第5章 決断〜34〜
第5章 〜34〜
颯希、莉玖、礼。
3人の会話は、何を意味するのか?
決断。その熱い想いが急加速する。
「これは?」
「福本さんのメモと、あの部屋の防犯カメラの映像をまとめたやつや」
「見せてもらっていい?」
「うん…」
礼なりの見解ではある。
高原は、おそらく思春期に入る頃から男性同性愛者である事に気付いていた。
しかし、そんな事など誰にも言える訳がない。
特に父親はLGBTQを否定し、激しく拒否する人であった。
一企業の経営者でもある、そんな父親の顔を潰すなど出来ない。高原は、どんどんストレスを積み上げていき、次第に人を攻撃する事で自己肯定感を得るようになった。
そんな心の奥を見抜いたのが、福本だった。
しかし福本は、高原の攻撃性までは抑える事が出来なかった。
いや、果たしてそうだろうか?
窓の外を見て、あえて背中を向けたその仕草。
その訳を知り得る事は、もう出来ないだろう。
「ある意味、日本人特有の今も残る古くさい世相が、この現状を引き起こしてしもうてるんやろな」
礼は空を仰ぎ見て、そう呟いた。
「なぁ、颯希。俺はあと1年したら、京都に帰って来る。それまでの間、頼みたい事がある」
「自分に出来る事?」
「容易いと思う。南条さんと一緒に、CO-CO-ROの人らを護って、支援していって欲しい」
ふと莉玖が、礼の言葉に何か感じたかのように反応し、手を叩いた。
「それやったら、あたしも協力出来る! て言うか、あたし、福本さんからバトン渡されたの」
「そうか。じゃあ莉玖ちゃん、頼むで。俺は精神科医として砂川先生と連携を取りながら、CO-CO-ROの運営を引き継ぐ。それまで、あと1年。あと1年待ってくれ」
礼の目力が、颯希に、莉玖に、強く訴えかける。
CO-CO-ROでは、沢山のLGBTQ該当者達が今も、ままならない生活に苦悩を強いられている。
自分には何が出来るだろう。ただCO-CO-ROの運営に協力するだけでなく、自分にしか出来ない何かを、行動を起こしたい。
「音楽…か」
音楽なら、発信していける。
自分に出来ることなんて、それぐらいだ。それだけなのだが、音楽というのはその活用次第で“心の支え”にでも何にでもなるはず。
「礼。自分、公表する。公表して、同じ境遇の人に勇気を与えられるアーチストになってやる」
「出来そうか? 世間は手強いぞ」
「手強いのは分かってる。でも、微力でもそれが重なっていけば、絶対世の中も変わっていくはずや」
週末にはSoundboxで、インディーズ・ライブイベントに出演する。
その時が好機かもしれない。
自分を曝け出し、世間の波に上手く乗りながらも自分を崩さない。そんな生き方が出来るなら、きっとそれが福本の目指した場所なのだろう。
「南条さんはアライ。Soundboxでライブを演るって事は、その支援者の見守る空間で自分を出していけるチャンスやと思う」
「分かるで。でもな、お前のポジションはもう、Soundboxの中に留まらんやろ? Day Lightのライブでお前の名前も知れ渡った」
「もちろん分かってる。寧ろ、望むところや」
次のステージへ。
今も残る、差別や偏見の目。日本におけるLGBTQへの対応は、世界レベルで見てもまだまだ進んでいるとは言い難いのかもしれない。
もう、高原だけではない。会社レベルとも違う。自身が制作した楽曲『Get Up !』は、既にCMとのタイアップ曲として全国に配信されている。
「作詞・作曲:さつき…か」
「もう自分の曲も全国規模。“ギター女子さつきちゃん”が自分やってとこから入れば、受け止めてもらいやすいかも」
「ギター女子さつきちゃん? 何やそれ?」
莉玖が少し笑った。真剣な面持ちでその名を口にした颯希。そこに、動画アップロードの経緯を重ねると、どこか滑稽に感じた。
「あのね、礼ちゃん…」
莉玖はスマートフォンを手にすると、保存した動画を再生し、礼に見せた。
「女子…え? 女子の格好やん。え? お前…」
礼は驚きの目で颯希を見た。
「“ギター女子さつきちゃん”や。路上 (ライブ)演ったのを、どっかの誰かが動画サイトにアップしたんやて」
―ぷぷっ!
「穂花とゴリさんの披露宴でも演ったの。ね! ね! あたしもシンセ弾いてレコーディングしたのよ!」
莉玖がシンセサイザーを!?
予想外だ。さすがにこれには、礼も驚いた。
「Nick Shock ! て、いつの間にか4人で…? 俺の戻る場所、ないやん」
「戻るとこ、なんぼでもあるで。ははは…いつでも来てぇや」
「ジョークや。ははは、無理無理」
礼は右手を横に振った。
その目には、明るい光が差し込む感覚を覚えた。
どんどん綺麗に、どんどん可愛くなってゆく颯希と莉玖。
この2人の、ここからの未来を見据えた凛々しい表情に、みなぎる力強さを感じ取っていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
第5章、これにて終了です。
読み返してみると私、結構な事書いてますね。
世の中への挑戦状かしら…
いえいえ、そんなつもりはないのですが、取材を受けてくださった方を取り巻く世間の在り方っていうのは、こんな印象でした。
今はテレビの情報番組でも取り上げられたりと、ジェンダーに関する問題は少しずつ世間に浸透し始め、世の中は動き始めています。
本作の主要人物達は、その真っ只中に足を進めて行くのですね。
第6章では、いよいよ完結へ。
続けて移行していきます。




