第2章 独立〜22〜
第2章〜22〜
多忙を極め、極限の状態になった颯希。
この状況に、剛と彰人はどう対応する?
穏やかで居られればいいのですが…
※一部荒々しい言葉でのセリフが含まれます。
―何が分かる?
そう言い放つと、颯希の膝はガックリと折れ曲がり、崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
彰人と剛は、顔を見合わせた。
彰人の両手は強く握られ、石のように固くなっていた。
「お前の仕事のことなんか、知らん。聞いても俺らには何も出来ひん…出来る訳ない。そんなもんなぁ…」
彰人と颯希の間に、剛が割って入ろうとする。しかし彰人は―。
「最初から分かっとるんじゃ!!!」
彰人はキレた。しゃがみ込む颯希の胸ぐらを掴み、引っ張り上げるように立たせる。
「お、おいっ! ゴリ…」
剛は、強引に颯希と彰人の間に割って入り、彰人の両腕を掴んだ。彰人は剛の腕を振り解こうとする。
「放せ、タケ!! こいつな、いっぺんシバかな分かりよらへんねや!!」
「やめろ! ゴリ!!」
しかし剛をもってしても、彰人を止める事は出来ない。彰人は剛に対してまで暴言を吐いてしまう。
「放せボケ! コラ!!」
これには剛もキレた。
「ボケやとお!? 誰に言うとんじゃコラ!! シバかなあかんのはお前やろ!!」
今度は剛が彰人の胸ぐらを掴む。4本の太い腕が絡み合う。
再び床に崩れ落ちた颯希は、思わず2人から目を逸らした。
その時―。
「やめてーーー!!!」
突如ドアが開いて聞こえてきた女性の悲鳴に、3人はハッと我に返った。
「え?」
「何?」
呆気に取られたようにお互いの顔を見て、そのまま声がした方向に顔を向けた。
「アンタら何やってんの!? 何で喧嘩なんかしてんのっ!?」
そこにいたのは―。
「え? あ、莉玖ちゃん」
「え? え? 何で???」
「サッちゃんのお母さんから聞いたん。毎日毎日残業させられて。12月に大きいライブあるからって言うて、遅うまで練習して」
颯希とは幼馴染で、両親同士の付き合いも深い。自宅もすぐ近所。会わない方が不自然なぐらいに近い存在。
颯希の母親は、たまたま会った莉玖に、颯希の近況を話した。
少しずつ筋力は成長しながらも、気力と体力は容赦なく削られていく。最早“若いので何とかなる”というレベルを超えている。
颯希の母親は、そんな事を不安気に話したという。
「サッちゃんな、おまけに、引っ越しもしやんなんねん。部屋、契約したんやなぁ。あたし、それも聞いたで」
莉玖の問いかけにも颯希は崩れ落ちたまま、床にひざをついて項垂れている。
「引っ越し?」
「ちょっと待てや」
部屋を決めた事など聞いていない。剛と彰人にとっては、寝耳に水だ。
「あの家になんか…居てられへん…」
苦し紛れに颯希は、そう呟いた。
「お前…いつ?」
「11月頭には荷物入れていくって。ねぇ、そやんね?」
仕事とバンドの両立。そこに理不尽に降りかかった時間外労働。それだけでもハードなのに。
「家に居るのもストレスかぁ。だから言うて…」
「引っ越しも…体力要るわなぁ」
剛と彰人は、颯希の置かれる状況をようやく理解した。
いくつも重なる生活上の大きな変化に、徐々に気持ちが押し潰されてゆく。
あまりにも心配なので、様子を見に来たと、莉玖は言う。
「しんどくない訳ないやん。何でそんな無理すんの?」
「莉玖…お前…お前かて何が分かる? 仕事もライブも、引っ越しも…」
そう言いかけた颯希に、莉玖はツカツカと近寄る。
「残業せんかったら査定が下がって、職場の居場所がなくなる。練習せんかったら、いいライブなんか出来ひん。練習したら、体ボロボロ。タケとゴリは喧嘩…終わりやな」
小さな声で誰に向けるでもなく、颯希は吐き捨てるように呟いた。
莉玖の右手が上がった。
パシィッ!!
「あ、あ、あ…」
「莉玖ちゃん…お、おい…」
焦る剛と彰人。莉玖は涙声で言った。
「何もかも台無しにしていいんやったら、今のまま続けたらいい! 全部大事なんやったら、ちゃんと休みっ!! 体壊したら…何も出来ひんねんで!!」
莉玖は振り返り、続けた。
「サッちゃんだけちゃう。3人共に言うてんねんで。こんなやり方して、ボロボロになって…そんなライブやったら、あたしは観に行かへん! 面白くも何ともないわ」
「そ、そこまで言うか…」
「言うわ! ライブの良し悪しって、演る人が判断すんのちゃうで。観る側がどう感じるかやん!
『ボロボロになってもやり遂げる』って、そんなん自分勝手な美学やわ! 最高の状態で最高の演奏して、やっと“良いライブ”って言えるんちゃうの!? あたしは今までずっとNick Shock ! のライブ観てきて、そう感じてた。凄い良いライブ演ってたやん! …演ろうな、最高のライブ!」
感情が溢れ、堪えきれず、莉玖は涙をこぼした。
颯希は、突き刺さる莉玖の言葉に泣いた。
剛も、彰人も―。
心の中で泣いた。
読んでいただき、ありがとうございます。
若さゆえ…でしょうか?
ここは一致団結で乗り切りたいところなのに、つい言葉を荒げてしまう。
こんな時にしっかりしてるのは、やっぱり女子なのかな〜なんて思ったり(みんなそうとは限らないですけどね 苦笑)。
一大イベントの前に、一度喧嘩させたかったんです 笑!
ストーリー、上手く流れているでしょうか?




