


 徐々に深まってゆく秋を感じながら、少し大人に近付いた。2人はそんな事を思っていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

髭が生え始めるのって、10代後半から20代に入るぐらいなんですね。

同級生でも、しっかり生えてる人はいました。


さて、ヴァンヘイレン。

洋楽ロック好きなら、知らない人はいないんじゃないでしょうか?

「ジャンプ」など、今でも様々な所でBGMに使われたりする楽曲ですが、1984年リリースですって。

色褪せませんね。

そのギタリスト、エディ・ヴァンヘイレンさんは、本文でも触れていますが、右手の指で弦を弾く『タッピング』というテクニックを世に広めるなど、沢山の魅力あふれるプレイで、氏をリスペクトするギタリストも多いようです。

残念ながら2020年に亡くなられましたが、ロックギターを語る上で、絶対外せない方でしょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 音楽の歴史まで説明してあって、きっとヴァン•ヘレンを知らない人でも楽しめますね^ ^ [気になる点] 何時も沢山応援有難う御座います。 やっぱり良いな、バンドって読めば読む程思える。 会…
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