表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/151

第2章 独立〜1〜

第2章スタートです。


3ピースバンドとなったNick Shock !

社会人になった颯希。

それぞれ別の大学に通う剛と彰人。

そして莉玖、穂花、詩織。

大人に近付いたそれぞれの心は、止めどなく激しく揺れ動きます。

 その日颯希は、日直当番だった。

 決して人前に出て喋る事など、得意ではない。朝と帰りの直前の学級会など、“苦”以外の何でもなかった。


 人にはそれぞれ、得手不得手があり、それは個性として尊重されるのが望ましいのだが、面倒な事に、世の中には「平等」という言葉も存在する。

 そんな苦手を「嫌だ」とも言えず、母親の好みの華やかな服を着せられ、「今日は特別やから」と自宅を送り出された。

 何が特別なのだろう?


 小学校低学年。まだ自分で着たい服を選べるには至っていない颯希だが、その日着せられた服は、実は颯希自身も嫌いではない。どちらかというと好きな部類に入る。


 しかし、クラスの反応はこうだ。


「女の服〜!!」


 女の子用ではなく、男の子用なのは間違いない。形や色が、他の子の服と比べて華やかなだけだ。

 そして幼児期とは違い、自分は男だと分かっている。それ故に、この言葉には強い不快感を覚えた。


 颯希は、そのイジメっ子達を泣きながら追いかけた。

 そしてその次の日から、お気に入りだったはずの服も一切身に纏う事はなくなり、他の男子と同じ様な服装の中に埋もれていった。



     *


 4月1日―。

 この日から、颯希は社会人だ。


 面接から半年が経ち、ようやく耳が半分隠れるまで伸びた髪は、入社式というどうでもいい行事のために、再び切らざるを得なかった。

 もちろん面接の様な堅苦しさはなく、刈り上げる事は回避している。


 そして、身に纏う服装。

 これが厄介で面倒だ。

 同期の皆も同じ様に、紺色のスーツに白いシャツ、ネクタイ。その姿は個性など皆無だし、堅苦しい。

 個性がないといえば、高校までの制服もそうだったのだが―。


 それに比べてどうだ?

 女子達の、個性豊かな服装。同じ様に「スーツ」と名の付く服装であっても、色、形は数えきれない程だ。

 同日入社の新卒女子達は、色こそ紺や濃いめのグレーだが、皆自分に似合うものを上手にチョイスし、着こなしている。


 言葉や態度で自己アピールが出来ない颯希にとって、服装というのは自己表現に関する大きなファクターだ。

 しかし、社会人と称される者は、他人と違う格好をすれば“変人”扱いされる。

 彼らの持つ固定観念は、フレッシュマン=スーツであり、上下揃いのジャケットにパンツ。しかも、なぜか皆、紺やグレー等、暗い色ばかりだ。


 別に派手な色が好きという訳ではなく、私服では柔らかな印象の白を基調としたものが好みであり、それらを特別奇を(てら)ったものとは思わない。なのに、一般的にスーツといえば暗い色。そして、短髪が似合うデザインとなっている。


 そしてシャツにネクタイ。自身のセンスを活かせるポイントはこの部分になる。

 なのに「最初の印象は大切だから」などと、会社からも、家族からも、研修期間は白や淡いグレーのシャツを奨められる。


 ならばもう、ネクタイ以外に自分らしさを見せる部分はない。

 颯希は、派手になりすぎない(地味な)物の中からなるべく人とイメージが被らない物を見つけ、チョイスしている。



「日向颯希と申します。何卒宜しくお願い致します」

 現場作業に従事する事は、初めから分かっている。この会社では、営業職となるのは大卒と決まっているからだ。

 それなのに、自己紹介ひとつ取っても、堅苦しい敬語が求められる。

 工場見学で回った現場では、皆、荒々しい言葉使いだったはずなのだが。


 兎に角、生活費とバンド活動に必要な金を稼ぐためだ。どれだけ意味のあるものかは分からないが、面倒くさい社内研修も我慢するしかない。


 それにしても何だ? 同期の男子達は、どいつもこいつもウマが合わない。


 大卒のイキった連中がセッティングし、同期会と銘打った飲み会なるものをやろうとするが、これがまた面倒くさい。

 断るなど容易ではないが、出席すれば、奴らは何かと人を弄ったり、未成年に対し、酒をどんどん飲ませようとする。

 法律も知らないのか!?


 そして、上がってくる話題といえば…


「◯◯の飲み屋のねーちゃんが…」

「競馬で幾ら儲かった」

「◯◯の風俗店で…」


 あぁ、全く興味ないし、聞きたくもない。

 飲む・打つ・買う…別に自由だが、そんな話に付き合わされる者の身にもなって欲しい。


 では、音楽の話題はどうだ?


「日向、お前、バンドやってるんやて? どんなん演ってんねん?」

「あ、洋楽のハードロック、ヘヴィ・メタル中心です」

「誰の?」

「オジー・オズボーンとか、ジューダス・プリースト、あと、レッド・ツェッペリン…」

「知らん! ええわお前」

 ―知らんかったら訊くなや!



 そんなクソつまらない連中と時間を共にした、くだらない社内研修を終え、皆、各部署へと配属になる。

 颯希は、製造部署の最終工程であり、出荷業務までを担う“検品・梱包課(inspection packing・通称IP課)”への配属となった。

読んでいただき、ありがとうございます。


私こと日多喜瑠璃も、高卒で就職しました。

最初の2週間に男女一緒に受けた研修では、接客やプレゼンテーションの他、社則なんかも教え込まれました。

女子は皆早く打ち解けたと思うのですが、一部の高卒男子は、まるで颯希みたく縦の繋がりに苦労していました。

そんな雰囲気が見え隠れするゆえに、同期会っていうのも出席はしたけど、正直言って個人的にはあまり気分の良いものではなかったかも…

コロナ禍以降、そういうのって消滅したのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第2幕 連載開始 おめでとうございます❇︎ [気になる点] 個性豊かな服装 女の子にはとにかくバリエーションが豊富 男の子はつまらないってなるの、あるよね〜泣 [一言] 早くも色々感じて、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ