第6章 飛翔〜2〜
第6章 〜2〜
犯人はこの人だったのか!
これもここまでの人生の1ページに響いた音色。
※デリケートな内容が含まれます。
Day Lightのツアーファイナルから僅か1週間という日程でリハーサルをこなすNick Shock ! だが、仕上がりは万端といったところか。
莉玖は反復練習が得意とあって、与えられた時間内でも難易度の高い演奏をどんどんマスターしていく。
あとは緊張が解れれば…というところだが、こればかりは仕方ないだろう。3人がとれだけサポートしていくかにかかっている。
そんな時、突如スタジオに現れた2人の男性。
「本当にすみません! 申し訳ないです!」
1人がやたらと頭を下げている。もう1人は頭を下げる男性の手を引く。
「ほら、もっとちゃんと謝れ」
何の事だかさっぱり分からないが、兎に角颯希に対し、悪い事をしたらしい。
「何や? 穏やかやないなぁ」
練習を中断している。時間を無駄にしたくない時だ。
3人も、気になってロビーに出て来る。
「え?」
「あ、あぁ、松山君。久しぶり」
「わ、わ、わ、脇谷さん!」
「何や? あぁ! 脇谷さんかぁ。久しぶりっす。こっちの人は、タケの知り合いけ?」
訪問者。
剛が通った大学の軽音サークルの2人だ。
脇谷は3人にとっては高校の先輩だが、もう1人は剛以外面識がない。
「すみません! あの動画アップしたの、俺なんです…」
「あの動画? 伊川さんでしたっけ。あの動画って?」
「『ギター女子さつきちゃん』だよ。伊川ね、颯希君が男子だって分かってるのに、やっぱ可愛いって、ずっと路上観に行ってたんだって。それで…」
「何でそんな前の話なんか…」
どうやら、CMで流れている楽曲の制作者が颯希だと知ったらしい。
プロミュージシャンになろうかという人物の、勝手なアップロード。とんでもない事をしでかしたと思ったようだ。
「あの、伊川さん。実はそのお陰で今があるって言うても過言じゃなくて…」
「え?」
「いや、あまり追求しないでくださいね。でも、意外と自分にとって良い方に作用した感じで…」
伊川はあらためて颯希を見る。
頭を下げる。
もう一回見る。
「あれ?」
「どうかしました?」
「颯希…君? ちゃん? え?」
「伊川! しっかりしろよ。颯希君は男子だって。ねぇ…え…」
謝罪のつもりでここに来た。許してもらえるかどうか、不安で仕方なかった。オーナーに呼び出してもらったのだが、颯希が目の前に現れると、2人とも顔を上げる事が出来なかったのだが。
颯希はクスッと笑った。
「どっちでもいいです。あははは」
「あ、そうなの? え? どっちでも?」
何とも滑稽だ。
剛が腹を抱えて笑う。
伊川は大学時代、Nick Shock ! のライブ動画を観て、颯希が女子であり可愛いと本気で思っていたが、そこを剛に突っ込まれた経験があるのだから。
「伊川さん、変わってないっすね! あっはっは!」
本来なら肖像権等の問題もあり、場合によっては謝罪だけで済まなくなる事もあり得るだろう。
これが元で誹謗中傷を浴びせられ、颯希は会社を辞めるに至った。
しかし―。
「会社員辞めて、音楽の方に進むきっかけになったんです。あの動画がなかったら、自分はたぶん、今も会社員ですよ」
つまりは、Day Lightのヒット曲『Get Up !』も生まれなかった訳だ。
「じゃあ俺、いい事したの?」
「いい事な訳あるかよ!!」
動画に限らず、人の画像を無断でアップロードするのはいけない行為だ。その行為については深く反省して欲しい。颯希は伊川にそう言う。
実際、颯希は苦しんだ。美化運動ライブというと、本来なら褒められるべきものかもしれない。それなのに、待ち受けていたのは誹謗中傷の嵐。
世間というのは、何かとネタを探しては叩く。ダメになるまで叩き潰す。
颯希は、その誹謗中傷に潰されてしまったのだ。
しかし颯希は、それでも立ち直った。左手首に傷を残して、尚も奮起したのだった。
「日本って、まだまだ叩く世の中なんですよ。みんなが皆んな、自分みたいに奮起出来るかどうかなんて分からへんし、他人を無許可でアップロードっていうのはやっぱりあかん事です」
いいことなんかじゃない。しかし、こんな世の中で生きていくなら、ピンチをバネにしてチャンスに変える事が出来ればいい。
そうして今の自分があるのだと、颯希は伊川に話した。
「ありがとう。ありがとう…」
伊川は何度も謝罪と感謝の言葉を言った。
剛は、少し笑って言った。
「伊川さん、脇谷さん。颯希に許してもらったんすから、土曜日のライブ、チケット買わないとダメっすよ!」
「そう来たか!」
―わははははは!
「上手いわぁ、松山君」
脇谷も笑いながら、バッグから財布を取り出した。
「ほな、これで」
「はい! ありがとうございますっ!! これ、チケットね。当日はよろしくっ!!」
「ほな、あと残り時間練習やぞ」
読んでいただき、ありがとうございます。
伊川さんですよ。
剛の大学の軽音サークルのメンバー。
ライブ動画の件、すっごく剛に訊いてましたよね。
そう、鴨川で颯希が歌ってるの、見つけちゃったんです。
彼の出番って本当に少なかったけど、影響力はめちゃくちゃに大きかったですね。




