第1章 卒業〜3〜
学校でのひとコマ。
ちょっと面倒な事になりそう?
颯希と莉玖は、この後どうなる?
第3話、スタートです!
次の日、莉玖の表情はこの上なく険しかった。
不機嫌の理由―。
言うまでもない。あらぬものとはいえ、恋バナの噂など、ネットの通信速度に並行して広まっていく。グループメッセージに書き込もうものなら、瞬時に複数人に知れ渡る事になる。
『3組の日向君と4組の福島さん、怪しいよ〜♡』
たったこれだけの文字を書き込み、ワンクリックするだけで、穂花の周囲はざわつき始める。さらには、それを小耳に挟んだ他の生徒達からも、どんどん拡散されていってしまうのだ。
元々人付き合いなど最小限で済ませたい。
そんな颯希は、隣のクラスであっても、付き合いの深い友人以外はよく知らないし、興味もない。
そもそも、穂花の事など名前も分からなかったぐらいだから、発言の適当さも、幅広い交友関係も、知ったこっちゃない。
そんな、自分の周りとは別世界で、まさか自分達が噂の的になっているなど、全く知る由などない。
―どうしたんやろ?
颯希を無視する様に歩き去る、莉玖の後姿。
颯希自身も怪訝に思うが、いつも仲良く話しているはずの2人が磁石の同極のように反発する様子は、2人の間柄を知る他の生徒達に対しても、只事ではない印象を与えてしまう。
「何かあったんか?」
心配そうな目で、剛は颯希の横顔を見た。
颯希は首を傾げる。それとなく平静を装うが、心の中は落ち着かない。
「いや、分からん」
「あのな、これ見てみ」
―ほら。
剛はスマートフォンを、颯希の目の前にかざす。
「え? 何やこれ??」
そこには、剛と交流のある女生徒からのメッセージが記されている。
目の前に差し出された颯希は、それを見て驚いた。
『日向と福島って、もう済んでるん?』
「たぶん、これやろ」
「ちょっと待ってぇや。こんな話、どっから?」
「よう思い出してみ? 『火のないところに煙は立たん』て言うやろ?」
少し考えてみる。
火のないところに―。
「あ!」
その時、血の気が引くような感覚を覚えた。
低い姿勢から、顔を覗き込むような仕草。運営委員と名乗った、あの女生徒。
―あいつ! 名前何やったっけ!?
穂花だ。酒井穂花があらぬ噂話を拡散している事に、今ようやく気付いた。
噂というものは、人伝に拡散するにつれ、見る見る事実から外れたとんでもない話に膨らんでいく。
「済んでるて、何がや? 何でタケんとこに、こんな話回って来てんねや?」
「ちゅうかお前、あっちこっち回ってるぞ」
―まさかあの時の?
「ちょっと来てくれ」
そう言って颯希は剛の腕を引っ張り、体育館裏へと連れて行った。
「話て?」
颯希は、昨日の出来事を剛に話し始めた。
おおよそ男子の持ち物とは思えない、お洒落で可愛いキャラクターグッズ。
授業中以外、鞄から出す事もないペンケース。
気恥ずかしさを感じながらも、自ら選び、購入し、愛用しているそれを、知らない女生徒の前で披露してしまった。
何も言わずにサラッと流してくれれば―。
何か突っ込まれる事は予想された。
だけど、あまりに目をキラキラさせる穂花の反応に、事もあろう苦し紛れに口走ってしまったその名前…福島莉玖。
「マジかぁ」
「でもな、やっぱりああいうタイプには見られたくないねん」
同じクラスの者は皆、知っている。
誰も何も言わず、それが当たり前の様に気にも留めていない。
しかし、こうなると周りの視線までもが気になってくる。
「そんなん気にし過ぎやし。見られたないんやったら、学校で使うなや。で? それで莉玖ちゃんのって?」
「言うてしもた。ちゅうか、他に誰の名前言える?」
剛の顔が、瞬時に呆れ顔へと変わった。
「お前…なぁ、『自分の』って言えや! あれが好きで使いたいんやろな。男や言うたかて、可愛いもん好きで使ってて何がおかしいねん!? もっとな、もっと堂々とせぇや」
音楽には強い拘りを持ち、バンドでははっきりした意思表示をする。なのに、それ以外ではどうだ?
いつも足が地に着いていない。
音楽に居場所を置き、その一方で学校はもちろん、自宅、私生活においても、常に定まらない自分がいる。
好きな物を「好き」と言えない。
そんな自分が嫌だ。
「まぁ、お前の性格やしな。あとでスッキリしに行こや」
「うん」
剛は颯希に、「学校終わったら、スタジオに行こう」と言った。
それはそれでストレス解消にはなる。
大好きな楽曲を愛器で思いっきり鳴らすのは、この上なく楽しい。心底スッキリする事だろう。
しかし、そうは言ったところで、大切な問題…莉玖の抱く誤解についてはどうする?
「莉玖ちゃんには、俺が言おか? お前、こんな行き過ぎた噂立てられとったら、面と向かって話なんて出来ひんやろ?」
「いや…」
これこそ自身でけじめを付けなければ。ここに人の手を借りていては、誤解など解く事は出来ないだろう。
兎にも角にも、自身の持ち物に対して莉玖の名前を出してしまった事が、そもそも間違いなのだ。颯希は剛にそう言う。
「けどお前、莉玖ちゃんはお前を避けてんねんぞ。どうやって?」
「何とかする。自分も…男…うん、男やし…」
読んでいただき、ありがとうございます。
出演が決まれば、そこに集中したいところでしょう。
でも高校生なんて、一言間違えただけで噂話の火種になる事も、ない話ではないですよね?
え? そんな事ないですか?
日多喜瑠璃は…なかったかも…
次回もよろしくお願いします!