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第1章 卒業〜10〜

第1章〜10〜

文化祭ライブを終えたNick Shock !

バンドの要・颯希をめぐって、周囲がどんどん動きます。

「タケさぁ〜ん!」


 実行委員によって片付けられていくステージを見つめる剛に向かって、詩織が駆け寄ってきた。


「日向君は?」

「あ? 颯希か? 控え室で休憩してんのちゃうかな。あいつ、体力ないしな。ははは!」

 ―そうなんや、えへへ。


 詩織も軽く笑う。


「何や? 控え室行ってもええけど、俺が伝えといてもええで」

「うわ、イケズ(意地悪)やわっ」

 ―何で?

「もうっ! ちょっと顔見てくる」


 そう言って詩織は走り出そうとする。


「あいつは手強いぞ!」

「え!?」


 背後から聞こえた誰かの声に振り返ろうとしたその時、詩織の足がもつれた。


 ―あっ!


 転倒しそうになった詩織を、長身男が受け止めた。


「前見やんと危ないぞ」

「廣…か…わ…君」


 一瞬の事に動転し、体を礼にあずけたまま固まる詩織。その様子を、実行委員の穂花が遠目に見ていた。

 その事に気付いた詩織は、力なく礼の体を突き放した。


「最悪ぅ…」

「へ!? ちょ、最悪て何やねん!」

「あ、い、いえ、廣川君じゃなくて…」


 詩織は、別に礼が苦手な訳ではない。Nick Shock ! のファンを自称するのだから、そのメンバーである礼の事だって、嫌いな訳がない。

 最悪の理由…それは、実行委員・酒井穂花に見られた事だ。それならばそうと言えばいい。言えばいいのだが―。

 言えない理由が、詩織にはあった。



『滝川ね、Nick Shock ! のファンって言うてたやん? 転けそうになったのを、ノッポの廣川君にガッシリ受け止めてもらってたの。なんかいいよね♡』


 グループメッセージにそう書き込んだ穂花の右手。

 送信ボタンを押そうとした時、莉玖の手がそれを遮った。


「アンタなぁ、ええ加減にしぃや!!」


 颯希と莉玖との噂を立てた事は既に謝罪され、穂花はグループメッセージに『間違いだった』と書き込み、それはあっという間に鎮静していた。

 穂花はそれだけ影響力を持っている。


 しかし事もあろう、穂花は次の噂を立てようとしていた。全く懲りていないのだ。


「恋バナ好きなんはええけど、それで何人傷付いてる思てんの!!」

 ―あ、ああ。


 そんなつもりはなかった。確かにそうなのだろう。単なる軽はずみな行為に過ぎない。しかし、その果てに起こり得るかもしれない事など、考えもしなかった。

 莉玖の顔を見る穂花の目が潤んだ。


「ごめんなさい…あたし…」


 そう言いかけて言葉が詰まる。


「あたし…」

「な、何?」

「あたし、負けへんで、福島!!」

 ―え? どういう事?

「日向君はあたしのもの! アンタにも、詩織にも、絶対譲らへんでっ!!」

 ―違う。何かおかしい。え? まさか…?

「あたしって、酒井のライバル?」


 莉玖はキョトンとした。


「宣戦布告!!」


 穂花は、莉玖の問いにそう答えると、背中を向けて去って行った。


 颯希と莉玖のあらぬ噂を立て、(こじ)らせようとした事。

 詩織を誰かとくっ付けるかのような噂を立てようとした事。

 莉玖は、穂花の行為の意味に気付いた。

 それは、穂花の心の奥にある想いを伝える事も出来ず、自分自身に対するもどかしさがそうさせたのだという事を。


 ―いつの間にか、ライバルに思われてる?



 控え室として使われている教室に、彰人と颯希は居た。


 当然ではあるが、Nick Shock ! だけが使う部屋ではない。出演を終えたバンドは、皆ここで休憩したり、反省会をしたりと、自由に過ごしていた。


 しかし、この一画だけは様子が違っていた。


「失礼な事言うなや!」


 困り果てた表情の颯希の背後から、20cm近い身長差のある大男・彰人が、他のバンドのメンバーを睨みつけている。


「あぁ、悪い悪い。でもな、日向。ぶっちゃけそれ、裏声やろ?」

「それが失礼や言うとんねん!」

「柳井と喋ってるんちゃうねん。日向に言うてんねん。答えてくれやぁ」

「お前なぁ!」


 声を荒げる彰人を、颯希は制止した。


「かまへん。裏声や思うんやったら、思といたらええわ」

 ―颯希…またお前。


 もっと主張しろ。そう言いたい。事なかれ主義の様で、実は言葉が出て来ない。そんな颯希を見て、彰人は少し悲しげな目をした。


 颯希はか細い声で、彰人に言った。


「誰がどう思おうが、地声で歌ってる。それだけやねんて」

「分かってるんやけど…」


 颯希の体格や性格を何かとネタにして揶揄する男子生徒、高原。

 たまたま教室で顔を合わせた?

 いや、きっと詩織が剛と話しているのを見て、またチョッカイを出したくなったのだろう。

 ライブの後の盛り上がった気分を突き落とすが如くの、つまらない行為だ。


 そこへあとからやって来た詩織は、廊下から近寄る事も出来ず、その様子を遠目に見つめていた。

 例えようのない悔しさやもどかしさに縛り付けられるような感覚が、とても苦しかった。


 いつも自信なさげに小声で話す颯希が、愛おしくて仕方ない。

 だけど、実は自分だってそうだ。

 言いたい言葉、伝えたい想いを、いつも押し殺してきた。

 その想いを快く受け入れてくれたなら、どんなに気が楽だろう。しかし、そうだとしたらこんな気持ちにはならない。

 手強い―。

 そういう事なのか。

 詩織は、ただじっと見つめる事しか出来なかった。



 やがて颯希は、彰人と一緒に教室を出て行った。


 ―あ!


 詩織は、通り過ぎて行く颯希の後姿を目で追いかけ、見えなくなるまで見送った。

読んでいただき、ありがとうございます。


大仕事を終えた颯希。

その安堵の中、詩織の恋が走り出しましたね!

そして、もうひとり…

あれ? なんか不穏な空気も…


さて、颯希達がライブで演奏した、ONE OK ROCKです。

押しも押されもせぬ人気バンドですが、何も分からずに初めて聴いた時、洋楽?なんて思った方も多いでしょう。

音楽にも国民性があります。

日本語と英語では、言うまでもなく発音が異なるため、歌詞(ことば)を聴かせるためには、主旋律はもちろん、コード(和音)進行や構成にも違いが出てくるのが自然です。

ワンオクは、世界を股にかけ、海外レーベルとの契約を持ち、詞に英語をふんだんに取り入れているから、曲作りも洋楽そのもの…

頷けますね。

※あくまでも日多喜瑠璃の主観です。

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