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第2章 独立〜19〜

第2章〜19〜


夏から秋へ。

仕事もプライベートも、何かと忙しくなってくる颯希。

夢へ向かっての2歩目を踏み出す。

『いい物件あるんやけど、今から会える?』


 石坂聡太から、メッセージが入った。


 会社まで徒歩15分。自宅からもさほど遠くはない場所に、築年数こそ経過しているものの、1LDKでバスとトイレが別になった部屋があるという。


 聡太からのメッセージに記されていた内容、その物件。


 ―縁か?

 

 颯希は素早く反応し、即返信した。


『実質2部屋みたいなものですね? それも、ユニットバスじゃなくて。いいなぁ、是非見てみたいです!』

『早い方がいいと思うけど』

『今からですか? 大丈夫です。すぐ行きます」



 剛の家から帰宅し、落ち着いたのも束の間。

 仲良くしてもらっている先輩からの連絡を受け、着替えを済ませるとすぐに動き出す。


「部屋、あるらしい。見に行ってくるわ」


 そう言って立ち止まりもせず、玄関へ向かう。

 面と向かって話をすると、きっと父親の顔は歪む。おそらく、今も鬼の様な形相になっているに違いない。そんな嫌なモノを見たくはない。

 颯希は家を飛び出した。


 自分だけのことではない。だから、両親にも話はしておくべきだとは思う。しかし―。


「返事すらしよらへん…」


 ワクワク感が苛立ちへと変わる。だが、そんな気持ちでいても何も変わらない。これから自分が暮らしていく空間になるかもしれない場所へ向かうのに、仏頂面をしていてはいけない。



 バスに乗り込み、約10分。区役所に最寄りのバス停で降りると、そこに聡太と彼の父親が待っていた。


「こんにちは。日向と言います。お世話になります」

「はは…まぁそう固うならんと。親父や」


 聡太が父親を社長だと紹介すると、颯希はあらためてペコリと頭を下げた。


「ここから歩いて5分な。話はそこでしよう」

「はい」


 大型スーパーが程近くに在る。買い物も困らないだろう。コンビニも。あと、ちょっとした飲食店も近い。

 会社までは徒歩15分。これは聞いていた通りでほぼ合っていそうだが、仕事終わりに少し急げば、役所での手続き関係も可能だ。

 立地的には申し分ない。


 肝心の物件はどうだ?


「築年数は24年。まぁ言うてもいろいろ弄ってあるし、今のニーズには充分合う装備やわ」

「これって…」

「うん。元々2DKのな、核家族って分かる? お父さんお母さん、子供1人…それぐらいに対応した部屋やったんやけど」

「リノベーションですか?」

「そういう事な。そやから、古い言うたかて中身は綺麗やろ?」


 あまり知識はないが、少しだけ情報を得ている聡太が、少し冗談っぽい口調で言う。


「日向な、ギター弾く時だけはボリューム注意してな。言うても防音はそこまで効いてへん。元が古い物件やしな」

「はい。それは大丈夫です。練習はいつもヘッドホンしてますんで」


 社長は、このふたの会話に思わず反応する。

 息子がバンドマンなのだから、颯希に対しても親近感が湧いてくる。


「ほう! 日向君もギター弾くの?」

「親父、コイツな、めちゃめちゃ上手いねん。俺とは比べもんにならんぐらいや」

「そんな事ないです。言い過ぎですよ」


 そんな会話も生まれるぐらいだ。颯希はもう、この部屋でギターを弾く自分を想像している。


「ちゅうか日向君、もう契約する感じやん。はっはっは!」



 月5万3千円。

 中身は最新としても、基礎などはやはり古い。しかし、ここに住むのも10年に満たないぐらいだろう。将来的には一軒家、あるいは分譲マンションの購入といった事も視野に入れておかねばならない。

 そうなると、一時的な住居としてはかなり魅力的だ。


「念のため、他も見に行ってみる?」

「いえ、決めようと思います」


 気が早い? いや、慎重に考えた方が良いとはいうものの、おそらくは、なかなかこのような物件には出会えない。

 それは颯希自身、ネットや雑誌などからいろいろ資料を集めてきた上でそう思った。

 これはやはり“縁”だ。きっと、逃してはいけない物件だろう。決めるというのなら、他人に取られてしまう前に話は進めておくべきだろう。


「これ、一旦持ち帰らせてもらっていいですか?」

「うん。ええ話やと思うで。しっかり検討してぇや」



 物件を見たあとは、周辺を歩いてみる。

 住宅街ではあるが、比較的年齢層は高いようで、至って静かな環境だ。

 街路樹があれば、夕方には鳥が集まる事もあるが、この周辺にはそういったものも見当たらない。

「どや? 環境も申し分ないと思うで」

「はい。自分(ぼく)もそう思います」

「そうですね」

読んでいただき、ありがとうございます。


息つく間もなく颯希のもとに届いた連絡。

賃貸住宅。

会社まで徒歩15分って、通勤時間もかからず、かと言って会社に近すぎることもなく、良い条件ですよね。

買い物にも困らないなら、なお良し。

未成年なので、親の同意書が必要になります。

親?

これ、颯希にはハードル高いんじゃ?

ここをどう乗り越えるか、お楽しみに!

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