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第6章 飛翔〜6〜

第6章 〜6〜


仲間達の音色が響く。

光は消えても、新たな光を灯して進もう。

 その日は朝から雨模様だった。

 まだ暑さの残る京都の街。滲み出る汗を拭う暇もなく、機材を搬入する。


「久しぶりのステージやな」

「楽しみや!」


 意気揚々、笑みの溢れる剛と彰人。莉玖にとって、初めてのステージがこの大舞台となるが、自分とほぼ同じ背格好の颯希と並び、やや緊張気味の笑顔を見せるものの、不安感の見える素振りはない。


「今までスタジオで演ってたのが、周りの景色が変わるだけ。ね!」


 颯希の言葉に、莉玖は頷いた。

 難しいプレイはない。サウンドに広がりを持たせるのが、莉玖の役目だ。

 あらためて譜面をチェックするが、「よし!」と呟いて微笑むと、莉玖は膝を軽く叩いて立ち上がった。



「ちょっと外に出てみようか」


 最終リハーサルを終え、少し余裕が出来た。

 Red Marks のステージは、16:30開演。4組がそれぞれ持ち時間を40分としている。最後となるNick Shock ! の出番は19:30の予定だ。

 颯希と莉玖は、控え室を出て外の様子を窺った。雨はもう止んでいて、西から日が差し込んできた。


「サッちゃん!」


 莉玖が東の空を指差す。


「虹…」

「凄いアーチになってるで、ほら!」


 東山の上空には、まだ雨足が残っているのだろう。晴れ渡る西の空から照りつける太陽。その光がプリズム効果をもたらし、くっきりと美しい虹がアーチを描いていた。


「頑張れるよね!」

「うん!」




 16:30ちょうど、定刻通りにRed Marksのステージが始まった。

 ハードでヘヴィなロックサウンドに、会場は溢れんばかりの歓声の渦となる。人気は上々だ。

 聡太のヴォーカルは、ドスの効いた重厚感あるヴォイス。ジャンルで言えば、デス・メタルだろう。


「上手いな」

「さすが先輩や!」


 重低音が中心だが、時に突き抜けるような高音の雄叫びが響く。


「聡太さーん!!」


 堪らず叫んだのは、意外にも詩織だ。

 恋愛小説好きな女の子は、数々の経験を経て、ロックのライブを全身で楽しめる“カッコいい大人の女性”になっていた。


 穂花も続く。

 もちろん、彰人と暮らす中で様々な音楽に触れ、多くのライブ会場へ足を運び、いつしかロックという音楽が全身に浸透している。


 後輩からの声援は、聡太達のテンションをより上げた。

 40分間、ハイパフォーマンスを落とす事なく全6曲を歌い終えた聡太は、満足げな表情で右手を上げると、大きく振った。


「良い演奏が出来ました! ありがとう!!」


 ―わぁあああああ!!!


 歓声が、かつてない程にこだました。Red Marksにとって、今までで最高のライブとなった。拍手はしばらく止まなかった。



 2番手は、ガールズバンドである淡色組織だ。


 かつてNick Shock ! がこのSoundboxで招待バンドとして出演した時、やはりこのバンドも出演していた。

 女声を引き立たせるための音作りは、今も変わらず巧妙だ。

 しかし、楽曲の構成は更なる進化を遂げ、ドラマチックなアレンジでの展開が大人の女性をイメージさせる。


 このバンドのファンも多い。

 特に夢乃(ゆめの)と名乗るリードヴォーカリストは、人気アイドルにも勝るとも劣らない魅力的な容姿を持ち、“推し”にしている男子ファンが多数集まる。

 当然その盛り上がりは凄まじいもので、以前にも増して観衆との一体感が感じられる。 


 ―ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!


「見事やな!」

「ええ乗りや!!」



 次に登場したバンド、Streamは、演奏を全く止める事なく楽曲を繋いでいく。楽曲の完成度が注目を集めるインディーズ達の中に居て、こちらはライブパフォーマンスに独特の個性を持たせている。

 もちろん楽曲そのものの完成度も高い。


「いろんなタイプの演出があるんやな」


 Nick Shock ! の演出は彰人。

 さすがにこういった個性的な演出は気になる。斬新なパフォーマンスを観ると、自身の演出がどのように評価されるのか、いささか心配でもある。


「ああいうのって、特殊やな。俺らには颯希の曲があるし、ストレートな構成で勝てるやろ」

「タケさん、それ言うんやったらサッちゃんの曲違うて、Nick Shock ! の曲やで」


 莉玖の切り返しに、颯希は微笑んだ。


「ゴリの構成、曲順とかMCのタイミングとか、好きやで」

「そう言うてくれると心強いわ!」



 その時―。

 南条が、神妙な面持ちで楽屋に入って来た。

 南条は、颯希を呼んだ。


「南条さん、どうかしました?」

「あぁ、あのね…」


 雨の上がったその頃、南条にハルから連絡があったと言う。

 空気は途端に重々しくなった。


「さつきちゃん、心して聞いて。3:30頃…」


 福本は、息を引き取った。

 東の空にかかった虹。(かのじょ)はその架け橋を渡ったと言う。

 長らく、美しい花のように何も語らず、ただベッドに横たわり、香りだけを振り撒いていた。

 どんなに美しくても、どんなに強くても、花はやがて散る運命だと言うのか。


 颯希の性格を考慮すれば、先に伝えておくのが良いはずだ。

 何も知らずに盛り上がっていたなら、あとで知った時には、大切なライブに大きな悔いを残す事になるだろう。

 颯希とはそんな人間だ。

 南条は言った。


「今から始まるNick Shock ! のライブ。それだけは観に来ゃはるやろう。さつきちゃん、精一杯演れ。演奏も、それから、伝えたい事もしっかりと」


 南条からそう檄を飛ばされた颯希は、はっきりと、そして短く「はい!」と応えた。

 不思議にも涙は止まった。

 演れる。

 そして、伝わるはず。

 両手を胸に当て、そしてその両手で拳を握った。



 ミュージシャンは、音楽を演る事が生業だ。

 颯希はプロのミュージシャン。どんな時だって、人に聴かせる演奏が出来なければならない。

 楽しみにしていてくれる観客が居る限り、ステージに立たねばならない。

 今回のステージは、自分にとってはもちろん、南条、そして福本にとっても、特別な意味を持つもの。

 泣き崩れてはいけない。

 全ての人が生きやすい世の中であるために。


「まず、演る事!!」


 楽屋に戻った颯希は、心配そうに気遣う3人のメンバーに笑顔で応えると、ギタースタンドから愛器・ギブソン・レスポールを手に取った。


「行くよっ!!」

「しゃあっ!!」

読んでいただき、ありがとうございます。


書きながら泣きました。

いえ、泣きながら書きました。


熱いライブ、始まりましたよ!

複数の実力派バンド、それぞれの個性をどう設定してどう表現するか。

結構悩みました。

敢えてライブ直前に虹をかけたのも、Nick Shock ! のライブに気迫を込めるためなのです。


次回、Nick Shock ! のステージが始まります♪

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