第2章 独立〜7〜
第2章〜7〜
仕事をこなしたあとの休日は、自信満々でスタジオへ。
一曲作り上げるためにやるべき事とは?
夏の強い日差しを浴び、重いギグバッグを背に歩く。
スタジオまでは、バス停から徒歩5分程度。36℃を超える京都の夏は、少し日差しを浴びただけでも体力を奪っていく。
ハンディファンを手に、タオルハンカチで汗を拭う颯希と、大汗かいてTシャツが体に張り付く剛。
対照的に見える2人だが、共通しているのは「暑い」以外の言葉が出てこない点だ。
「ちょっと痩せれるやろか?」
「こんなんで痩せたら、ヤバいで」
「お前、痩せるとこないし、ええなぁ」
「アホォ! ンなん言うたら、ガリガリみたいやん!」
「今、体重ナンボや?」
「訊かんといてっ!」
―あはははははは!
そこへ、1台の車がクラクションを鳴らしてやって来た。
ゴツい体に厳つい顔立ち。その男はサングラス越しに2人を見る。
「うわっ! ヤバイ奴や!!」
「ヤバイ言うな。まぁ、乗れや!」
「ええわ。もうすぐそこやし」
「そらそや! ははは…」
彰人だ。免許を取得し、早速車を購入したのだ。
「体に合わへんの、買うたな!」
「(体に)合うのん買お思たら、中古でも高いわ」
「お!? 新車けぇ!!」
「見てみ! ピッカピカやろ」
まだ取得したばかりの免許。ぎこちない運転。
彰人は、スタジオの駐車場に、何度も切り返してようやく車を収めると、意味不明なドヤ顔をした。
「帰りは送ったるしな」
「え、遠慮しとくわ…」
―はははははは!!
社会人として働く颯希。
大学の軽音部を断った剛と彰人。
3人共、週末には時間がたっぷりある。そして、この通い慣れたスタジオに集まるのが、一番の楽しみだ。
「ゴリ、デートは?」
「学校一緒やし、よう一緒に飯食ってるで」
「そやのうて、休みの日に一日中一緒に居たりとか…」
「お前らと会えるんが土日やん。俺ら学生はいつでも時間作れるし、お前は気ぃ使わんでええぞ」
もう余裕さえ感じられる。
「穂花にとってもな、俺らがバンド活動してるのは“大事な事”なんやて。そう言うてもらえるとありがたいもんやな」
「それは俺らにもありがたいな!」
「こんにちは〜!!」
ドアを開け、3人は受付へ。
「今日はBスタやな。ほら」
オーナーが剛に鍵を渡す。そして…
「終わったら、ちょっと残ってもろてええか?」
「あ、はい」
この日は、先日颯希が披露したオリジナル曲・「Blacklist」を練習し、デモ版を録音しようという予定だ。
打ち込みでは、ギター2トラックにエレクトリック・ピアノを入れているが、今回はライブ用として、ドラムス、ベース、ギターと、ヴォーカル、コーラスの、5つのトラックのみ記した譜面を用意した。
「このハモリ(コーラス)、誰?」
剛は、彰人を見た。彰人は剛を見て言った。
「タケしか居らんやん」
颯希は剛に、頭から天井を指差す仕草で言う。
「ヘッドヴォイス(頭から突き抜ける様に張りのある裏声)」
「俺に出来るかいな」
「ベースのパターンも楽になってるし、音程取りやすうしてるし、やってみてぇや」
―こういう時の颯希って、怖いわ。
剛は譜面台にベースのトラックの譜面を置き、まずはアンプを通さずに弾いてみる。
颯希はその様子を見ながら、自分も生音で合わせてみる。
ドラムスは、比較的単純な8ビート中心のパターン。曲の展開を覚えれば、彰人にとっては何でもない。
ベースパターンだって、シンプルなロックンロール故に難易度は高くない。
大胆にアレンジを施したのはギターで、2トラックを1つに纏めた形になる。何かと忙しい。しかし、作曲、アレンジ共に颯希本人がやっているのだから、何の問題もないのだ。
剛のバックコーラスだけが難関…と言ったところか。
「よっしゃ! 声なしで合わしてみよ」
楽器の演奏はさすがだ。息の合った3人だから、1発で合わせてしまう。
「音やな。ベースの音圧、もうちょい上げよか。
「ギター単音やし、これぐらいか」
「あと、ドラムスもエフェクトかけよう」
「フェイザー(音にうねりを入れる)やな」
「も一回演ろか」
「しゃあっ!!」
録音した音は、すぐに再生して聴いてみる。
各トラック間での音のバランス、それぞれの楽器の音圧、テンポは確実に取れているか…など、観客に聴かせる事を想定して、念入りにチェックする。
「どや?」
「悪くない。うん、悪くはないと思う」
「でも納得してへんな?」
「一回、ヴォーカル入れてみよか」
「そ、そ…か。ちょっと練習さしてくれ」
何しろ、ヘッドヴォイスに自信のない剛だ。以前、礼が颯希にギターの特訓を頼んだ様に、ヘッドヴォイスでのトレーニングを申し出る。
「腹から頭へ空気を抜く。『ハー』でやってみて」
「ハーハーハーハーハー」
「男の裏声って感じやなぁ」
彰人が呟いた。颯希が切り返した。
「これでいいねん。合わしたら、ええ感じになるはず」
―自分の声が女声っぽいもん。
読んでいただき、ありがとうございます。
かつては瑠璃も、何曲か作曲しました。
PCのDAWソフトっていうのがあって、音を打ち込んで各パートのMIXまで出来るんです。
でもニュアンスを伝えるのは難しいですね。
メンバー達とスタジオであーだこーだ言いながら演る。
この過程って、ほんと楽しいんですよね。




