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【短編】  作者: カタハラ
9/9

意味

何をやっても意味がないと感じる。


男は嘆きに似た声を上げる。

「何をやっても意味がない。世界は確実に破滅へと向かっている。永遠などない。

そして、俺の創作は一ミリも世界を救うことに貢献できない。」

奥の見えない深い闇。

「意味が欲しいか。」

男に問いかける声が響く。

「意味を与えてやろう。代わりにすべてを捧げろ。」



「くだらない。」

文字が羅列された紙の束が目の前の机に投げ出される。

「これじゃ、仕事にならない。」

文字の羅列を凝視しながら「はい」と死にかけの声を絞り出す。

「名もない人間の嘆きになんて、誰も興味ないですよ。あなたが書きたければそれでも構いませんが、それは趣味です。ニーズはない。」

「ええ。」

声の方向に目線を上げることはできない。

「もういいですか?」

苛立たしく腰を上げながら面談の相手は、問い掛けに似た終わりを告げた。

「ありがとうございました。」

俺はどうにか、表面的なお礼の言葉を捻りだす。


広々とした大理石調ロビーを区切る自動ドアの向こうは、冷え冷えとした空気が漂っていた。

夕日。一日の終わりを告げる刺すようなオレンジに、沈んだ感情を掻き立てられる。


自分は何をやっているのか。

生産性のない行為に意味を持たせるため、無意味を重ねている。

他人から必要とされないだけでなく、自分自身も必要としていない行為。

虚しさを秒ごとに並べている。



深い闇から手の輪郭が徐々に現れる。

枯れ枝のような節くれだった指に、針のようにとがった爪。声の主は老婆だろう。

人生に意味はなく、自暴自棄に「もう、どうでもいい」と思っているが、心の奥底では、命を惜しく思っている。生きたがりの生物的本能に嫌気が差す。

だから、全てを差し出すことはできない。どうしようもない野郎だ。

いつの間にか差し出された手に、小ぶりな卵が載っている。片手でぎりぎり持てる位の。殻の厚そうな。

「蛇が生まれる。それを育てろ。」

受け取りたくないが、決して逆らえない鈍く重い何かが、声に込められている。

卵を両手で包み込むように取り上げ、滑り落ちないように片手を尻のほうに回す。

俺は、ここから生まれてくる蛇と暮らさなければならないのだろう。そして、その蛇に全てを捧げなければならないのだろう。もし怠れば、声の主が俺の命を奪う。



頭の中の映像が途切れると、俺はまだ自動ドアの見える場所に突っ立っていた。

オレンジは沈み、街灯が夜を切り裂いている。

意味のないストーリー。いや、話にもならない糞。頭蓋骨の中に糞が詰まっている。何かが栓をして、排泄することもできない。徐々に重みを増す、溜まっていく不快感だけが募る。

いっそ吹き飛ばしてしましたい。とも思う。

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