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第2章 独立〜4〜

第2章〜4〜

仲間と食事を。

就職したり、アルバイトしたり…

金銭的にも、心にも、少しゆとりが出来た3人です。

 セッションを終えた3人は、ゆっくり歩き出す。ガッツリ演り込んだ後は、ガッツリ食べたいところだ。


「『本気!』行こか」

「焼肉か」

「うん。スタミナ付けよ。自分(ウチ)、明日も仕事やし」

「ゴリも頑張らんとなぁ! ヒヒヒ…」

「何をやねん!」

「タケぇ、その話は後でじっくり聞かな!」

 ―はははははは!



 梅雨の中休み。少し湿度が上がる中、3人は夜道を15分程歩き、食べ放題の焼肉チェーン店へと入った。


「成人したら、ビールで乾杯しよな」

「ホンマやねぇ」

「でも、ビールて美味いんやろか?」

「そら美味いやろ。夏なんか爽快や言うで。でないと、あんだけ親父(オッサン)らハマりよらへんで」


 そんなくだらない話をしながら、タン塩を頬張る。近年人気の厚切りタンは、歯ごたえが良い。


「なぁ颯希。仕事、どんな感じや?」


 彰人の唐突な質問に、颯希と剛はニヤッと笑った。


「先に別の話題振ったな」

「答えてくれやぁ」

「答えるって。お前の話は後でじっくり…」

 ―はははははは!


 入社して3ヶ月。部署への配属から2ヶ月。仕事にも、もう慣れたのかというと―。


「慣れるっちゅう事はないなぁ。稼ぐためっていうても、社会人て何かと面倒くさいかも」


 作業自体は、まだ充分なスキルを身につける程の日数をこなしていない。そこに関してはまだ意欲を持っていられる。

 しかし、あの臨時従業員達の、颯希を取り囲む様には、もうかなり辟易している。


「可愛いとか、女の子みたいとか、うるさいねん。仕事だけ教えてくれたらええねや」

「まぁな…う〜ん、言うたら悪いけどな、お前って、おばちゃんから見たら確かに可愛いわ。絶対」

「男顔か言うたら、そやないしなぁ」

「そやからいうて…お、カルビ美味いっ!」


 タレに軽く浸した肉を、ご飯の上に乗せる。その肉を頬張ると、軽く握った左手で口元を押さえ、場の雰囲気が暗くならないよう口を閉じた。


「続けられそうけ?」

「まぁ、何とかなるかな」

「ほな、良かった」


 自信たっぷりの返事ではないが、剛と彰人は顔を見合わせて微笑んだ。

 そして剛は、自分に対して苦笑いする。


「俺だけか、変化のない奴は」

「変化あるやろ? お前、肉ばっか違てサラダ食ってるやんけ。成長したやん」

「誤魔化すなぁ!」

 ―わははははは!



「俺な…」


 彰人は少し真面目な顔をして、自分から話し始める。


「あいつ。酒井な、文化祭以降ボロボロんなってたやん」

「文化祭以降? 補導された(1月のあの件)以降とちゃうの?」

「いや、文化祭や。理由は、まぁ…アレやけど。で、あの日も、勉強も手に付かんと、息抜きのつもりでカフェに行ったらしいねん」

「その時に、あの1件か」

「あぁ」


 何も悪い事はしていないし、学校でもお(とが)めなしではあった。

 しかしその後、校内では生徒達の間で、その話で持ちきりとなった。


 自らがいくつもの恋バナの噂を立ててきたが、それは「対象人物達が噂を踏み台に幸せになれば」と思い、気を利かせたつもりでいた。

 しかしその後、気付けば自分も恋をしていた。

 穂花は自分にチャンスをもたらそうとして、対象人物達の恋を(こじ)らせるような話に作り変えていってしまった。


 噂の中心となる事は、どれだけ神経をすり減らし、どれだけ傷付くのか―。

 穂花は文化祭直後、ある人物(莉玖)からカウンターパンチを喰らわされた。噂の中心となった者からの強いひと言は、重いだけではなく胸を抉るようだった。


 その事について誰かに相談すれば、もっと深く傷口を抉られるだろう。

 穂花は誰にも何も言えず、ただ自己反省し、自らを卑下し、徐々に孤立していった。

 そこにプラスして、叶わないと分かっている恋への苛立ちが積もる。


 その果ての、補導(あの1件)だった。


「悪い子やないねん。気の使い方間違うてただけでな」


 受験当日、顔を強張らせて1人歩く穂花を見付けた。声をかけ、しばらく話していると、穂花は彰人の腕にしがみ付き、泣き出した。


 通い慣れた高校の、友達だったはずのみんなから距離を置かれる事になってしまった穂花。

 自身で蒔いた種は、自らの目の前を遮る形で大きく膨らんでしまった。

 新天地として選んだ大学。受験生の中には知っている人物も居らず、孤独から孤独へと、同じ様な空気の中を行き来する。

 そんな不安を抱いたままバスを降りた時、そこに彰人の姿があった。


「あいつは今、俺と同じ大学の同じ学科に居る。俺が居らんかったら、あいつはずっと孤独になってしまう」


 彰人はそう言って、穂花への想いを語った。


「頼られたと思ったから、俺にはあいつを守る義務が出来たんや。もしかしたら、そんな事望んでへんかもしれん。そやけど、あいつの涙はそう訴えてるって…俺はそんな風に思たから」


 最早茶化す事も出来ない程に、彰人の表情は真剣になっていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


短気で律儀な大男・彰人。

今回は彼の不器用で優しい一面を打ち出してみました。


焼肉なのでビール…

あっ! ダメっ! まだ未成年だわ。

なんて、ちょっと焦ってしまったのはナイショで 笑。

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