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あとがき

連載を終えるにあたって

           日多喜瑠璃


 とあるコンビニのトイレをお借りしたのですが、そこには2つの扉がありました。

 ひとつは女性マークの横に小さく男性マークが描かれ、「女性優先」。またもうひとつの扉には男性マークの横に小さく女性マークがあり、「男性優先」と書かれていました。

 なるほど! 女性の体を持ちながら男性と自認する方、或いはその逆の方にも、このような表示があれば利用しやすいと感じる方も多いのかもしれませんね。

 一方で「優先」って言われても…なんて感じる方も、多数居られるでしょう。

 これはあくまでも、ジェンダーレス化への第一歩と考えたいですね。



 本作は、音楽とセクシュアルマイノリティの2本の軸で創り上げたお話です。

 実際に居られる方への取材・打ち合わせを経た事は、第4章の冒頭で記しました。


 何故音楽と絡めたのか?

 皆様に伝わっていれば良いのですが、本文中に、その理由を全て綴ったつもりです。


 男性シンガーが女性目線の歌を歌う。女性シンガーが男性目線の歌を歌う。

 これについて違和感を唱える人は居ないでしょう。

 そして、本文中でもその名を記しましたが、美しい女性のような出立ちでポップスを歌い、世界的にヒットを飛ばしたアーチストも居ました。

 楽曲のキャッチーさはもちろん、その容姿までが称賛されていたようです。


 しかし、一般の人の異性っぽいファッションになると話は違って、とりわけ男性が女性的なファッションを纏うと、それを否定する声が発生しやすいようです。

 自己表現は自由なのに、この現状を打破出来ない世の中に居て、生きづらさを感じる方も多いと、昨今の報道でも耳にします。


 後半、何度も出てくる言葉。

「人の数だけ心がある」

 音楽のジャンルを選んで聴く。それは当人の心がそのジャンルに合致したからでしょう。

 では、衣服の種類、例えば男性の体を持つ方が可愛い花柄のワンピースを選ぶとしましょう。

 その選択は、その方の感性がそうさせる訳であって、少数派とはいえ、何もおかしい事ではない(・・・・・・・・・)んじゃないでしょうか。

 自己表現なのだから、本当は誰も否定する権利なんてないはず。

 ましてや、それを理由に誹謗中傷、虐めなど、絶対にあってはなりません。


 でも実のところ、そうはいかないのですね。   

 男性と女性の体型には大きな差があって、男性の体に花柄ワンピースは似合わない事が殆どです。

 だから、そういう方を見かけた瞬間に「え?」なんていう感情が生まれたりするのですね。

 または、女性向けに作られた服を着る事すら出来なかったりする事も、よくあるでしょう。

 だからと言って、着たい人がいるからとメンズブランドでそれを作ったとしても、その方の心が女性なのだから、たぶん…ですよ、着ないんでしょうね。


 もちろん私は、そういった方々の意思について尊重するのですけど、似合うかどうかは尊重するだけではどうにもならず、印象の受け方も人それぞれ。どうしても受け入れられない人も居る訳ですね。


 そんな事を考えながら、メンズブランドに拒否感を示す颯希に、レディースブランドの服を着せてみました。

 そこに発生した男性特有の肩の張りへの違和感は、該当者の方にとって、衣服を選ぶ際に気にしておくと良いかもしれない部分ですね。

 細見えなんていう言葉がありますが、形や色によって肩幅が強調されにくい事もあります。ご自身に合った、そういう物を選べばいいんでしょう。


 そして、その違和感を打破すべく颯希が踏み切ったのは、ホルモン治療。

 治療とは言うけど、体の形を変えて違和感を取り除く事になります。

 本作では、当然という事になるのでしょうが、両親とのやり取りをも綴っています。

 これは実際のところ、本人だけの問題ではないですから。

 本人の悩みと理想形がある一方、両親は男子として生まれたのだから男子であって欲しいという思い。

 そんな、それぞれの意思がぶつかり合う。

 颯希の意思を決定付けたのは、両親の知らないところでの思わぬ行為でしたね。


 そのサイドで、仲間達はどうでしょう。

 礼は別にして、変わりゆく親友の姿に穏やかでいられないのも、リアリティを追求すれば避けられない部分なのかなって思います。

 取材させていただいた方は、ホルモン治療等を行なったのではなく、筋肉の使い方を変えて体型を調整されています。(但し、上手くはいってません)

 レディースブランドのオーバーサイズの服を多く所有し、好んで着用し、髪も肩辺りまで伸ばしておられます。

 では、それをする事によって何か変わるの?  

 友人の皆さんは「何も変わらない」と仰ったそうで、「君は君であって、それも変わりはない」とも仰ってくれたと言います。

 これが仮にホルモン治療を行うとしても、戸惑いはあったでしょうが、最後はきっと、剛や彰人、穂花や詩織のように受け止めてくれるんじゃないかなって思います。

 友人って、むしろ親兄弟より寛容であり、支えてくれるのだと思います。

 その理由は私的に考えてみたのですが、あえて伏せておくことにします。



 音楽について。

 この物語では、私の出来る限り、ライブシーンでの演奏や観衆の反応を、文字・文章で伝えようと試みました。

 専門用語だって、音楽に精通しておられない方には難しいものでしかないと思うのですが、音楽を題材にしたのだから書かざるを得ないんですよね。

 それも含め、雰囲気を感じ取っていただく事が出来ているのなら、大変嬉しく思います。


 どんなバンドでも通る道、中盤あたりまではコピー曲を中心にしています。

 主に70年代〜80年代の洋楽ハードロックを表に打ち出しているのですが、この頃のこのジャンルが特にギターテクニックやサウンドに進化が見られたら時代と、私は感じています。

 私は時代を問わず、ハードロックは大好きでよく聴きます。颯希には是非この頃の、進化の基盤を作り上げた音楽を演奏させたかったのです。

 でも…

 AKB48に憧れた颯希も、最後は20代後半。

 単純に年数を計算すると、あ! 現在を通り越して近い未来になってますよ。



 最後に…

 気が付けば、随分長くなったなぁって思います。

 もちろん私にしてみれば…なのですが。

 偶然なのですが、ちょうど一年間の連載になりました。

 実は、最初は第2章ぐらいで終わるつもりでした。なので代表作にするのも何だかなぁって思ってて。

 題材がとてもデリケートである事も、代表作としなかった理由のひとつなのですが。


 投稿前に、部分部分を何度も読み返して、不快な表現を使っていないかとか、チェックを繰り返しました。

 読む方が傷付くような事はあってはいけないし、だからと言ってこの題材、主人公が傷付くシーンは外せませんからね。


 だけど、皆様に謝りたい。

 そう、福本さんを死なせてしまった事です。

 時間を起こした高原も、かなり複雑な苦しみを抱えて生きてきた。だけど人の心は、拗れてしまえば何をしでかすか分からない。

 颯希の、自身を殺めようとする行為。

 高原の、心の奥を暴いた相手を殺めようとする行為。

 自らをどんなポジションに置くかで、起こす行動は異なります。だけどどちらもが、追い詰められて自らを見失った状態で起こした行動。

 その対比や、そんな怖さを打ち出すのが目的だったのですが、私、執筆しながら泣いちゃいました。


 最終話。

 ハッピーエンドにはせず、父親とは折り合いはつかないまま完結しています。

 ジェンダー問題は、まだまだ課題が山積み。

 現実がハッピーエンドにならないのであれば、それを感じさせるエンディングとし、最後まで読んでくださった皆様も、何かを考えるきっかけにしていただきたいなって。

 父親は言います。

 トイレは? など、礼でさえ口篭ってしまう問題点を挙げ、そこに苦労するのなら男として生きればいいと。

 この心と心のぶつかり合いに、明確な答えは見つかりません。それでも、多数派と少数派は共存しなければならないのです。

 だから、少しずつでも歩み寄り、双方が傷付くことのない、全ての人が生きやすい世の中を目指して、この問題に少し耳を傾けてみるのはいかがでしょうか。



 取留めのない文章になってしまいましたが、これにて本作を締めたいと思います。

 最後まで読んでいただき、心より感謝いたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一年間の連載 完走おめでとうございます* [気になる点] 非常に勿体ない。 これが「小説家になろう」でしか読めないとは。 勿論、作者様が決定する事であり、自由ですが* Nick Shock…
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