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【短編】  作者: カタハラ
4/9

ダンス

書きたかったイメージをそのまま短編にしました。

「海に行きたい。」

 唐突に、彼女は言った。


 ◆


 Tシャツの下から手を入れ、わき腹を掻きながらリビングへ向かう。

「おはよう。」

 あくびのついでのような挨拶をする。

「おはよう。」

 彼女は嫌な顔一つせず、笑顔でそれに応える。


 テーブルの上には朝食。

 ごはん、みそ汁、だし巻き卵、小魚の佃煮。

 いつもの朝の光景。


 丁寧な彼女の「いただきます。」を尻目に、みそ汁をすする。


「――聞いてる?」

「ああ、ごめん。まだ、頭が回んなくてさ。」

「もう。

 でね、今度の、私の実家への挨拶なんだけどさ――」


 カーテン越しの朝の光に包まれる、彼女の顔を見つめる。


(もうそんなに経つか。)

 彼女と同棲を始めて、1年半が経とうとしていた。

(付き合い始めてからは、3年くらいだっけか。)

 彼女との間にあった出来事を、取り留めなく思い出す。


「もう。」

 気が付くと、彼女は可愛らしくふくれっ面をしていた。


 ◆


 朝食を食べ終えて、ソファーにだらしなく寝ころび、なんとなくスマホを触る。


 カウンター越しのキッチンから、下げた食器を洗いながら彼女は唐突に言った。

「海に行きたい。」

「ん、海?」

「そう、海が見たいの。どこまでも広がる水平線が見たい。」

 水を流す音で、彼女の思いの強さがわからない。


「でもさ、今から行ったら、昼過ぎに着いて、帰ってきたら、もう夜だぜ。

 それだけで一日が終わっちゃう。」

「そんな休みの日も、たまにはいいでしょ?」

 タオルで手を拭きながら、いたずらな笑みを浮かべていた。


 ◆


 その日、みんなが海を見たいと思ったかは分からないが、道は混んでいて、車はたびたび足止めを食らった。そのせいで、海に着いたのは、もう夕方に近い時間だった。


 着いたときまだ青かった空は、時間が過ぎていくと、その色を淡いオレンジに変えていった。


 淡いオレンジが沈む。オレンジの輪郭の白を境に、深い紺色の空が頭上に広がってきている。

 風が強く、くっきりと影の部分がわかれた重い雲が流れていく。

 誰もいない砂浜の向こうには、とろけるような半熟の太陽をのせた水平線が緩く広がる。


 そこで彼女はダンスを踊っている。

 手を広げ、残った夕暮れを纏い、ゆるく白いワンピースをなびかせて、踊っている。

 目を閉じて、楽しそうに、すべてを慈しむように。


 少し離れた段差の上から見守る自分は、温かさと同時に、どうしようもない寂しさを感じる。

 なぜだろう。

 このまま彼女が、今日とともに夜の向こう側へ行ってしまうのではないかと、悲しくなる。


 彼女は自分に向けて、何か大きな声で伝えているようだ。

 でも、風の音でよく聞き取れない。


 ただ、自分はそんな悲しみを、彼女に向ける微笑みで抑え込んでいた。


 ◆


「ねえ。」


 自分に向けられた通信で、今、に戻る。


「どうしたの?寝てた?」


 少し間をあけ、ため息をつくように答える。

「まさか。」

 光沢を放つ自分の腕を見る。

「睡眠をとる必要がないだろ?」


「そうね。」

 相手は、少しおどけたように答える。


「ときどき思い出す光景があるんだ。誰かの意識の断片かもしれないけど。

 夢ってやつかもしれない。」


「ふーん、夢、ねえ。

 嫌なら、一度クリーンしてみたら?」


「そうだな。」

 気のない返事をする。


 このメモリーは、大切な気がする。

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