表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/151

第1章 卒業〜18〜

第1章〜18〜

…そして迎えた、高校卒業の日。

どんなお別れをするのでしょうか。

第1章、最後になります。

 様々な想いが様々な形で動いた、高校生活の3年間。

 皆、それぞれに夢を持ち、目標を掲げ、突っ走ってきた。

 進学組は合格発表を待つのみ。就職組は内定した企業への期待感を抱き、束の間の安堵の時を過ごす。


 そして3月―。

 高校生活最後のイベント、卒業式の日を迎えた。


 シュプレヒコールが響き渡る体育館。思い出を噛み締め、教諭や在校生からのエールを受け取る。

 希望に満ちた表情で胸を張る者。3年間の思い出を振り返り、涙する者。

 皆それぞれに、別れと新しいスタートへの想いが交差する。

 笑顔も泣き顔も、そのひとつひとつが輝きを放った。



「終わったな」


 体育館から校庭へ。礼は、ボソッと呟いた。


「終わった…のかな?」

「終わったって。でもな、終わりは次のスタートっていう意味や」

「くっさぁ〜!!」

 ―はははははは!


 剛と彰人は、それぞれ別の大学へと通う。

 颯希は、4月1日から社会人となる。

 礼は―。


「ありがとうな。お前らのお陰で楽しめたわ」

「で、どこへ行くんや?」

「遠いとこ」

「言うてくれや」

「ははは! う〜ん、いつかまた会いそうな気はするな」

「だからどこやねん!?」

「遠いとこ」


 礼は、どこへ行くとは言おうとしない。だが、ただひとつ、これで全て終わりではない事だけは、3人に告げた。


「なぁ、タケ。バンドに入れてくれてありがとうな」

「お、おう。何や、似合わへん事言うて」

「ゴリ。よう喧嘩したな。いつも本音ぶつけてくれて…ありがとう」

「そんな事言うなや。淋しいやんけ!」

「颯希。熱血指導、ありがとう。文化祭なんか、もうゾクゾクやったわ」

「あ、あぁ。でもバンドは…」

「俺程度じゃ、お前らに付いて行けへん。これからは一ファンや。でもな、お前が見立ててくれたあのギターは一生手放さへんぞ」

 ―またいつか。


 そう言って礼は、3人に背を向けた。


「最後までイキってるやんけ! なぁ、礼!!」


 彰人は挨拶の代わりと言って、言葉をぶつけた。それを背中で聞いた礼は、サラッと右手を上げた。


 ロン毛の長身男・廣川礼は、東御陵高校を、Nick Shock ! を、淋しさを悟られないよう、振り返る事なく去って行った。



「日向くぅ〜ん!!」

「あ、しーちゃんか」


 剛と彰人は、少し距離を取って見守っていた。


「お別れ…ね」

「そう…なんやな」

「あたし、あの時…」


 言いかけて言えなかった。遠い地に就職を決めた事で、こんなに淋しく悲しい思いになった事。

 自分で決めた道に、進む前に後悔してしまった事。

 それは―。


「あの日、一緒にライブ行ってくれてありがとう」

「はは…何回も言うなよ」

「何回も言うよ。あの日のあの時が、ここまで生きてきた中での最高の時間やったし、これからも思い出」

「しーちゃん…」

「あたし、あたしね…」


 詩織の唇が震えた。湧き上がる想いを全て絞り出す様に、詩織はその一言を言った。


「日向君が…好き!!」


 ―あ、あぁ。

「でもね、あたしには、日向君は無理。だって…だって、あたしは日向君をひとりじめしたくなるから。だから、全部思い出にして、時々思い出して。それでいいと思った」


 顔は真っ赤になり、何度も言葉に詰まった。

 詩織は、伝えたかった事を、勇気を持って伝えた。そして、同時にそれが別れの挨拶になる事も、自身の心の中で受け入れ、納得していた。


 詩織は、両手でそっと颯希の右手を取り、胸の高さ辺りで強く握り、もう一度「ありがとう」と言った。

 涙で濡れた頬。その笑顔は、何かを吹っ切ったかの様に清々しく見えた。


 ―さよならだけは、言わへんよ!


 詩織は、ちぎれそうな程手を振った。

 何度も何度も振り向きながら、その姿が颯希の目に映らなくなるまで、手を振った。



「俺らは…」

「またすぐ会うやんけ。スタジオでぇ」

 ―わはははは!!

「ほな、また!!」

「おうっ! またな」


 3人が別れると、颯希の目の前に―。


「莉玖…」


 莉玖は、微笑んで頷いた。


「あたしらも、こんなしてるのって、最後やね」

「かもね。でも、遠くに行く訳じゃないし」

「でも、近所の人じゃなくなるから」

「すぐに引っ越す訳じゃないで」

「でも…」

 ―一緒に登下校するなんて事、2度とないから。


 当たり前の様に、一緒に歩き、登校した。

 その当たり前は、いつしか当たり前でなくなり、今、こうして一緒に歩くのも少し照れ臭く感じる。

 そんな2人も、気が付けば、大人に近付いていた。



 3月1日―。

 これからの人生に期待と不安を抱きながら、別れの時を迎え、皆、卒業証書を手にした。

読んでいただき、ありがとうございます。


日多喜瑠璃は、卒業式は泣いた派です。

仲間とバンドやったり、以前にも記した文化祭の事だったり、激動でしたからね。


このあと、第2章へ続きます。

みんな、どう成長していくのでしょうか

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ