第1章 卒業〜13〜
第1章〜13〜
バトル勃発!
舞台は職員室へ。
担任教師の前で、礼と高原はどう闘うのでしょう?
「本当にすみませんでした」
周りを見下ろさんばかりの高い目線を、誰よりも低く落とした。
「2人共ちゃんと謝れば、停学などの処分は免除出来る。君らも進路の事が大事やしな」
大ごとにはしたくない。そんな思いからの担任教師の配慮。
礼はその指示に従い、高原に深く頭を下げて謝罪した。
意外なほど素直な礼の態度が、逆に高原を苛立たせる。
それは高原の勝手だ。礼自身はあくまでも、殴ってしまった事に対する心からの反省を面に出したにすぎない。
ただし、殴った原因については、高原に対する憤りだ。それは、高原からの正当なリアクションがなければ、払拭出来る訳もない。
颯希や詩織にとっては理不尽ではあるが、礼が手を出してしまった事に対する高原の怒りも、同様に鎮静しない。
高原は、さらなる悪態で礼を煽る。
「フンッ! 暴力バンドが」
対する礼は、落ち着いた態度で応戦する。
「すみません。高原君。バンドのメンバーは手を出してません。僕、脱退したんです。その僕が個人的にやってしまいました」
―この暴言野郎を!
「廣川っ! ちゃんと謝りなさいっ!」
「先生。俺、最初にちゃんと謝りましたよね? すみませんでしたって言いましたよね? 頭下げて」
確かに言った。頭を下げた。それでも尚、高原は礼を煽り立てる。だから言葉で応戦する。
「あ、まぁな。謝った…な」
事実は事実として曲げる事は出来ない。担任教師は少し礼を注意したが、その主張は受け入れざるを得ない。
礼は、尚も続けた。どうしても言いたかったひと言。言わずに済まされれば、それこそ理不尽以外の何でもない。
「高原君は、俺を簡単に許せへん。それは分かります。痛い思いさせられたんですもんね。ほっぺた、痛いですよね? ホンマ、すみませんでした。で…?」
神妙な面持ちで深々と頭を下げたまま、少し顔を上げる。礼は上目遣いで高原を睨んだ。
高原は、最早この場所から逃げ出したい気持ちに襲われていた。
「もうええわ!」
「ええ事ないねん!!」
礼は、その場を立ち去ろうと背を向ける高原の腕を掴む。
「俺はこの右手で、高原のほっぺたに青タン作った。それに対してこいつはね、颯希の肉体的コンプレックスを嘲笑って、滝川さんにセクハラ言うたんですよ、先生。青タンと心の傷、頭下げんなんのは? なぁ高原よ、さぁ! どっちや!?」
担任教師は、今度は高原を見た。手を出した事について深く謝罪した礼に対し、この男―。
原因を作った、自身の暴言やハラスメント。それらについては、何も触れようとせず、ただ不貞腐れているだけだ。
「高原っ! 君、日向の事、中傷する様な事言うたんか?」
「“言うたらあかん事”言うたよなぁ。謝ってもらわなあかんなぁ。え? 高原。真っ直ぐな…真っ直ぐなあいつらの心をへし折った事、なあっ!!!」
溢れる感情を堪えきれず、礼の目から涙がこぼれた。
何故そこまで?
担任教師は、煽り立てる礼を制止した。
廊下には、いまだ涙の止まらない詩織と、両手で拳を握り、俯く颯希。2人を見守る剛。
担任教師の制止に右手を上げ、「言わせてほしい」という素振りを見せると、尚も礼は、高原に謝罪を要求する。
担任教師も、その勢いには呑み込まれそうになる。
「颯希と滝川さんに…なぁ! お!?」
礼の唇が震えた。
しばしの沈黙ののち、担任教師が静かに言葉を発した。
「…高原、謝ろか。」
やがて、礼と高原が担任教師に連れられ、廊下へと出て来た。
「高原。さあ、2人に謝りなさい。」
高原は不服そうな表情で、軽く頭を下げた。
「まだ何か言いたいんか?」
「いえ…」
―何で日向ばっかり大事にされるんや、クソッ!
「帰ろか」
「うん」
ようやく詩織の涙が止まると、4人は校門を出た。
「礼、すまん」
「お前が悪いんちゃう。俺に謝る必要ないって」
―ホンマ、ごめんな。
しかしその背後には、速足で寄って来る足音。
高原は、4人の前に回り、「待て」と言って詩織を睨んだ。
気が弱い女子を睨みつけるその目が、獲物を狙う獣の様に見えた。
「滝川、俺に平手打ちしたよな。お前は…」
「お前、まだそんな事…」
2人の前に割って入る剛。颯希は、さらにその前に入り込んで、詩織を見た。
「しーちゃん、ひと言だけ言うたら、それでいいんや。ひと言だけ」
―うん、分かった。
こんな男に謝るなんて。
そう思ってみたものの、いつまでも関わって来られる方が辛い。
詩織は、颯希の言葉に従った。
「ごめんなさい…」
―原因作ったん、高原やんけ。こんな奴、しばかれて当然じゃ!
颯希と剛は心の中で呟いていた。そして―。
「しーちゃんが平手打ち謝ったんは、自分らが見届けた。なぁ、高原。今度ちょっかい出したら、すぐ先生呼ぶしな。」
賢明な選択だろう。自分達で解決しようとすると、また揉める事になる。しかし。
「先生に言うたろ…か。子供か、お前は!」
高原は、尚も挑発する。そんな態度を無視するかの様に、颯希はまたいつもの物静かな口調で言った。
「自分、悪いけど就職決まってるねん。問題起こす訳にはいかんねん。そやから、揉めるぐらいやったら先生に間に入ってもろて…」
―チッ!
高原は舌打ちして、その場を去って行った。
一見頼りなさそうに見える颯希の態度だか、よくよく考えると、それは非常に大人な対応なのかもしれない。
「日向君…」
「颯希、お前…」
この一件が、詩織の颯希に対する想いをさらに熱くし、揺さぶる事になった。
読んでいただき、ありがとうございます。
高3の文化祭、瑠璃のクラスは演劇を演ったのですね。
で、そのヒロイン役の子が、主演女優賞を受賞しました。そこで…
「朝、来たらビックリするやろ」
なんて、仲間達と黒板にお祝いのメッセージを書いたのですが、事もあろう生活指導の先生が消しちゃった!
いつも穏やかなはずの友人が、この時ばかりは声を荒げました。瑠璃達も、下校時刻過ぎても、先生が謝るまで泣きながら猛抗議したのです。
先生は深く謝罪し、そのあと居合わせたみんなでもう一度、メッセージを黒板いっぱいに書きました。
そんな経験を呼び起こして、別のシチュエーションで描いたのが、今回のストーリーです。




