第2章 独立〜9〜
第2章〜9〜
一大イベントへの出演を決めた3人は、まずは挨拶のため、会場となるライブハウスへ。
高校の先輩であるプロミュージシャンの南条力の招待。この上ない程光栄だ。
これを受け、Nick Shock ! は、12月に行われるクリスマス・ライブに出演する事を決めた。
これまでは小規模ライブハウスで、アルコール類を提供しない未成年者対象のイベントに出演してきたが、今回は違う。
インディーズで活躍する2つのバンド、そしてもちろん、ライブハウス・Soundboxのオーナーである南条力のバンド・Day Light。
他の出演者を見れば、それがどういう舞台なのかは一目瞭然。
プロアーチストとの共演。それは、自身初の一大イベントだ。
Nick Shock ! は、以前から“高校生バンド”として、それなりの人気を博してきた。
もちろん、初めから「凄腕」などと言われていた訳ではなく、7回の出演経験を経て実力を身に付けてきた。
そしていつしか、高校生としては群を抜く腕前として、関係者からも知られる事となる。
当然それは、同じ高校の卒業生であり、ライブハウスを経営する南条の目にも留まる事になる。
3人が高校を卒業した事を受け、これから音楽活動をしていくための踏み台となれば―。
南条は、そんな想いを持って、3人を招待した。
もちろん、自身の後輩にこれ程までに有能なバンドが存在する事は、彼にとっても誇りである。
自らが音楽活動をしながら、南条は常にアマチュア達を見ていた。そして、将来活躍するであろう腕のいいバンドに対し、この様に自己アピールの場を与えてきたという。
いつも全力で演ってきたNick Shock ! だが、今回はその成果が現れたと言っていいだろう。
3人は、南条他Day LightのメンバーとSoundboxのスタッフへの挨拶に、現地へ向かった。
今まで出演してきたライブハウス・MUSE LABと違い、向かう道中も緊張しっぱなしだ。
「350人規模や言うてはったな」
「MUSE LABの…何倍や?」
「あそこで120人言うてはったよな?」
「3倍か。デカいな」
「プロが演る会場やもんな」
―俺らなんかで盛り上がるやろか?
そんな不安を抱えながら、ドアの前に立つ。リーダーである剛が、そのドアをノックした。
「ようこそSoundboxへ。オーナーの南条です」
予想外に腰が低い人だ。プロミュージシャンなんて、とても仏頂面で気難しいものと、勝手に思っていたのだが。
「よ、よろしくお願いします」
「ははは…固いよ。折角楽しもう思てんのに、もっとリラックスしやな」
「あ…はいっ!」
「そしたら、まず…ふふ…演ろうか」
―え?
―演ろうって?
戸惑う3人に、スタッフがギター、ベース、ドラムスティックを手渡した。
「言葉の挨拶なんて要らんよ。ミュージシャンは、まず演る。これに尽きるってね。何演る? 何でも好きなのでいいよ」
―それなら!!
「『Pictured Life』(スコーピオンズ)、いいですか?」
「おお! シブいねぇ。クラウスの声、日向君やったっけ? 出せるんや、あの高音」
「はいっ!」
任せろと言わんばかりの返事だ。
「じゃ、柳井君! 合図して」
「しゃあっ!!」
哀愁漂う美しいイントロから、Aメロへ。歯切れの良いバックトラックから、流れる様なトリル(2つの音の速いテンポでの繰り返し)へ。颯希のギターと南条のギターがハモり、美しい音色を奏でる。
スコーピオンズのヴォーカル、クラウス・マイネは、これまた美しいハイトーンヴォイスで知られる。
一般的にはこれを真似て歌いこなすのは至難の業だが、颯希はそれをしっかりやってのける。むしろ音域で言えば、颯希にとってはベストかもしれない。
エンディングは、颯希のアドリブギター。
ミドルテンポのため、持てるテクニックをふんだんに盛り込んでいける。
まずは能力を見てもらおうとするなら、持って来いの選曲だ。
やがて颯希が彰人に目で合図を送り、徐々にテンポを落としつつ演奏は終了した。
読んでいただき、ありがとうございます。
「言葉の挨拶なんて要らない。ミュージシャンは、まず演るに尽きる」
我ながら名言ではないかと 笑。
スコーピオンズは、ドイツのHRバンド。
ヴォーカルのクラウス・マイネさんは、御年75歳ですって。
最近FMで新譜が流れてたんですが、全く衰え知らずの激アツお爺さんです!




