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第2章 独立〜11〜

第2章〜11〜


剛が通う大学。

ここにも高校の先輩が。

しかし…

 少し熱い気持ちになった週末が過ぎ、月曜日、いつもの様に大阪府の東部にある大学に、剛の姿があった。


 軽音サークルの剛に対する思いは、いまだ冷めない。この日も講義を終えた剛を追いかける様に、軽音サークルの1人であり、高校の先輩でもある脇谷宣彦(わきやのぶひこ)が声をかけてくる。


「松山君!」

 ―また来た。

「こないだの話、考えてくれてる?」


 こないだの話し―。

 軽音サークルに…しかし、それは確かに断ったはずだ。


「いや、俺、言いましたよね? 自分のバンドに力入れてるからって」

「だからぁ、言ってるじゃん。プロだってかけ持ちとかやってるって。ウチのサークルって実力ないから、松山君みたいな人が居ないと纏まらないんだよ」

「俺、プロ程の腕とか経験値ないんで、あっちこっち出来る様なスキルもないんすよ」


 東京出身の脇谷は、高校2年生で転校してきた。音楽に情熱を注ぐ者同士、わずかではあるが剛との交流があった。だから、そんな風に敢えて自分を卑下する様なセリフは、あくまでも軽音サークルと脇谷を気遣うものだ。

 しかし、本心はと言うと…


「あんなレベルの低い連中と演ってたって、自分の成長が見込めへん…」


 剛は心の中で、そう呟いた。

 もっと言うなら、サークルの実力とかどうとか、知ったこっちゃないのだ。



 その翌日も、脇谷は剛の目の前に現れる。

 さすがの剛も、困り果ててしまう。


「しつこいのは承知の上なんだけど、見に来てよ。それだけでいいから。一応俺も君の先輩だから、顔を立ててくれよ」

 ―そんな義理もないんやけど。

「ほな、1回だけお邪魔させてもらいます。でも、入部はしませんよ。何回も言うてますしね」

 ―入部して欲しいんだけどなぁ。


 脇谷は不服そうな顔をしたが、「ありがとう。よろしくね」とは言った。



 剛は別に、この大学の軽音サークルが気になって受験した訳ではない。

 音楽に関しては、ライブハウスで沢山の刺激を受けてきている。更に良い刺激があるなら、それに越した事はないのだが、お遊びレベルでは―。


 しかし、「お邪魔する」と言った以上、無視出来なくなった。もちろん脇谷の顔を立てる事も大切だし、男に二言はないという“面倒な美学”が、それを許さない。

 剛は、とりあえず脇谷に案内されて、軽音サークルにやって来た。


 既に練習を始めている部員。

 演奏技術はまずまずといったところだが、音のバランスが非常に悪い。

 皆が“自分の音”を聴きたいがために、好き勝手なボリュームでセッティングしている。

 良い音を聴き慣れた剛にとって、それは不快でしかない。


 ―あかんわ、この人ら。


 声に出てしまいそうな言葉を噛み殺し、雑音とでも言いたくなる様なバランスの悪いアンサンブルに、耳を傾けるでもなく、塞ぐでもなく、苛立ちにも似た思いで眉間にシワを寄せた。


「よう! 松山君やったっけ。聴いてくれた? どうやった?」


 他の部員だって先輩ではあるが、この男は“先輩”である事を盾に、何とも馴れ馴れしい。


「何でも言ってくれよ。東御陵高校のスター・松山君」


 何も言いたくない。褒め言葉が出てこない。

 音もノイジーなら、態度もウザい。


「ダメ出しOKやで。今の曲…」


 ベースを弾いていたこの男、伊川の言葉を遮り、耐えきれず剛は、その一言を放った。しかし、相手は先輩で歳上なのだから、ひとまずは、柔らかい口調のつもりで言葉を発した。


「生意気言うてすみませんが、音…合わしてください」

 ―は?

「ギターがヴォーカルより耳につく。ドラムスのチューニングが楽曲と合ってない。ベースのオーバードライブは、ゲイン上げ過ぎでしょ。音の輪郭がなくて、何弾いてるのか分かりません」

「あ、はは…ダメ出し…し過ぎやろ!!」


 伊川の表情が歪む。薄々感じていたであろう事実を、ストレートに指摘された。


「すみません。ライブハウスで演ってる者からの助言と思てください。皆さんひとりひとり力はあると思うので、難しいプレイより、音作りと音合わせの方を先に何とかしましょう」


 ふと見ると、脇谷の焦った表情が目に飛び込んできた。


「脇谷さん、目指すところはどこですか?」

「が、学祭…」

「ならば、全体の音のバランス、整えましょう」


 ―あれ? 俺、何やってんねやろ?


 見るだけと言ったが、何故かアドバイスをしている。しかし、言い出すと止まらない。

 剛は続けた。


「まずね、今のんそのまま録音してみましょう」

「あ、あぁ…」


 部員バンドは、ひととおり練習曲を録音して聴いた。

 言われた通り、酷い音だ。メンバーは、一様に顔を顰めた。


「楽曲は、(エリック)クラプトン中心ですか?」

「そうだね」

「ほな、やっぱりゲインを抑えましょう。ギターもベースも歪みすぎですよ」


 かなり的確なアドバイスのはずだ。その時剛は気付いた。教える事が、どれだけ自分に返ってくるのか。

 そうだ。自身が颯希から言われた事。それを改めて思い出す。そして、このアドバイスの間に“音を聴き分ける”能力がフル活用される。


 ―これは! 新しいサウンドが出来るかもしれんぞ。

読んでいただき、ありがとうございます。


軽音サークルの部員バンド。

自分がバンドをやっていた頃、確かに自分の音を聴きたくて、ボリューム上げたくなりました。

きっと聞き苦しい音になってた事でしょう 苦笑。

そこに気付いたのが、やっぱりプロアーチストのライブを観たとき。

音のバランスがまるで違うんですね。

自分達の演奏、観客席から聴いてみたかったなって今更ながら思うのです。

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