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第1章 卒業〜11〜

第1章〜11〜

ライブ後のNick Shock !

まさかの重大発言。

そして、またいくつもの心が大きく揺れ動きます。

 文化祭が終わった数日後、3組の教室にバンドのメンバー4人が集まっていた。


 一大イベントが終わると、放課後の校内に居残るのは、部活ぐらいだろうか。静けさが戻った教室に、何をする訳でもなくただ4人は居た。


「終わった…な」

「打ち上げでもするか?」

「いや…」


 文化祭のライブは成功した。

 見事に盛り上がったのは、選曲はもちろん、メンバー各自の努力と実力が、観衆の心に響いたからと言えよう。


 しかし、こんな充実した日々は、いつまでも続く訳ではない。


「辞めるんか?」

「あぁ…」

「残念やなぁ」


 胸を締め付けられるようなひと言。

 京都を離れ、遠い地で、学びたいものを学ぶ。バンドを離れるのは淋しいが、そこは自分の居場所ではない。

 礼は、そう切り出した。


「言うまでもない。俺はお前らと比べたら、演奏レベルも音感もリズム感も、全くついていけてへん。ここが俺にとっての境界線で、これを越えたら…無理せんなんだけやしな」

「まぁ、お前がそう感じたんやったら、しょうがないか」


 みんなも惜しみなくサポートしてくれた。

 本当は、バンドも続けたかった。続けるつもりだった。

 しかし、実力の差は明らかで、ここから先に進むなら、そこはもう、自分の居場所ではない。

 礼は、密かにそう感じていた。


 進路について考え始めると、皆、一様にナーバスになる。既に就職先の決まった颯希でさえ、近い将来についての不安は拭えない。

 そんな中、礼は言う。


「俺な、実は…」

「ん?」

「割と早い時期から、やりたい事見付けててなぁ。それと、今回のライブの準備段階で、お前らに苦労かけたやん」

「それは言いっこなしやぞ」

「いや、思たんや。お前らの足引っ張るんやなくて、やるべき事がある。今はまだ話せへんけど、俺には進むべき道があるって」


 やるべき事―。

 まだ、それを語る事は出来ない。しかし、自分の進む道はこれしかない。

 そんな揺るぎない想いが、礼の心の中にあった。



 剛はスマートフォンを、彰人は落ち着きなく右足を動かしながら両手の人差し指で机を叩く。

 礼は窓の外に目を向けていた。

 颯希は頬杖ついて皆の顔を見回す。

 その時―。


 誰かに押された様に、1人の女生徒が教室に飛び込んで来た。


「あ、あの…」


 皆が一斉に顔を向ける。


「あ、滝川…詩織…さん?」

「いやん! 日向君、あたしの事覚えてくれてる!!」


 少しハイテンションになって、詩織はそう言った。しかし―。


「お、おう。莉玖と仲ええやん?」

「あ、あはっ。そ…そう…ね」


 詩織の笑顔は、一瞬で曇った。それでも、気持ちを悟られない様、ぎこちなく笑顔を繕う。


「てっ!!」


 颯希の背後から、剛が頭を叩いた。


「な、何やねん!!」

「ほら…」


 剛はスマートフォンのメモに『空気読め!』と書いて、颯希の目の前に(かざ)した。そして何事もない様に詩織に話しかける。


「しーちゃん、どしたん?」


 詩織は1枚のディスクを差し出した。


「あ、これ。こないだのライブ、ビデオ撮っててん。DVDに落としたし、皆んな観て!」

「へぇ〜! 録ってくれたんや。ありがとう」

「ほな、後で観さしてもらうわ」


 綺麗なジャケットまで自作してきた。もちろん、ディスクにも同様に、綺麗でカッコいいプリントがされている。

 そこを褒められると、詩織は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「もし…もし、ちゃんとコピー出来てへんかったら…言うてね!」


 そう言って少し後退りした後、教室を飛び出した。

 その姿を見送った剛は、そのまま視線を颯希へと移した。


 颯希はまた頬杖をつき、今度は穏やかな笑顔で、机の上に置かれたDVDケースを見ていた。


 ―しーちゃんにしたら、こういう仕草とかがキュンってなるんやろな。


 あの、文化祭ライブの直後、詩織は颯希の姿を探していた。

 キラキラ輝く目。その意味は、剛にはすぐに分かった。

 だが、その事を口にする訳ではない。伝えるのは詩織本人なのだから。



「帰るか」


 日が落ちるのも早くなった、11月。4人は薄暗くなった教室を後にした。


「なぁ、タケ。さっきの…空気て何の?」

 ―おいっ! ホンマにお前は。

「まぁ、いつか分かるかもな」

「分からんかったら、読みようないやん。」

「そらそや。悪りぃっ」

 ―あはははは!


 彰人と礼は、校門を出て左へ。剛は「忘れもんや」と言って、何かを思い出したかの様に、校舎へと戻った。

 颯希は1人、右へと向かう。


 トン!


 肩を軽く叩かれた。


「え?」

「日向君。同じ方向やし、一緒に歩いていい?」

「あ、まぁええけど。(じぶん)どこ?」

「大塚」

「遠いやん。バスやろ?」

「今日は用事あるし、寄り道しやなあかんし」


 少しモジモジしながら、詩織はそう言った。


「いつも行ってるスタジオって、どこ?」

「西野。川が近いから、ウエストリバーやて」

「えへへ。ベタやなぁ」

「うん」


 会話が止まる。お互いが人見知りだから仕方がない。それでも詩織は、颯希と2人の時間を大切にしようと、一生懸命言葉を投げかけた。


「今日は練習しやへんの?」

「うん…バンド…どうなるかなぁ。解散かな」

 ―えっ? そんな!


「皆、進路はバラバラやしなぁ」

「それでも続ける事って出来ひんの?」

「続けたいのは山々やけどな。礼は辞めるし、あとの2人はどう思てるんか…」

「そんなん、確かめようやぁ」

「そやな…」


 短い会話の途中だが、2人は交差点に近付く。


「ほな、そこ右に行くし」

「莉玖ちゃんと近所やね。分かった。また明日ね!」

 ―明日…か。


 少し面倒くさそうに手を振る。

 詩織の事が嫌いな訳ではない。ただ、よく知らないだけだ。そんな相手とこんなに会話したのは、もしかしたら初めてなのかもしれない。


 気もなく振り返り、詩織が去って行く後ろ姿を目で追ってみる。

 詩織は振り向いた。遠く離れてはいるが、目が合った気がして俯いた。


 もう一度顔を上げてみると、詩織はその場所で颯希を見て、大きく右手を振った。


 ―あ、あぁ。


 颯希はどうしていいのか分からず、とりあえず右手を上げてみた。

 その時の詩織のリアクション…何か嬉しそうだ。

 よく分からないが、何となくそう感じた。

読んでいただき、ありがとうございます。

詩織が、ついに動き始めましたね。

恋の行方、見守っていきましょう。


第1章〜9〜の回想部分で、またもやレッド・ツェッペリンの名前が出てきました。

「Led Zeppelin Ⅳ」は、1971年リリースですって。

「よくこんな昔の、知ってるね」なんて言われましたが、日多喜瑠璃の自宅には、1970〜1980年代の洋楽ロックのCDが沢山あります。

兄がよく聴いてて、その影響なんですね。


「Ⅳ」は、名作中の名作って言えるでしょう。

「Rock & Roll」や「天国への階段」など、ロックの歴史に名を轟かせる名曲ばかりが収録されています。

そのサウンドの要、ジミー・ペイジ氏は、世界3大ギタリストの1人に数えられた名プレイヤー。

めちゃくちゃカッコイイですよ!

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