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第2章 独立〜24〜

第2章 〜24〜


彰人のお話です。

バンドメンバーの前ではいつも強気だった。

そんな自分の弱い部分を思い知らされて、穂花に言った言葉は…

「喧嘩したの!? 何で!?」


 いつになく力ない彰人のひと言に、いつにも増して甲高い声が響き渡る。


 練習の翌日、音楽の講座で顔を合わせた彰人と穂花。

 バンドの3人は、いつ何時も分かり合えていると思っていた。まさか三つ巴の喧嘩なんかするとは、思いもよらなかった。


 彰人の言葉を聞いて、穂花は本当に驚いた。


「ほのちゃん、ごめんな。悪いのはたぶん、俺や」

「アッ君?」


 気が短い。それは穂花も知るところだ。

 颯希が悪い訳ではない。自ら無理を課しているのではなく、強いられてしまっているのだ。

 そんな、苦しんでいるはずの颯希に対し、何故か荒々しい言葉を浴びせた。

 そこに割って入った剛に対しても、罵るような言葉を放った。

 誰も悪くはない。悪いのは自分自身だ。もっと冷静に、気を荒げる事なく事態と向き合えたなら―。


「でもそれ、あたしに謝る事はないよ」

「いや、俺がこんな性格やから…」


 もしかしたら、いずれ穂花にも辛い思いをさせるかもしれない。そう思った彰人は、そんな自分の性格を省み、自身を卑下していた。


「アッ君の言う事は、間違ってないと思う。それは日向君が無理してるからやん。無理してほしくないから怒ったんやろ?」


 それはそうなのだ。だが、その気持ちの表現方法は明らかに間違っている。

 気難しい礼とも、よく喧嘩した。もちろん、剛や颯希にだって、何度か気を荒げている。

 そんな自分が腹立たしい。もっと、もっと相手の気持ちを深く考える事が出来たなら―。


 彰人が事情を話すにつれ、穂花の表情も険しくなってくる。

 情ない。今の彰人は、とても情ない。


「ひとつ言うていい?」

「何でも言うてくれ」

 ―じゃあ。


 穂花は彰人に、素直な想いを語り始めた。


「アッ君な、受験の時、あたしにどんな態度で話してくれた? 失恋して、補導されて、ボロボロになった“しょうもない女”に、凄く優しい言葉かけてくれたやん。髪の毛伸びた今よりも怖い顔してるはずやのに、今より優しい表情してたで、あの時。日向君には、そんな態度で接する事出来ひん?」

「ほのちゃん…」


 自分を救ってくれたのは、他でもない彰人だ。

 彰人には、そんなつもりはなかったかもしれない。でも、受験当日になっても纏まらない、ボロボロに壊れて砕け散った心の破片を、彰人との短い会話の中で紡ぐ事が出来た。


 そんな彰人が、人の心が壊れる原因を作った?


「あたし、今でも日向君の事、好き!」

 ―えっ!?


 穂花の思わぬ一言に、彰人は固まってしまう。


「でもね、『好き』と『一緒に居たい』は別。あたしが一緒に居たいのは、アッ君。アッ君と居るのが、等身大でいられて心地いいねん…」


 少し沈黙した。そして穂花は、ひときわ大きな声を上げた。


「あたし、日向君から面と向かってフラれたんちゃうで。自分から降りたんやで。詩織の気持ちを大事にしてあげたかったから」

「えっと…え?」

「正直、めっちゃ辛かった。でも、そんな気持ちをかき消してくれたんが、アッ君やん! 友達でもなかったあたしを…優しく見てくれたんが、アッ君やん。それやったら日向君との友情も大事にして! 日向君って、すっごい壊れやすいやん。そやから、もっと優しく見てあげてよ!」


 穂花の言葉が、彰人の気持ちを抉った。

 苦しい時こそ、周りからの優しさを求めている時。そんな事も気付かぬまま、苛立ちばかりが(おもて)に出てしまった。

 ―どんだけ未熟やねん。壊れろ。俺なんか壊れてまえ!


 少し躊躇いながら、重々しい声で彰人は言った。


「なぁ、ほのちゃん。俺も何やかんや言うて強がってるだけやわ。俺の事、いっぺんズタボロに破壊してくれへんか?」

 ―ぷっ!


 何を言い出すことやら。思わず吹き出してしまった。

 しかし穂花は、高校生の頃の穂花とは違う。確実に経験を積み、強くなっている。

 彰人の想いを…疑いなく察知し、受け止めた。

 そうだ。壊れてしまえばいい。

 壊れて砕け散った心の破片を必死で拾い集め、それでも隙間が出来たまま埋まらないのであれば―。


「望むところよ! 足りない破片は…」

「破片って?」

 ―う…ちょ、ちょっと…。


 惚けたような切り返しに、穂花は言葉を詰まらせた。

 少しクサイ台詞。ちょっぴり顔が赤らんだ。


 秋の匂いを感じ始める。

 花壇には、コスモスが揺れる。


 穂花はそっと右手を出した。

 スティックを握り、力一杯リズムを叩き刻むその手。


 ―大きい手。


 彰人は、その大きな体を穂花に向けると、自分の左手を握る穂花のか細い指に、右手を重ねた。

 優しくなったその目が、少し濡れる。

 穂花は、さらに左手を重ねた。

 少し髪の伸びた、厳つい大男は…溢れる涙も豪快だった。

読んでいただき、ありがとうございます。


ちょっとクサイセリフが飛び出しそうで…

ん? バカップルになりそうな予感?


たとえ好きな人だったとしても、一緒に居ると心地いいとは限りませんね。

ドキドキワクワクが止まらないのは楽しいけど、そればかりじゃ疲れてしまいます。

やっぱり等身大で付き合える人がいいですね。

ビジュアルは…良いに越したことはありませんが…笑!

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