第1章 卒業〜12〜
第1章〜12〜
いくつもの心が一気に揺れる。
そんなある日の放課後…
※ストーリーの流れから、一部不快に感じられるかもしれない表現があります。
翌日の放課後、詩織は満面の笑みと共に2組の教室へと入って行った。
「あ、居た。穂花ぁ!」
「え? 詩織…どうしたの?」
「あたし、昨日ね…」
―日向君と一緒に歩いて、ちょっと会話した。日向君、手を振ってくれたの。
いつになくハイテンションになって、詩織は穂花にそう言った。
普通なら飛びつきそうな話題だ。
噂にするなら、してもらって構わない。詩織はそんな気にさえなっていた。
しかし穂花のリアクションは、何故かこの時ばかりは違った。
「それで?」
「……」
穂花のあまりにも素気ない態度に、詩織は返す言葉に困ってしまった。
詩織の顔を見る事もせず、穂花はその冷たい眼差しを窓の外に向けた。
「あたしね、自己申告とか興味ないし。日向君と? ふぅん…」
聞き慣れない低い声でそう言った穂花の目が、少し怖かった。
そして穂花は、視線をそのままに頬杖を付いて言った。
「で? 応援して欲しいの? それとも噂流して欲しいの?」
そのどちらでもない。ただ嬉しかった事を、友達である穂花に伝えたかっただけだ。
穂花の本心を知らなかったから―。
「何で? 何でそんな言い方するの?」
「あたし、詩織の恋バナなんかどうでもいいし」
何かに苛立っているのは、すぐに分かった。
だがその意味は、詩織には分からなかった。
というよりは、詩織自身も舞い上がっていて、人の顔色など気にする余地もなかった。
穂花の受け答えは、裏切りであるかの様に詩織の心を切りつけた。
―酷い! 友達って思ってたのに!!
気が弱いから、何も言えない。憤りを抑えきれず、詩織は机をバン!と叩いて教室を出た。
―恋ってこんなに大きな代償を払うもの? 違う。穂花なんて最初から友達じゃなかったんや。どのみち、あたしは…。
何もかも捨てたっていい。そう思ったその時。
「日向は手強いぞ」
「は?」
廊下に飛び出した詩織の前に、男子生徒が立ちはだかる。颯希の声を『裏声』と揶揄した男、高原だ。
「立ち聞きしてたん?」
「人聞き悪い事言うなや。たまたま聞こえただけやん」
たまたまにしては、随分長く聞こえていたものだ。
「日向君が何? あんたに何が分かるん!?」
「はっはっは! 見てみいや。背ぇ低いわ、なで肩やわ、裏声か腹話術みたいな高い声して。あいつは普通の男ちゃうで」
「普通違うたら何? 何でそんな事言うの? 小さても関係ないやん! 誰にも迷惑かけてへんやん!」
「まぁまぁ、ははは! あのな…」
高原は、詩織の耳元で声を顰めた。
「アレも小さいで」
―いやぁっ!!
たまらずに叫んだ。思わず高原の頰を平手打ちした。
好きな人を罵られた悔しさと、手を出してしまった事への自己嫌悪感が、瞬時に襲ってきた。
詩織はそのまま泣き崩れた。
廊下に、泣き叫ぶ声が響いた。
―ただ事ではない!
颯希と剛は廊下へ飛び出し、その様子を詩織の背後から見た。
左の頬をてで覆い、詩織を睨みつける高原。
しゃがみ込んで跪き、両手で目を覆う詩織。
颯希は詩織の背後にそっと近付くと、両肩を軽く叩き、高原の目の前に出た。
いつもの如くだが、高原は颯希を蔑むかの様な目で見下ろした。
「何や、チビ!!」
「チビは関係ないやろ…」
自分が揶揄されるのは、今更どうでもいい。詩織を、女生徒を傷付け、泣かした事が許せない。
「オラァーーーー!!!」
シャウトした様な声が、校舎に響く。残っていた生徒たちが、皆、廊下に飛び出す。
想定外の迫力に、高原は一瞬たじろいだ。
高い声がコンプレックスになって、いつも小さな声で話していた。大きな声を出すと、更に高くなる。それが嫌で、声を張らなかった。
しかし颯希には、ロックバンドのヴォーカルとして鍛えたシャウトがある。それは、マイクを通さずとも迫力がある。
「謝れ、オラァ!!! しーちゃんに謝れ!!」
「颯希っ、やめろ! お前、問題起こしたら就職が…」
「ンなもんどうでもええっ!! オラァ高原っ!! しーちゃんに謝れや!!!」
今まで、誰がその形相を目の当たりにしただろう。
思春期の女の子はデリケートだ。それは何故か痛い程に分かる。だから颯希は、高原を許せない。
今にも殴りかかりそうな勢い。これではダメだと思い、剛は左手で颯希を止めると、その前に出た。
「颯希っ!! こんな奴、相手にすんな!!」
「どけ! 松山。俺はコイツ嫌いやねん。おい日向! 来るんやったら来いや! このオカマ野郎!!」
高原がそう言った瞬間―。
バキッ!!
鈍い音が聞こえた。
高原は、崩れる様にその場に伏した。
―あっ!
長い髪。聳え立つ様な長身。
「礼っ!」
「あ…やってもた。タケ、先生呼んでくれ」
―罰、受けんなんわ。
詩織の涙、颯希の怒鳴り声、礼のパワー。
その様子を少し離れた位置から傍観していた穂花は、体が震え、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
火花は、様々なシチュエーションで乱れる様に散ります。
恋ともなると、友達同士だってライバル。
だって、譲れないから…。
今回はランディ・ローズ。
バラエティ番組なんかで面白いお爺さんが出てくる時、オジー・オズボーンの「Crazy Train」のイントロが流れる事が、よくあります。
オジー・オズボーン氏が自身のバンドを結成した時、オーディションでギターをチューニングするランディ・ローズ氏を見て、その姿だけで即採用した…なんて話も聞きました。
独特の音階、指の運び、そして楽曲のセンス。
以後、僅か2枚のアルバムをリリースしたのち他界してしまったのですが、その2枚のアルバムが、オジー・オズボーン氏をメタル界の帝王にのし上げました。
凄いっ! まさに伝説のギタリスト。
もちろん日多喜瑠璃の、大好きなアーチストのひとりです!




