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第2章 独立〜12〜

第2章〜12〜


軽音サークルへのアドバイス。

ライブハウスでの経験から自信たっぷりの剛は、この時何かを思い、大切な事に気付きます。

それは、バンド活動でどう活きるのか?

「おい、松山! お前なぁ!!」


 煽る様に寄って来たメンバーの1人に、剛は強烈な一言を浴びせる。


「恥かきたくないっすよね?」

「あ!?」

「そのまま演ったら恥かく言うてるんすわ。人に聴かせるんでしょ? ほな、ええ音出さんと失礼やないっすか」


 本気でやるなら、先輩も後輩もない。実力のある者の助言を聞け。剛の目が、そう語った。


 確かにそうなのだ。部員バンドのメンバー達も、それは分かっているのだろう。得体の知れないプライドは、既にズタズタに破壊されてしまっている。

 しかし、彼らが剛の言葉に納得出来ないのは、“時代錯誤”とも言えそうな縦の繋がりに固執してしまっているからなのだろう。


「じゃあ、納得してもらうために、もうひとつ言うていいっすか?」


 メンバー達は、顔を見合わせた。


「何や? 言うてみぃ」

「俺ねぇ、さっきも言うたから分かってはると思うけど、ライブハウスで場数踏んでるんすよ。そこではそれなりにファンも居てくれてはるんす。いろんな角度から見ても、皆さんより力は上っす。その俺が言うてる事、受け入れられませんか?」


 脇谷は困り果てた顔で、メンバー達を見た。


「悔しいのも分かるけど、実績に叶うものはないよね」

「脇谷さん、生意気ですみません。でも、悪い様にはしませんし、もし俺のアドバイス聞いてくれはるんやったら、またこうして喋らせてもらいますよ」


 剛の言葉に、一瞬脇谷の目が輝いた。


「え!? もしかして、サークルに…」

「いやいや、入りませんて」

「何だぁ、それはダメなんだぁ〜」

「言うてるやないっすか。俺、Nick Shock ! の活動を優先したいんす」

 ―それじゃ。


 剛は、軽音サークルを見捨てなかった事に対し、少し自分を褒めながらその場を後にした。


 その翌週―。


「松山君!」

「あぁ、脇谷さん。また何か?」

「いや、実は…」


 剛は、またしても脇谷に連れられ、軽音サークルに顔を出した。


「えっ!?」

「いや、全体のボリューム上げたら、みんな自分の音が聴こえないって言って…」


 驚いた事に―。

 音が…

 元の酷い状態に戻っていた。


「あのセッティング、全部忘れてしまったみたいで…ごめんよ」

 ―何でそうなるのぉ!?



 律儀な男・彰人は、予約時間の15分前にはスタジオのロビーに居た。


「ゴ〜〜リっ!!」

「ゴツイ野郎が気持ち悪いわっ!」


 Soundboxでの南条との顔合わせ以来、初めてのスタジオ入りになる。3人各自、演りたい曲を持ち込んでの打ち合わせを兼ねた練習だ。


「颯希は?」

「ドア開けたら居るんちゃうか」

「またかぁ? て、居った!!」

 ―はははははは!

「え? 自分(ウチ)何かした?」

「何もしてへんやろ? そやから笑ろてんねん」


 剛の、妙に機嫌良さげな顔。


「逆にお前、何があってん?」

「いいや…」


 剛は少し惚けた顔を見せた後、すぐに真剣な顔になって言った。


「ええ音、作れそうや」

「どういう事?」

「2個上の脇谷さん、覚えてるか? あの人が軽音仕切っててな、俺、ちょっと来てくれ言われたんや」


 自分が参加する訳ではない。サークルメンバーのバンドが学祭で演る。そのアドバイザーだと、剛は言った。

 颯希と彰人は、少し驚いた。


「似合わん事するやんけ」

「うっさいわ! 似合わん言うな。あのな、俺、颯希の気持ちとか、よう分かったわ。教える事が、どんだけ自分を成長させてくれるかってな」

「ほな、その成長度合い見せてもらおやないかい!」

「おっしゃ! 俺の持ち込み曲や。『|Freewheel Burningフリーホイールバーニング』(ジューダス・プリースト)」

 ―おおっ!!!


 疾走感半端ない名曲だ。そして、ヴォーカルのロブ・ハルフォードは、野太い低音から突き抜けるようなハイトーンまで、自在にこなす。

「Freewheel Burning」は、主に氏のハイトーンが熱い。


「颯希、いけるか?」

「ツインリードを1本にしやなあかんな。うん、考えるわ」


 彰人はニヤッと笑っていた。


「ほな発表しよか。ジャジャン! 『|Back in Blackバックインブラック(AC/DC)』」

「熱いのばっかり持って来るやん!」


 これも、AC/DCの名曲だ。ミドルテンポのヘヴィなロックンロール。ブライアン・ジョンソンのハイトーンなシャウトと、ステージを所狭しと駆け回るアンガス・ヤングのリードギターがライブを盛り上げる。


「任せてぇや!」

「おおっ! さすか颯希」

「お前、何持って来た?」

 ―エヘヘ!


「不敵な笑いやな」

「ジャジャン!」

「『Wi Rock(ウイロック)(DIO)』

「おおーーー!!」


 かつて、レインボーやブラックサバスといったビッグバンドのヴォーカルを務めたのち、自身のバンドを結成した、文字通りHRを代表するヴォーカリスト、ロニー・ジェームス・ディオ。

 パワフルなハイトーンに、ずば抜けた歌唱力。

 颯希は、この高いハードルを自ら選んできた。


「難易度上げてきたな!」


 どよめく剛と彰人に向かって、颯希は微笑んだ。


「任してっ!」

読んでいただき、ありがとうございます。


教える事から学ぶ。

趣味でも仕事でも、ある程度熟練してくると初心を忘れてしまいがち。

教えるっていうのは、自分自身を見つめ直すいい機会で、教えながらそこに気付く。

今回は、そんなお話でした。


さあ!

演奏する曲目が決まりましたよ。

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