都市の夜 【2作目】
一人語りではなく、複数の登場人物の会話をベースに書いてみました。
視点が定まらない分、心情表現が浅く、淡々としてしまいました。
酒場から漏れる明かりが、ガタガタとした石畳を照らす。
店内は音と熱気に溢れている。
「今日はラッキーだったな!」
筋肉質でガタイのいい男が、飲み干したジョッキをテーブルに叩きつけるように言った。
「弱いモンスターども、たんまりと持ってやがった!」
「うるさいよ。」
少し小柄で目つきの鋭い男が、刺すように言う。
「まあまあ。怪我ひとつなくこれだけ稼げたのは良いことじゃないか。」
柔和な顔をした男が、場を和ませるように言った。
「装備もそうだけど、人を襲うような感じではなかったね。」
「簡単だったぜ。俺の剣で一撃だ。」
「何も考えてないだけだろ。状況を確認しないで、突撃ばっかだ。
獲物を引き付ける罠だったらどうするんだ。」
「ああ?」
男は気にしない様子で、大声で追加の酒を注文した。少し赤い。
かわりに柔和な男が、軽い調子で答えた。
「もしかしたら、どこかから逃げる途中だったのかもね。」
「人を襲うことしか頭にない連中だぜ。そんなこと考えるかよ。」
小柄な男は鼻で笑った。
店内は変わらず、笑い声と怒鳴り声、木の食器がぶつかる音で満ちている。
少し声を落として、柔和な男は言った。
「そもそも、モンスターってどこから来るか知ってる?」
「あん?」
「そりゃ、モンスターの巣とかだろ。」
二人の様子を見て、男は得意気を滲ませる。
「どうして、モンスターが、宝や、それだけじゃなくて、貨幣を持ってるんだろうね。おかしいと思わない?
つまり、彼らはその価値を理解している。」
「何が言いたい。」
「彼らは、人間さ。」
◆
雲間からのぞく月が、城壁の中の小高い丘にある屋敷に陰影をつける。
その窓から射し込む月の光が、廊下に横たわる無数の兵士を静かに照らす。
「待ってくれ! 何が望みだ!」
貴族らしい男は、その膨らんだ腹を押さえ、目の前の黒い影から少しでも距離を置こうと、うめきながら後退りをする。高級な調度品に囲まれた寝室の床には、貴族の腹から滴るねっとりとしたシミが広がる。
黒い生地に覆われた黒ずくめの人影の唯一のぞく目は、感情のない作り物のようだが、不吉な光をたたえている。
「精神魔法だ。」
その言葉で床の男は、滲んだアブラ汗に冷たい一筋が落ちるのを感じた。
「な、なんのことだ!」喉奥が乾く。
「他国の国民がモンスターに見える呪い。首謀者はどこだ。」
「知らん!
でも、考えてみてくれ! 人々が豊かになることに何の罪がある!
奪うことの余計な罪の意識を消して、幸せになる手伝いをしているだけじゃないか。これは、慈善事業だ!」
その叫び声を空間ごと切るように、金属の鋭利な閃光が闇の中を走り、ゴトリと床で鈍い音がした。
「この国を狂戦士の巣窟にするわけにはいかない。」
現れたもう一つの黒い人影が耳元で囁やく。月の光が雲に遮られた後、一瞬の闇が部屋を去ると、ふたつの影は跡形もなかった。
また屋敷は月夜の静寂につつまれた。
◆
少し閑散とした酒場を店員があくせくと回る。イス、テーブルは乱れ、食器が散らかり、床には食いかけの食べ物が散乱している。
「そりゃ、関係ないだろ!」
悠然と話し終えた柔和な男に、大柄な男が大声で冷水を浴びせた。
「人間だろうが、モンスターだろうが、関係ねえ。俺は戦って、お宝を頂戴して、うまい酒が飲めたら、それで十分だ。あと、女とかな。」
だらしない赤ら顔でヘラヘラしている。
「やることは変わんねえよ。それ以外、ないからな。少し後味が悪くなるだけだ。」
男も鋭い目で遠くを見るように、それに小さく同意し酒を飲んだ。
二人の手応えのない反応に呆れたように、大げさな深いため息をつき、
「つまらない人たち。」
炭酸の抜けた残りの酒を飲み干した。