第2章 独立〜8〜
第2章〜8〜
スタジオの続きです。
3人に、思わぬビッグな話が舞い込みます。
「さ、録ってみよ。タケな、ちょっとぐらい音程取れへんでもいいし、やめんと最後まで歌ってみてぇや」
「分かった」
彰人が『REC』ボタンをクリックし、ドラムスを叩く。
颯希のギターの単音リフを演奏。4回目にフィルイン(タムなどで一定リズムとは別のフレーズを入れる。俗称『オカズ』)。
これを合図に剛のベースが入ると、颯希のギターパターンにも変化が加わる。そこから8小節。
ドラムスとベースが休符となり、ギターのロングトーンを残すと、リードヴォーカルが入る。
このパターンをもう一度繰り返すと、いよいよ剛のヘッドヴォイスによるバックコーラスが入る。
剛は、目を閉じ、首を傾げる。しかし颯希と彰人は演奏を止めない。逆に、颯希は剛を見てニッコリ頷いた。
「ええんか? あれで」
「うん。いけてるはず。聴いてみよ」
颯希はとても穏やかな表情で、再生ボタンをクリックした。
「おぉ、カッケーやん!」
彰人も満足気だ。
「こっからやな」
「ほら!」
「あぁ、決まってる様に聴こえるな」
颯希は、剛の顔を見て微笑んだ。
剛の表情も、ほころんだ。
「イケる! イケるぞ、颯希!!」
「これは演らん訳にはいかんやろ!!」
―Fu!!!
初めてのオリジナル曲。3人の能力からすると、難易度は全く高くない。なのにメチャメチャにカッコいい。次のライブまでには完成させ、何が何でも披露したいものだ。
3人は、ハイタッチで練習を〆た。
「お疲れさん!」
「ありがとうございました!!」
オーナーは、すぐに帰らずに残ってくれと言った。どんな話があるのだろう。
少し期待感を持って、3人はロビーに出て来た。
「まぁ、ちょっと座ってぇや」
「はい、失礼します」
スピーカーのボックスにも見える、木の箱の椅子。彰人が座ると、お尻がはみ出てしまう。
颯希は、小さな体で跨る様に座った。
「オーナー、話って?」
「うん、あのな…君ら、高校って東御陵高校やったよな?」
「はい」
「うん、あのぉ…南条君て知ってる? 南条力」
「ええ。Day Lightの…」
「先輩ですやん」
南条力。
3人が通った高校の卒業生で、6年上の先輩にあたるが、プロとしてロックバンド・Day Lightのリードギターを担当する他、ライブハウス・Soundboxを経営する、憧れの存在だ。
「その南条君がなぁ、12月のパーティ・ライブに君らNick Shock ! を招待したいて言うてはるんや」
「毎年やってはるやつですよね。観に来いって?」
「ちゃうわいっ! 『出ろ』言うてはんねや」
「マジっすかぁ!?」
出演せよ―。
これには、さすがの3人も驚きを隠せない。
Soundboxと言えば、京都のみならず関西全域で見ても、かなり有名なライブハウスだ。
収容人数の多さはもちろん、その音響設備も群を抜くものだと言われる。
そして出演するバンドも、プロのアーチストはもちろん、アマチュアであってもプロと大差ないレベルだったりと、とても豪華だ。
そんな会場での一大イベントへの、まさかの招待―。
「そんな、俺らが演る様なレベルちゃいますよね?」
剛は、恐縮な面持ちで言うが…
「まぁ、そやな。ただ南条君はな、高校卒業したてのバンドとしては、他と比べて格段に上手いて言うてはる。飛躍を望むんやったら、宣伝も兼ねて、炎上覚悟で出て欲しいてな」
「炎上覚悟…かぁ」
「もちろん、それなりの条件はある。それは…」
各バンドの持ち時間は40分。その間に、オリジナル曲を最低1曲は入れる事。
オーナーは、南条が突き付けてきた条件を、3人に伝えた。
3人は顔を見合わせ、ニヤッと笑った。
「今さっき練習してたの、オリジナル曲なんですよ」
「ははは…そうか。条件整ってるか。ほな、もちろん…」
「望むところですっ!!」
3人の意思は、同じ方向を向いていた。
しかし、気になるのは出演料だ。高校生バンドとして出演していたMUSE LABと比べると、何から何までが豪華だ。
「12万…やけど、招待やて言うたやろ?」
「そ、そんな…」
「そやから、南条君の気持ちを無駄にせん様に、恥かかさん様に演るんや。君らやったら出来るはずや」
かなり高いハードルに思えた。
しかし、3人の心の中は、見る見る炎が燃え上がる感覚だ。
「演るしかないな!!」
読んでいただき、ありがとうございます。
今回も曲作りから入りました。
ビッグな話。
プロアーチストからの招待。
さすがに瑠璃にはこんな経験ありませんが…
やっぱり憧れますよね。




