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第2章 独立〜18〜

第2章〜18〜


「しっかりせぇ」

思春期にそんな言葉をぶつけられた颯希。

躊躇いがちに剛に話した悩みや不安。

答なんてあるのでしょうか?


※一部表現上、人よっては若干不快と感じる部分があるかもしれませんが、それは全ての方に投げかけているのではなく、ストーリーの流れとご理解ください。

「お前は気が弱いから、大人になった時、心配や」


 父親はそう言った。

 それが少年の颯希には、何の事か分からなかった。


 中学生になり、自身が男子である事を意識し、女子に恋をする。

 そんな当たり前とも言える思春期の心の動きが、颯希にはなかなか見られなかった。


 恋に関心がなかった訳ではない。

 しかし、恋をした相手を手に入れたいという気持ちは、さほど強くはなかった。それより相手の持つ要素が気になって、いつも自分自身と比べていた。


 はっきりしない自分のポジションに戸惑っていた…と言えば、それに近いのかもしれない。

 気が弱いとか、頼りないとか、そんな風に見られるのも、全てはそれなのだろう。


「莉玖ちゃんの方が男の子っぽいな」


 父親は、そんな事まで颯希の目の前で言った。

 個性に目を向けずに人と比べるのも、それ自体ナンセンスだが、敢えて比較するのなら、その対象は剛ではないだろうか?


「あなた、莉玖ちゃんと比べるのもおかしいんじゃ…」

「いや、見てみぃや。莉玖ちゃんはしっかりしてるで。なぁ颯希」


 父親は、颯希を揶揄うような口振りでそう言った。

 確かにしっかりしているのだろう。しかし、颯希にその返答を求めるのも納得できたものではない。

 ここでも両親の口論は繰り広げられた。

 そしてその間に、父親は颯希の顔を見て怒鳴った。


「お前もしっかりせぇ言うとんのや!!」



     *


「なぁ、タケ」


 剛の家を出ると、2人は颯希の家に向かい、歩き出す。


 ―あれだけ話したのに。


 解消し切れないストレスや不安感は、朝になっても止めどなく湧き起こる。

 剛と自分との、生活環境や親子関係の差。

 剛と自分との間にある、明らかな体格の差。

 お互いが選んだ進路から生まれる、自身の置かれる立場の違い。


「溜め込むな」と言うのであれば、答は出なくとも兎に角吐き出したい。

 とはいえ、身体的悩みを持ち出すことに対しては、剛の反応がどう出るかといった“別の意味での不安”も立ちはだかる。

 何をどう話せばいいのだろう。それさえ分からない。



自分(ウチ)らもな、いつかは結婚して家庭持つ事になるやん?」

「おぅ、まぁな」

「そうなった時って…」


 今、一番夢中になれるのは音楽。果たして、音楽は続け出いけるのだろうか?

 まずはそんな疑問を投げかけてみる。剛は大学の軽音サークルで聞いた話を思い出す。


「子育てのためにやめてはる人も多いみたいやなぁ。そういう人って、子供が手ぇ離れたらまたやらはるんちゃうか?」

「もし…やで。その時に、もし音楽に対して情熱がなくなってたら、どうする? 何が出来る思う?」


 言われてみれば、それはとても大きな問題である事に気付く。

 剛自身、そんな事など考えもしなかった。人の意思なんて、強い様で脆かったりもする。


自分(じぶん)はな、こんな身体してるやん。安定した収入はあるけど、体力がない。かと言うて営業なんか出来る性格でもないし。仕事の虫になんかなれへん。音楽がなかったら、何してええんか分からへん。少なくとも今はな」

「まぁお前、華奢やしな。現場仕事続けんねやったら、もっと筋力要るんやろな」


 答にはなっていないだろう。それは剛も分かっている。だからと言って、先の事は自分も分からないし、ましてや颯希の事など分かる由もない。


 ―筋力か。


 鍛える事を求められるのは分かっている。分かってはいるのだが、何度考えても受け入れる事が出来ずにいる。

 確かに、背は低くても筋力さえ身に付ければ、もっと楽になるし出来る事も増えるのだろう。

 しかしそこに、さっき見た鏡の中の自分が思い浮かぶ。

 ゴツゴツした身体になるのが嫌だ。それは何故だ? それは分からない。でも、嫌なものは嫌なのだ。


「身体…変なバランスになるやん」

「チビのムキムキけ?」

 ―あっはっはっは!


 剛は冗談のつもりで笑った。

 颯希は笑えなかった。「チビ」と言われるのは構わない。周りの男友達と比べ、明らかに小柄なのは否めないし、大きな身体が欲しいとも思わない。満足はしていないが、納得はしているのだ。


 しかし、「ムキムキ」という言葉が自分に降りかかると、どこか心の奥底から拒否反応が湧いてくる。浴室の鏡で自分の姿を見た時の、嫌悪感にも似たものが。


 それは、男としておかしいのか?

 剛の体格を見れば、自分のその感情があらぬ方向に向いている気がする。

 颯希は剛から目を逸らすと、少し遠くを見て呟いた。


「ムキムキになりたない。なんか知らんけど、なりたないねん」

「そうなんか。まぁ、人それぞれ思うことはあるしな。すまん。いらん事言うたな。禁句にしよっか、それは」

読んでいただき、ありがとうございます。


小柄で筋肉ムキムキ。

え? そこ??

なんて思うかもしれないけど、ビジュアル的に不釣り合いなら、そんな筋肉なんて要らないと思う人もきっと居られるでしょうね。

颯希がそう感じるのは、あくまでもストーリー上の思想ですよ。

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