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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【怪異の掃除人二次創作】賽の河原

作者: 神宅 真言


この作品は長埜恵様の「怪異の掃除人」シリーズの二次創作です。

内容的には「続・怪異の掃除人」ミートイーター編の失敗ルート後のifストーリーとなります。

BL的と取れる表現、グロテスクな描写などが含まれておりますので、苦手な方はご注意下さい。


【怪異の掃除人シリーズ】

「怪異の掃除人」

https://ncode.syosetu.com/n2626fi/

「怪異の掃除人は日常を満喫する」

https://ncode.syosetu.com/n8793fm/

「続・怪異の掃除人」

https://ncode.syosetu.com/n0497fn/

「続々・怪異の掃除人」

https://ncode.syosetu.com/n2834hd/




  *


 ──いつかの記憶、幻のような風景。


 夕暮れがやけに真っ赤だった事を、その色彩を俺は、鮮やかに覚えている。


 何処かの河原で石を積んで城を作ろうとした。偶然に行き着いた初めて見るその川はとても水が綺麗で、俺達は滑らかな小石を集めて時間も忘れて夢中で遊んだ。


 気が付くと辺りは一面、金色を帯びた朱に染め上げられ、二人で呆然と夕日を眺めた。


 なあ、覚えているか、藤田。


 ──俺は閉じたままの瞳の色を思い出すように、小さく呟いた。


  *


 あれから一度も、藤田は目を覚まさなかった。


 兄さんが穴に墜ち、ぼろぼろの俺はぐったりと横たわる藤田を抱えたまま、気を失った。


 気が付くとあれから何日も経っていて、与えられた二人きりの病室で俺は、動かない藤田の手を握り続けている。


 この聖域に立ち入る勇気のある者は烏丸先生のみで、彼は俺が何をしようと醒めた目で眺め、何も口出しはしなかった。


 俺は目覚めない藤田を起こそうと、どうすれば再び藤田が目を開くようになるのかを、必死で考えた。──そして、一つの結論に至る。


 治せばいいのだと。壊れた部分を、作り直せばいいのだと。


 あのおぞましい植物を引き抜く際、傷付いた脳を治癒する解きに、治し損ねた部分があったのではないかと、そう俺は考えたのだ。


 なら、治せばいい。それだけの話ではないのか。


 ──天恵を得た俺は、躊躇無く、その行為に取り掛かった。


  *


 何度も、こじ開けて。


 何度も、眼球を引き摺り出して。


 何度も、脳を掴んで。


 ──何度も、何度でも、治した。何度も、何度でも、壊して、直して。何度でも、何度でも、繰り返した。


 今度こそ、今度こそ、藤田が目を開く事を信じて。そして瞳を細めあのにへらとした屈託の無い笑顔を見せると、そう信じて。


 俺は呪文を使い続ける。使う度、俺の中の何かが崩れてゆく気がしたが、そんなものは二の次だった。噛み締めた唇から垂れる血の量など、俺の手に纏わり付く藤田の血液に比べたら微々たるもので、俺は藤田を壊す手を止めなかった。


  *


 ぼた、と痺れた手から何かが零れる。


 藤田の血や脳や肉片と、自身の剥がれ千切れた手の皮膚や肉とが掌で混じり合い、ひとかたまりとなってシーツの上に新たな染みを作る。


 ──また、駄目だった。


 俺は藤田の目が開かない事を確認し、また治す為に、壊す為に、爪が剥がれ皮が剥けた指で藤田の瞼をこじ開ける。


 ──何度、繰り返せば、


 ──何度、繰り返せば、救われるのだろう。


 藤田は、俺達は、──いや、俺は。


 何度繰り返せば。何度、何度、何度。


 ──救われるのだろうか。


 目の前が、真っ赤に染まる。思い出すのは、いつかの光景。河原で石を積んだ、あの夕暮れの色。


 ──ああ、そうか。


 俺は壊す手を止め、藤田を綺麗に直し、その血塗れの身体をゆっくり引き起こす。


 幾らドス黒い血液に彩られていようと、藤田の顔はとても綺麗で、その表情は安らかで、──俺は藤田の身体を血に染まるベッドの上でそっと抱き締めた。


 ──すまなかったな、藤田。……ごめんよ、直。


 囁いた言葉が届かない事を知りながら、それでも俺は、穏やかに微笑んだ。


  *


 病室を夕陽が朱金に染めている。


 静寂の中、不意に差した黒い影を、俺は何も映さない透明な瞳で見上げた。


 黒い男が俺を、俺達を見下ろしていた。歯の無い口が大きく三日月の形で嗤う。


「呪文を、引き上げさせて貰いに来ました。曽根崎の死亡も確定しましたし、今回のゲームは此処で終了ですね」


「──ああ。俺達の負けって訳だな」


「それでも随分楽しませて貰いました。──では、ごきげんよう」


「……消えろ。クソが」


 耳障りな笑い声がこだまして、俺の最後の悪態を掻き消した。再び二人きりになった病室の中、炎えるような色彩だけが俺達を包む。


 とろ、と俺の目から血が流れる。次いで耳や唇、そして全身に現れた傷跡から、幾筋も、幾筋も、流れ出した血液が俺達を包む。


 血液はたらたらとベッドに溜まりを作り、藤田の血と俺の血が混じり合い、──それはまるで夕暮れの赤にも似て。


 ──なあ、直。俺達、やっと一つになれるんだ。やっと、救われるんだ──。


 瞼に浮かぶのは、あの日の光景。完成した、石の城。


 俺は不器用に少しだけ笑い、ゆっくりと最後の息を、零した。


  *




この度は『怪異の掃除人』が書籍化! という事で、お祝いとして二次創作を投稿させて頂きました。

この「賽の河原」は以前、阿蘇さんの誕生日祝いとして書いたものです。こっそりとプライベッターに掲載しておりましたが、この度の書籍化のお祝いとして、少しでも賑やかしになればとこちらに投稿した次第です。

今回はこの作品と、もう一本新作二次創作「狂神の葬花」を投稿しております。

同じミートイーター編失敗ルート後のifとなりますが、賽の河原は阿蘇視点、狂神の葬花は藤田視点となっております。

併せてお読み頂ければ幸いです。



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