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第2章 独立〜2〜

第2章〜2〜


今回も颯希の会社のお話です。

配属先がバラバラな同期の者とは違い、同じ部署で働く人たちとは長く付き合う事になりますね。

 颯希が配属されたIP課は、その名の通り製造課から搬入された製品の検品と梱包、そして出荷業務があり、検品業務は主に女性の臨時従業員が行う。

 この課では、男子は主に梱包・製品運搬・出荷業務を担う事になる。

 もちろん、作業をスムーズに進めるための段取り、即ち作業準備も行う他、臨時従業員への指示・指導や検品加工業務にも携わる。

 決して簡単な仕事ではない。



「日向颯希と申します。何卒宜しくお願い致します」


 少し笑いが起こった。

「固いわぁ」などと、どこからともなく声が聞こえた。

 それみた事か。研修で植え込まれた言葉使いは、現場では必要ないし、逆に笑いの種だ。


 朝礼にて挨拶を終えると、課長からの話を聞く事になる。

 IP課における作業の概要や、主な取引先などの話になる。研修で聞かされた会社全体に関する概要より、よっぽど興味深い。


 それら説明のあと、教育に関する話となるが、ここで課長に対する印象は大きく変わった。


「日向君。まずは仕事覚えてもらうために、検品教えてもらう事になるしな。その間は自分は、パートさん以下やと思といてくれ」

 ―何やねん、その言い方。


 確かに仕事が分からない間はそうなのだろう。しかし、他に言い回しはないものか。

 そもそもその言い草、臨時従業員達までも蔑んでいないか?

「ここにいる人達は皆、君の先輩なのだから、学びの姿勢を持って接する様に」と言えば、誰も嫌な気にならないだろう。

 そんな“言葉の気遣い”も出来ないこの課長も、ウマが合わない人かもしれない。



 課長の話の次は、主任から、業務内容に関する基本的な事項を教わる。


 太田主任は、一見インテリ風だが物腰が柔らかく、穏やかな口調で話す。そして、内容も分かりやすく、項目一つ一つに対し、質問はないかと尋ねてくれる。


 こうなると、人とのコミュニケーションが得意ではない颯希にとっても、それが声を出すきっかけとなり、お互いの距離感が縮まる。

 自分で選んだ会社だが、入社後1ヶ月間、かなり否定的になってしまっていた。しかし、この主任にならついて行けそうな気がした。



 午後からは、実際に現場に入って作業を教わる。


 いよいよ、臨時従業員の女性達とのコミュニケーションとなる。

 上手くやっていく自信はないが、そこは先輩達に従えばいい。特にそれなりの年齢と経験を重ねたベテランの“おばちゃん”達は、話上手だと聞く。返事はハッキリと、覚える事はきちんと覚えていけば、何も問題は起こらないはずだ。


「初めてで何も分からないので…」

「初めてなんは知ってるって、あはは。最初は横で見とき」


 そう言って、2人の先輩達は、検品機を回し、製品をそれぞれ別角度から目視し、傷などをチェックしていく。そして、既定寸法に加工された製品を、素早く包装し、仕上げていく。


「私はこれ、もう10年やってんねんけどな、この人(ペアを組んでいる人)はまだ2年目やねん。それでもこんだけやりはるねんで。そやから、アンタかてすぐ出来る様になるって」


 ベテランの人はそう言う。少し気が楽になった。



 休憩は、午前10時と午後2時半から、それぞれ10分間。昼食時は12時から50分間設けられている。

 2時半、“先生”に連れられて休憩室に入ると、「ここ座っとき」と言って席を開けてくれる。そして、インスタントだがコーヒーを淹れてくれ、さらに目の前にはお菓子の山。


 そして、作業帽を脱いだその顔に注目が集まる。


「いやっ、可愛いわぁ」

「ほんま、男の子にしとくの、もったいないわ」


 決して悪い意味の言葉ではないので、嫌な気はしない。それは、例えばこんなやりとりでさえ。


「きちんと膝揃えて、行儀いいねぇ」


 元々、大股開きで座る剛達とは違い、座る時は何故か膝を揃えていた。


「あ、友達とかって股開いて座ったりするけど…ぼ…く…は、なんか恥ずかしい気がして」

「へぇ〜、女の子みたいやね、うふふ」


 たぶんこの人達は、男らしい男であっても、女っぽい男であっても、若い男子と話すのが楽しいのだろう。

 自分に息子が居るなら、重ねてみたり比べてみたり。逆に居なければ、息子が出来た様な感覚なのかもしれない。だから、


「仕事以外の時は、おばちゃんらに甘えときや」


 なんて事を言う。

 もちろん真に受けて良いものではないが、困った時などは少し甘えてみるのも“手”かもしれない。

 ただし、颯希にはそんな要領をかますなど出来ないのだが。


 そうして、大切に守られる様に2ヶ月が過ぎ、颯希は先輩である臨時従業員の手から離れる事になった。

読んでいただき、ありがとうございます。


男ばかりの職場って、何かと付き合いが大変だそうです。

その点、颯希が配属された職場は、飛び交う言葉は穏やかなのかもしれませんね。

颯希が働く会社は、颯希の能力をどう見たのでしょう?

颯希は上手くやっていけるのでしょうか?

今後の展開もお楽しみに!

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