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第2章 独立〜10〜

第2章〜10〜


高校の先輩でもあるプロミュージシャン。

氏と話し、氏に思う事。

そこから生まれるものとは…

「いいね! いいね!!」

「ありがとうございます!!」

「最高の『初めまして』やわ!!」

「はい! 最高です!!」


 音楽は、全ての壁を壊し、人と人を繋ぐ。

 南条は、いきなりのセッションで3人を驚かした。しかし、3人はすぐにその意味を理解した。

 まだ少し恐縮しながらも、南条から距離を詰めてくれた事には感謝しかない。


「暑いからアイスコーヒーでも飲んで、ちょっと話そうか」


 南条は、スタッフに目で合図を送ると、ライブイベント当日の件についての話を始めた。


「オリジナル曲は? いいの出来たかな?」

「はい。お客様に楽しんでもらえるかどうかは何とも言えませんけど、僕らは思いっ切り楽しめる、そんな曲を用意してます」

「お客様には…?」

「皆さんの好みに合うかどうかは、演ってみないと分かりません。でも、演る側が楽しかったら、お客様も楽しめるはず。僕らはそう信じてます」


 南条は、微笑んで頷いた。

 その様子は、期待感に満ち溢れている様だった。

 そして、出演者に余計なプレッシャーを与えない様にとの、彼なりの配慮さえも垣間見えた。



 Soundboxからの帰り道、3人は、駅前のカフェに寄った。

 充実したひと時を思い返しながら、ライブイベント開催の12月までの間、どの様に動いていくかの打ち合わせをする。


「40分か。MC入れて、何曲演る?」

「1曲5分としたら…7曲か」

「MC5分。長くないか?」

「けど、8曲は無理やで。もう1曲減らしたいぐらいやわ」

 ―う〜ん。


 テーブルを囲んでいても、話は進まない。曲数と曲目は、やりたい曲を持ち寄ってスタジオで相談する事にした。


「チケット、ノルマとか言わはらへんだな」

「俺らが売る必要ないんか」

「メジャーとインディーズばっかりやろ? 素人て、俺らだけやて」

「ほな、自然に売れてまうんか」


 冷静に考えてみる。

 考えれば考える程、プレッシャーが大きく膨らんでくる。

 出演バンドは4組と聞いた。

 自分達は招待。即ち出演料免除。言い換えれば、他に出演する3組のバンドが持ってくれるという訳だ。

 という事は―。


「俺らのファンなんて、まず居らんやん。その中で、お客さん満足ささなあかんっちゅう事やろ」

「きっつ!!」


 何と高いハードルだろう。生半可なパフォーマンスでは、満足してもらえない。

 インディーズだって、売り上げを伸ばしていれば“プロ”と呼べる。そんな人達との実力差は埋められるのだろうか。

 にこやかに迎えてくれた南条だが、その笑顔とは裏腹に、用意された舞台は修羅場とも言いたくなってしまうものだ。

 今更だが、極度のプレッシャーが襲って来る。ところが―。


 剛と彰人の会話の間で、何故か颯希は穏やかだ。

 頬杖付いて、微笑んでいる。


「ん? どした? えらい落ち着いてるやん」

「あはっ、そうかな?」


 颯希がSoundboxでのセッション以降考えていた事。それを2人に、声を顰めて話してみる。


「南条さんな、なんか乙女チックな感じしやへんだ?」

 ―あっ!!

「言われてみたら…」

自分(ウチ)思たんやけどな、音楽って芸術やん。南条さんみたいに乙女心持ってたら、曲にもっと喜怒哀楽の表現が出来るんかな?って」


 剛は目線だけを天井に向け、少し考えた。


「ンなヘヴィな音鳴らしといて、乙女になる必要あんのか?」

「ちゃうねん。必要かどうかやなくて。あのな、男と女って感性がちゃうやん? ガッツリ男な表現、詞も曲も男ならではの感性と、逆に女の子の立場になってみて演った曲。全然違う目線で書いたり、それを聴いたり出来るって、面白いなぁ思たねん」

「ロックでも?」

「うん。男性アーチストでも女性目線で書いてる曲って結構あるやん? でもな、Day Lightの女性目線の曲聴いてみ。詞の内容、めっちゃ女の子やったりするで」

 ―ほぅ。

「そうそう、あと、ガールズバンドも出はるやん。曲に対する目線の違いとか、めっちゃ参考になるかも」

「そうか。うん、そうかもな。あとでまた、Day Light 聴いてみよ」

「そやな。同じ南条さんの作った曲でも、表現の全く違うの、確かにあるもんな」


 2人は、颯希の言う事にとても納得させられた。

 音楽は芸術。そして、表現は幅広い方がいい。

 男として、またある時は乙女心を持って楽曲と向き合えば、表現の仕方や聴く側が受ける印象に大きな変化をもたらすかもしれない。

 これからオリジナル曲を制作・披露していくにあたってのそれは、間違いなく強みとなるだろう。



 颯希の話を聞いて、剛は、ふと思った。

 彰人には気付けないであろう、幼少期から見てきた剛ならではの、颯希に対する印象。

 AKB48に憧れた幼少期。

 可愛いキャラクターグッズがお気に入り。

 周りの男子とは少し違うその服装、表情、感性、そして一人称。


 ―え? 颯希って、めっちゃ乙女やん!

読んでいただき、ありがとうございます。


音楽に限らず、アーチストと言えば「こだわりの強い、気難しい人」なんてイメージを持つ方も多いのではないでしょうか?

確かに自らの創作物に対してのこだわりは強いでしょう。

でも、その素敵な作品ひとつひとつは、優しく大らかな目で物事を見つめ、考えるからこそ生まれるものなんじゃないかなって思うのです。

ここではそれを、“乙女心”という言葉で例えてみました。

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