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第6章 飛翔〜5〜

第6章 〜5〜


様々な音色が重なり合って、今の自分が居る。

その一つ一つを紡いでいく。

     *


 いよいよライブ当日。


 既に『Get Up !』のヒットがあり、お陰様で私もアーチストと呼ばれる人になった。故にその所属バンド自体に注目が集まるのは、言うまでもない。

 4組の出演が決定している当ライブイベント。主催である南条さんの計らいで、Nick Shock ! は、そのトリを務める事になった。


 私はDay Lightへの楽曲提供で多額の報酬を得る事になったけど、位置付けとしては“プロミュージシャン”じゃない。

 あくまでもCO-CO-ROで就職支援を担う、所謂フリーターなんだ。音楽だって、実績を語るにはあまりにも経験が浅いし、音楽クリエイターとしてはまだ安定するに至らないと感じている。


「プロやろ?」

「セミプロってとこかなぁ。バンドはインディーズ」

「あははは! ちょっとズルいで」

「そう言わんといてくださいよ。配信とか、自費でやってるんですよ…ねっ!」


 メジャーレーベルに所属する訳ではなくて、Day Lightのキーボードプレイヤー・尾野さんが立ち上げたプライベートレーベルをお借りしての配信。それは、紛れもなくインディーズだ。


「いつもウチが後やったけど、その(たんび)にお前らが持って行ってしもてたもんなぁ。今回はトップバッターやし、気ぃ楽やわ」


 丸石不動産としてお世話になっている、石坂聡太さん。彼の所属するバンド、Red Marksも、アルバムを自費制作・配信して久しい。

 高校の先輩だが、音楽でも先輩にあたる。


 インディーズというのは、人気が出ればしめたものだけど、名が通らなければその位置付けは微妙。つまり、誰にも知られていないオリジナル曲を一生懸命演る訳だから、ヒット曲をコピーしているバンドの方が盛り上がる場合が多々ある訳で―。

 Red Marksは、オリジナル曲をどんどん制作し、ライブハウス・MUSE LABを拠点として発表、ネット配信までを自費で行っていたにも関わらず、コピー曲を中心としていた頃のNick Shock ! に敵わなかったと、聡太さんは語った。



 Nick Shock ! の音楽的部分は、いつも私がリードしてきた。しかしライブでの演出は、ゴリこと彰人が、ライブ本番ではタケこと剛がMCを務め、イベントを盛り上げてきた。

 礼は、そんな私達について来るのに必死だったと言っていた。彼は当初から追いかける夢というか道があったから、高校を卒業すると同時にバンドを辞めた。

 3人となったNick Shock ! は、ギターが1本減った中でも音圧を落とさないよう、タケにコーラスを担当する事を要求し、私のアレンジでこのピンチを切り抜けてきた。



 ピンチ?

 最大のピンチは、私自身にあったのかもしれない。


 何かにつけて私を誹謗中傷する、高原という男。彼の行為により、私は自分を見失った。


 就職した会社の上司・八田は、仕事しか頭になく、担当外の作業であっても容赦なく私に時間外労働を命じてきた。


 いや、最も厄介と感じた相手は、他でもない私の父親だと思う。

 幼少期に私を女の子のように育てたのは、祖母が望んだからだという。私の心が不安定になったのは、この家族が自分達の都合で私を引っ掻き回したからじゃないの?

 とはいえ、ここまでは育ててくれた両親には感謝せざるを得ない。


 ずっと、そんな風に思ってきた。

 しかし、そんな不都合極まりない者達に対しても、決して否定しない人が居た。

 福本さん。(かのじょ)は今、病室のベッドの上に横たわり、ピクリとも動かない。だけどこの人は、私達に“今”があり、今に至るまでの経緯を遡ってみる事を教えてくれた。



 祖母が居て、両親が居た。


 剛と友達になり、ロックを知り、彰人、礼と出会った。彼らはかけがえのない親友となった。


 聡太さんは家業の不動産会社を継ぎ、良き住まいを提供してくれている。


 可愛いキャラクターグッズを揶揄(からか)った穂花は、のちに彰人の妻となった。


 詩織は遠く名古屋から見守ってくれている。


 神崎さん、徳永さん、金山さん、そして太田さんは、仕事を通じて社会というものを教えてくださった。


 メンタルが崩壊した時、健康管理課に中塚さんが居た。


 高原、八田。彼らも、私の人生に深く関わった。


 そんな時、いつも笑顔で勇気付けてくれた福本さん。(かのじょ)なくして私の人生は語れない。


 同様、プロミュージシャンでありジェンダー・アライである南条さんも、私の仕事の上司的存在であり、良き理解者だ。


 そんな私の人生を、幼少期からいつも傍で見守り続けてくれた人。これからも、ずっと一緒に生きていきたいと思う人。私の人生そのものと言っても過言ではない存在。

 福島莉玖。


 今まで出会った全ての人が、皆、私の人生を構築するのに関わっていて、誰か1人でも欠ければ、きっと今とは違う自分になっていたはず。


 死のうと思った過ち。

 自分を偽ってきた後悔。

 つまらない過去は記憶から捨て去り、そんな時にも支えてくれた人達の温かさへの感謝と、今生きている喜びを噛み締め、私はこれからも精一杯生きていくんだ。


 そしてあと一つ、やり遂げなければならない事がある。



     *


「颯希、いくぞ!」

読んでいただき、ありがとうございます。


もし“あの人”が居なかったら、自分はどうなってるんだろう?


そんな疑問を抱いた事ってないですか?


人って、どこかできっとドン底を見てしまう。

私だって、本当に消えてしまいたいと思った事もあります。

そんな時、ふと友達の顔が浮かんだんです。

「…ああ、消えたらあかんねんや!」


その友達と出会えたから、今、楽しく生きているんですね。


でも、ちょっと待って。

そう思うに至った経緯は?

消えたいと思ったのは、“あんな人”が居たから…

“あんな人”にドン底に堕とされ、その時に友達のありがたさや大切さに気付いた。

今を幸せと思えるのなら、“あんな人”も出会うべくして出会った人なんじゃないでしょうか。


未来は自分で作れるけど、過去は消せない。

終わり良ければ全て良しなんて言うけど、過去の全ては今の幸せに結び付いているんですね。

深いな〜。

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