ある程度の近況
「ねぇねぇこれなにかな?」
「ん?これはダンゴムシかな?」
最近いつも一緒にいる気がする近くにある集落の上位小鬼。
その子はよく同じ上位種なのか、俺を誘っては草原に遊びに来ている。
草原では木の枝を拾ったり虫を見つけては手に掴んで俺に見せに来たりと、なかなかに可愛らしい行動が多い。
と、完全に外側は女の子の俺。中身は男です。
いや、ほんと男だよ。⋯⋯さすがにこの子に欲情する訳はないけどね。
女の子だし。
かと言っても他の小鬼達に欲情するのかと聞かれてら、それも無理だね。
俺の恋愛対象は人間だ。感性が人間なのにゴブリンとして生きるのは⋯⋯まあ、難しくはなかった。
時に人間に会うこともないし、人間を襲う事も無い。
ごくごく平和の庶民暮らしだ。
自給自足なのでかなりサバイバルな生活である。
「後、1年」
今は2歳になっている。
あと、1年で狩りに参加させてくれる。
それと、身長の方なのだが、今では小4程の身長である。
身長の上がり方がよく分からない。
ただ、20歳くらいの身長には3歳ではならないだろう。
それと、俺はだいぶ身長が低めな体質なようで、あの子と比べても低い。
「ねぇねぇもっとあっち行こうよ!」
「あっちは許された範囲から抜けるからだーめ」
「えぇ〜大丈夫だよ!バレないバレない!」
「ダメったらダーメ!」
「ムー良いもん!私、1人で行くから」
「⋯⋯」
さて、我儘っ子だね。まあ、この子の場合は簡単に対象出来る。
「ヒック」
「どうしたの?」
「私、1人になるのは寂しいなぁ〜」
「じ、じゃ一緒に行こうよ!」
「それは、無理。私は行けない。⋯⋯私を置いて行くの?」
「⋯⋯い、行かないよ?冗談だよ!も、もっと遊ぼ!」
「うん!」
はい、勝った!
まあ、そんなくだらん事は良くてね、俺自身の身長が低いからなのか、あの子の方が産まれが早いからか、かなり姉気質があるのだ。
「今度、身長をざっくり測って見ようかな?」
俺はそんな事を考えながら草原をあの子を追い掛けながら考える。
「日が沈んできたね。帰ろっか」
「そうだね。はい手。迷子になるのは危ないからね!」
「うん」
この子は俺が近くの草原に来た帰り道が分からないと思っているのか?
まあ、良いか。
この生活もあって今ではだいぶ筋肉質な手になった。
あの子のほっぺを時々つんつんするのだが、代わりに俺もつんつんされるが、赤ちゃんだった頃よりも肌がガサガサしている。
俺もだ。当然だな。
洗剤もないこの生活では仕方ない。
さらに、俺達の集落から身体を吹くための水がある川もそこそこ離れているのだ。
水で身体を吹くことしか出来ないので臭いがキツかったが、今では慣れた。
「じゃまた明日遊ぼうね!」
「わかった。じゃあね」
手を振ってあの子は自分の集落に帰っていく。
私も自分の集落に戻って、家族の元へ帰る。
「ただいま」
「おかえり」
「あれ?お父さんは?」
「まだ帰って来てないは」
「そう」
もうすぐ日が完全に沈み、夜になってしまうのに帰って来てないのか。
スライムの時よりも五感が鈍いと感じる。
視力なんて360度から人と同じになっからね。
やっぱりスライムの体は1つ1つの細胞で分からているから五感が鋭いのかな?さすがはスライム細胞。
まあ、武器とか使えないのでそこまで便利な訳では無いけどね。
「ふむ、美味い」
今回は豚の肉だった。
ただ焼いただけな肉だ。焦げもある。
しかし、味覚も鋭いので肉のその旨みもきちんと分かる。分かるが、調味料が欲しい。飽きてくるのだよ肉のみの味に。
だが、美味し。これは調味料では表せない家族の愛が感じるのだ。
頭がおかしいと思われるかもしれないが、誰かの事を思って作ってくれる料理に勝る物はない。
これには母の俺の事を思って焼いてくれた事を感じる。
「お母さん美味しいよ」
「ありがとうね」
いずれ狩りに出られるようになったら木の実も集めて肉の味を替えてみるのも良いかもしれない。
「お父さんまだかなぁ」
家族と一緒に食べるのはさらに美味しく感じるものだ。
人間の生では家族の暖かさを知っている。スライムでは仲間の暖かさを感じる。この生では再び家族の暖かさを感じる。
この世界は良い世界なのかもしれない。⋯⋯いや、ないな。
もしも世界平和が可能になっていたらゴブリン達がこの森に隠れる必要はない。
人間と共にいるかもしれない。それが不可能なのだ。
言葉が伝わらない。
言葉の壁は大きいと人間の時にも同じだ。
魔物は人間の言葉が分かるが、人間は魔物の言葉を分からない。
俺自身が試した訳では無いが、人間には言葉が伝わらないらしい。
「今戻った」
「おかえりなさい」
「おお帰ったぞ。すまねぇな〜遅くなって。少し大きな獲物がいたもので」
「何を取ったの?」
「いや、取れたのは牛だ。ただ、道中で虎にあってな。撒くのに時間が掛かったんだ」
「良く逃げ切れたね」
「まあ、俺達狩りに出るグループはこの森の構造を熟知しているかな!あの虎も若かったみたいだし、知恵の差だ!わーはははは」
「お父さんすごいー」
ここは単純に褒めておく。
それが純粋無垢な女の子を演じるコツだな。
俺は日本に帰りたいと思っているが、この家族も大切だ。
この生を謳歌しながらゆったりと帰る術を探していくつもりでいる。
日本に居た時の妹は俺の死をどう見ているだろか?
死んでいる?そう、死んでいる。帰った所で本当に会っても良いのか?そもそも普通に日本に行けるのか?
頭を振って考えるのをやめた。
こんな事を考えていると行けない気がするのだ。
「布団引くね」
布団、とゆうか動物の毛皮を床に引いて、その上にまた動物の毛皮を羽織るだけである。
それでも川の字に寝ているので暖かい。
⋯⋯我が両親はいつ、夫婦の営みをしているのだろうかね?どうでも良いか。
ほんと、どうでもいい事を考えてしまった。
明日はどこで遊ぶのだろうか?
あの子は元気な子なのできちんと注意しないと森の奥に行っちゃいそうだよ。
俺は布団に潜りながら明日のことを考える。
「私(俺)は先に寝るね。おやすみ」
「「おやすみ」」
ああ、せめて、俺って言ってんのに私になるのは辞めてくれないかな。
今ではだいぶ慣れたけど冷静に成れば成程違和感に苛まれる。
あの子といる時はこんなくだらん事を考える暇がないので、あの子といるのは正直楽しいものだ。