第2章 独立〜3〜
第2章〜3〜
今回は、久しぶりのスタジオ。
それぞれの近況は?
「最近、どや?」
「まぁな…『軽音入らんか』言われたけどなぁ」
「俺もそれは言われた」
既に3年間活動しているバンドがある。そう言って剛と彰人は、それぞれの大学で勧誘を受けた軽音部を断っていた。
他の人と演ってみるのも、いろいろ勉強にはなる。その勉強とは、単に演奏技術や音楽理論の知識だけではなく、人によって違う癖やリズム、音階の取り方等と、いかに合わせていくかという事だが。
「そんなん、颯希の引き出しの方がよっぽど多いわ」
結局、癖は十人十色だが、技術的に優れたものがなければ何の勉強にもならない。
軽音部を見学して、剛はそう感じたと言う。
それは、芸術大学音楽学科に属する彰人とて同じだ。
クラシック音楽から始まる歴史や、ジャンルの展開などは、専門的に学習出来る。しかし、演奏となると…
「いろんなジャンルの理論は、学んで取り入れたらいい。けど、それを活かす場所が、軽音部にはあらへんねや」
2人共、軽音部の演奏力には納得いかなかった様だ。
「Nick Shock ! に気ぃ使てんのやったら、そこまではせんでええで」
颯希はそう言った。これに剛は…
「そやないねん。軽音部から学ぶ事より、お前から学べる事の方が多いし、オモロイ言うてんねや。ははは…」
そう言って苦笑いした。
「ありがとな。ほな、久しぶりに。」
褒めちぎられた颯希は、少し照れた仕草を見せた後、いつもの穏やかな話口調から、一転してハイトーンのシャウトへ。
―来たっ!! 「Black Dog」(レッド・ツェッペリン)やな!
文化祭以来のセッション。本当に久しぶりのスタジオ入りだが、礼が抜けた後も、残った3人の腕にはブレがない。
ヴォーカルから始まり、一気に全パートが入るイメージだが、僅かなズレは、逆にライブっぽくさえ感じられる心地良さだ。
かつて、エレキギターをバイオリンの弓弾くなど、奇抜とさえ形容出来そうなプレイも注目されたジミー・ペイジだが、この曲はオーソドックスなロックンロールに聴こえながら、複雑な単音構成のリフ(イントロから通して繰り返し多用される、パターン化されたフレーズ)が耳に残る。
面白いのは曲の構成で、ヴォーカル・ソロとギター、ベース、ドラムスによる演奏とのかけ合いが、流れては詰まり、また流れては詰まるといった印象をもたらしている。
各々のリズム感や、タイミングの取り方に左右される楽曲だが、3人はそれを難なくこなす。
「おおっ! この感じがええわ!!」
「タケ。タイミング、バッチリ取れるようになったやんけ」
「アホォ、ゴリ。このメンバーで演るしやんけ」
「それにしても、いきなりブッ込んで来るなぁ、颯希」
「自分らやったら出来る思てるしな」
―はははははは!
「そうそう、あのな!」
笑いを遮って、颯希は切り出した。
「オリジナル曲作ってん。打ち込んだし、聴いてみてぇや」
そう言ってバンドスコア(全パートが記された楽譜)を2人に手渡すと、スマートフォンをミキサーに繋いだ。
ダッダッダダダ――
軽快なドラムスから始まる、アップテンポの単音リフ。そして…
「これは!」
「おぉ…」
リフとヴォーカルのかけ合いだ。
「ちょっと使わしてもろた」
「ええやんけ! はは…颯希、何赤うなっとんねん」
―照れくさいわぁ。
「しかも…BLACKシリーズやな?」
「Blacklistかぁ。なかなか破茶滅茶な詞やな」
そこに颯希の声で歌われているのは、恋愛ミステイクにより、相手からブラックリスト扱いにされ、デートでセッティングしたレストランからブラックリスト扱いにされ、遂には貢いだ金額に対する支払い滞納で、クレジットでもブラックリスト入りとなる、ダメ男をモチーフにした歌詞。
「お前、ようこんな詞考えたな、はっはっは!」
「え? あはは…ゴリ、彼女も金も大事にせえよ!」
「お、俺ぇ!?」
「恋愛してんの、今はゴリだけやんな」
彰人は少し不思議そうな顔をした。
「お前ら、何で知ってるねん?」
「ていうか、相手誰やねんっちゅう話!」
「恋バナ拡散女子…あははは!」
「あ!! そやった。本人やんけ、バラしてんの…」
―はははははは!!
「後で飯食いに行って、話聞かせてもらおか〜」
「しゃあないな、ははは」
今度は彰人が真っ赤になった。
読んでいただき、ありがとうございます。
若いと、わずか2ヶ月3ヶ月でも長く感じますよね。
これは日々ときめく事が多いからですって。
高校卒業後の新しい生活の中での新しい経験。
バンドのメンバー達も、少しずつ変わっていく事でしょう。
そして、スミマセン…
また演らせてしまいました。
Led Zeppelin…




