表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/151

第4章 疑惑〜30〜

第4章 〜30〜


今回も楽曲制作。

バックトラックの制作です。

 剛、莉玖と颯希の3人は、その日もスタジオに入っていた。

 各自練習を積んできた。しかし、録音ともなるとやはり緊張する。とりわけ莉玖に至っては、初心者故の経験不足がネックになる。


「あたし、まだ自信ないから、録り直しばっかりになったらごめんね」


 しかしそれは、百も承知だ。

 最初から1発録りなど、出来る訳がない。むしろ、そのおぼつかない演奏が、手作り感を醸し出すのだ。

 颯希と剛は、莉玖の緊張を解すべく要領を伝える。


「はは…心配要らんで。部分部分で録っていって、編集で繋げるねん。そやから、出だしをしっかりリズム取って、その部分の最後の音は伸ばしてたらOK」


 一気に演ろうとすれば、失敗のリスクは高まる。短いフレーズを繋げていけるのは、DAWならではの利点だ。これを利用しない手はない。

 初心者にはありがたい方法だ。


 ドラムスは打ち込み、エレキギター2本分のトラックは、既に颯希が録音を済ませている。

 アコースティックギターは、颯希が弾きながらリードヴォーカルを取る。


「ほな、俺から行くで」


 数曲のデモを制作したNick Shock ! 故、剛のベースは全く心配無用。さりげなくアレンジを加えつつ、一曲通しで録音を終える。


「タケさん、凄い! 逆にあたし、プレッシャーかかるわ」

「大丈夫やで、莉玖。メトロノームだけ鳴らすし、自分のタイミングで入って」

「あ、はい…」


 ピッピッピッピッ…


 ヘッドホンから電子音だけが聴こえる。

 バックトラックは全てカットした。それらの音に翻弄されないようにとの配慮だ。


「あ…」

「ん? ミスった?」

「ごめん…」

「あはは…演り直そう」


 何度もテイク出来る。莉玖自身が納得するまで、それは繰り返す事が可能だ。


「どう!? これは上手い事出来たと思うわ」

「OK! じゃあ、次はBメロのバック。8小節な! テンポ少し上がるで!」

「はいっ!」


 テンポは上がる。しかしそれは、微々たるものだ。全く問題なし。

 初心者の多くは慌ててしまい、演奏が早くなりがちだが、手慣れた2人のアドバイスが成功に導いてゆく。


「次、間奏」

「よしっ!!」


 1テイクでの成功率が上がってきた。颯希に言われた通り、部分の最後は鍵盤を押さえたまま、ロングトーンにしておく。


「テンポは何で変わるの?」

「人の持つ感性かな。100やったら100できっちりキープ出来る人なんて居らん。絶対に少しずつ変わるし、そうでないと人間味がなくて心地良うないねん」

「へぇ〜!!」


 莉玖は目を丸くした。

 いろいろ聴いていても、テンポを気にした事はなかった。常に微細な変化があるのは、人間が演るなら当然だ。

 そして、変化しなければ聴こえ方も不自然である事も、意識などした事がなかった。



 録音が終わった。

 すぐに颯希が編集に入る。

 その間、剛の指導のもと、莉玖はソプラノパートのコーラスを練習する。


「この部分はFu…で行こう。Bメロ後半からはAh…で」

「どう変わるの?」

「Fu…はピアノ、Ah…はフォルテかな。Fu…は優しく包み込むような感じで、Ah…は明るくパワフルな感じ。高音も出るで」


 ―Fu……♪

 ―Ah……♪


「あ、ほんまやっ!! イメージ湧いてくるっ!!」

「よし、俺と合わせてみよう」

「はいっ!」


 ―Fu……♪

 ―Ah……♪


「いいっ! めっちゃいいっ!!」

「いやん! あたしもミュージシャンの仲間入り?」

「そやで! キーボード弾けるし、バックコーラス出来るし。バリバリのミュージシャンや」

 ―あはははははは!



 2人のコーラスの練習が捗る中、颯希が声を上げた。


「出来たでっ!」

「おお? 早いな」

「トラック数少ないしな。ベースなんか触る必要ないやん」


 ―どれ?


 デモを聴いてみる。

 莉玖にとっては初めて参加の楽曲。

 自分の腕なんか、音楽になりっこないとも思っていた。

 颯希は明るく微笑みながら、スタートボタンを押した。


 アコースティックギター、ドラムス、ベース、ポリシンセサイザー、エレキギター。

 これだけの楽器で音色を紡ぐ。

 莉玖は、言葉を失う程に聴き入った。


 ―音楽って、こんなひとつひとつが重なって出来るんや。


 初めての経験。ぎこちないプレイ。

 されど、他の楽器と重なり合い、生まれた音楽。そのトーンが予想外に美しい。

 曲を聴き終えると、莉玖は叫ぶように言った。


「めっちゃ楽しいっ!!!」


 颯希と剛は、満面の笑みを浮かべた。


「やろ!? そやねん。めっちゃ楽しいねん!!」

「最高やん!!」

「最高やっ!!」

「イェーイ!!!」


 3人は、ハイタッチを交わした。

読んでいただき、ありがとうございます。


バックトラックを録音して、本番ではこれをオケとして流し、歌う。

DAWは音楽制作ソフト。

保存ある楽器の音色を譜面上に打ち込んだり、楽器演奏や歌を録音して重ねたりと、パソコンで本格的なサウンドが作れるのです。


ここには彰人が居ないので、ドラムスは打ち込み。アコースティックギター以外の楽器を録音して、カラオケを制作する事になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の様な、微笑ましい空間が本当に大好きです。 所々にそういったシーンがあるのもまた、いいエッセンスになりますね* [一言] 100部 おめでとうございます* 個人的に、多くの学びが詰まっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ