第2章 独立〜5〜
第2章〜5〜
颯希の、初めての作業での奮闘です。
性格、出ています。
これが、のちにどう影響していくのでしょうか。
颯希が働く部署・IP課では、4つの異なる製品形態を、4つの工場に割り振っている。
その中の颯希が配置された工場では、6台の機械に対し、4人の臨時従業員が配置されている。即ち、2台の機械はそれぞれ正社員がオペレーターとして稼働させる事になる。
B工場(B室)と称されるこの工場では、オペレーターに割り当てられた正社員も、梱包作業に従事しなければならない。
「おはようございます」
「何や、今日からこっちかい」
…ん? 何やって、知ってるんちゃうの?
室長とされる男性社員は、職長の肩書きを持つ40代だ。
真っ黒な顔、背丈も幅も、見事なぐらいに大きいが、何よりもその態度がデカい。あわよくば、「課長までも食い物にしてやろう」ぐらいの目つきをしている。
それ故に、室内の雰囲気もどこかピリピリしている。
「徳永に教えてもらえ!」
…それだけか!?
自分は何も言わないのだろうか。室長は、目を合わせる事もなくそう言い放つと、そのままデスクのパソコンに向かって眉間にシワを寄せる。
「はい。徳永さん、よろしくお願いします」
「まぁ、ゆっくりやろう」
男性オペレーターは2人。
川島という人は、定年が近いと聞く。仕事は丁寧だが、気性は荒いようだ。腕がある分拘りも強いと、皆は言う。
一方、徳永という人はとても穏やかだ。いや、穏やかを通り越して、口数が少なすぎる。しかし、颯希にとってのそれは、決して悪いものではない。
初めての作業。時間は瞬く間に過ぎていく。
午後からは、実際に製品に触れてみる。
徳永は簡単そうに作業をこなすが、やってみると、意外と簡単ではない。
ただ、製品としての可否には幅があり、完璧までは求められていないのが救いだ。“職人”にならずとも、オペレーターとして自立する事は可能だ。
15時を回り、その日最後の製品に取り掛かる。
その時―。
のっしのっしと、黒い大男が近寄って来た。
その男は、颯希の手際をじっと見ている。颯希にとって、非常に苦手な条件となる。
案の定、小さなミスをしてしまった。
「そんなもん、あっけ!!(駄目だ!!)」
いきなりそんな怒号。
呆気に取られた颯希の前に、その男・室長が割って入る。
「見とけ!」
そう言って室長は、製品加工のセッティングを始めた。
速い。そして綺麗だ。とても鮮やかな手際だ。しかし―。
「初日からそんなん言われてもなぁ」
臨時従業員の1人から、慰めとも取れそうな言葉が聞こえた。
確かにそうだ。今日始めたばかりの者が、10年以上も携わる者と同じ仕事が出来るわけもない。その人は、室長のその態度を密かに批判し、「逆にあの人が出来ひんだら、この会社終わりやん」と呟いた。
颯希は、B室の人間関係をすぐに察知してしまった。と同時に、「初めてだから出来なくても仕方ない」という臨時従業員の一言も、心の奥で引っ掛かり、燻っていた。
―このオッサンが何年かけてマスターしたか知らんけど、自分は3日でマスターしたる!
「徳永さん、今日は自分に全部やらしてください」
翌日、颯希はそう申し出た。
徳永は、声を出す訳でもなく、ただにこやかに首を縦に振った。
「悪いとこ、教えてくださいね」
徳永は、また黙って首を縦に振った。
最初はゆっくり確実に、自分で記したメモの手順を確認しながら進める。
器用さが求められる部分も、落ち着いてやれば大丈夫だ。
「日向、上手やな」
あまり言葉を発さない徳永が、その様子を見て声をかけた。
「ありがとうございます」
―何とか形にはなった。でも、時間かかりすぎやな。
褒められたにも関わらず、納得は出来ない。
2回目の作業では、少し時間も意識してみる。すると―。
「あっ」
「落ち着け。ゆっくりやり直したらいい」
「はい。すみません」
失敗した。
今は、時間より質に集中した方がいい。
失敗したものは、一度リセットして最初からやり直す。
ひとつひとつ、指を差して確認しながら工程を踏んでいく。
良いとは言えないが、製品にはなるレベルになった。
「うん、これで行こか」
徳永はそう言って、機械をスタートさせるよう、指示した。
読んでいただき、ありがとうございます。
働く上で、誰もが通る道…でしょうか。
マスターするまではがむしゃらに、マスターしてしまえば飽きてしまう。
それが仕事ですね(瑠璃だけ?)
だから、頑張っていくためには目標を立て、常に進歩を目指していく必要があるのですね。
それは、物書きだって同じだと思っています。




