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山田太郎は論理脳

作者: 高路 悠

将来の夢とは何か?山田太郎は考える。


将来に不安があるからではない。

高校の進路調査アンケートが配られたからだ。


夢とはそもそも何か?

解らないことはきっちり調べるのが山田太郎の筋である。スマホで検索した結果、おおよそ以下の意味らしい。


 ・睡眠中に、あたかも本当に起こっているように感じる現象

 ・将来実現させたい願い、願望

 ・儚い物事。はっきりしないもの


ここで問われていることは、2番目の「将来実現させたい願い、願望」だ。


自分の願望とは何か?山田太郎は更に考える。

まずは、自分が貰いたい年収だ。

400万円あれば良い。300万円あればの自立した生活が送れるだろう。そして週休2日は外せない。


次に嫁だ。

気立てが良くて、ほどほど可愛げがあれば良い。

共働きは必須だ。世知辛い世の中なのだ。今は。


思いつく条件をアンケート用紙に書き込んでいく。


これで良い、と山田太郎はほくそ笑む

誰が見ても無理目ではない、要点を抑えた完璧な未来だった。


■■■


「却下」


山田太郎の担任教師、林田礼子はプリントに目を落とすなり目の前の生徒に告げた。


山田太郎は馬鹿である、と礼子は認識している。


勉強ができないとか、短慮であるというわけではない。

人としての常識を外した頓珍漢な行動が多いのだ。


現に何がおかしいのか?と理解していない顔だ。

礼子はため息をつきながら指摘する。


「あのね、これは夢ではなくて欲望です」


普通夢とは自分がなりたい姿を指す。

公務員になりたいとか、サッカー選手になりたいとか。


「これだとね。仕事をしなくて食っちゃ寝したいとか。

イケメンを侍らせてハーレム作りたいとかそういうものも含まれちゃうから、いかんのですよ」


噛んで含めるように説明する。

山田太郎は馬鹿だが、きちんと説明したことは理解する。そう思い説明したが未だにピンと来てない様子だ。


更に説明しようと口を開こうとすると、山田太郎は戸惑ったように口を開いた。


「では、礼子先生の年収1000万円以上の男性とお付き合いしたい、というのは夢ではないのですか?」


礼子の頭の中で試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。


■■■



「お前馬鹿だろう?」


田中裕太はリア充である。金髪の陽キャ。

空気も読めて人当たりも良し。ただ、リア充だと指摘すると「簡単に言うなよ!」とむくれるちょっと面倒臭い男子高校生だ。


山田太郎は馬鹿じゃない。自分が不味いことを言ったことを理解している。

悪い奴じゃないんだよなぁ、、、。と思いながらフォローする自分は間違いなく損な性格だろう。


「いいか、太郎。結婚っていうのは乙女の夢なんだよ」

「乙女、、、。いやさすがに林田先生は乙女というには、、、」

「黙れ!それ以上言うな!!いいか、太郎。90の婆さんでも本人が乙女と言ったら乙女なんだ!分かったな!!」


反論は認めない!山田太郎はしぶしぶ頷く。

良かった。これで血の雨が降る事態は防げたのだ。


「礼子先生のことは置いておいてだ。太郎は昔憧れた職業とかはないのか?」

「あるにはあるよ。けど、実現は無理だ」

「何になりたかったんだ?」

「アイドル」

「ああ、そりゃ無理だな」

「そう、無理なんだ。けど今実現可能な夢でなりたい職業がない。だからあれが俺の精一杯の願望なんだ」

「ふむ、、、。そうか」


そういわれてみると、山田太郎の回答はある程度的を得たものだと言える。

望みがないから、せめて将来望みの暮らしぶりを描いたのだ。

かといって、それでは将来の夢にはならない。


「そういうことであれば、だ。いっそのこと自分の現状や気持ちを正直に吐露するのはどうだ?」

「どういうこと?」

「例えば、だ。今は将来の夢が見つからないからとりあえず進学するとか。

 なりたい仕事はないけど、体を動かす仕事を探したいとかでいいんじゃないか?」

「なるほど、、、。現状を正直にか」

「そうそう。とりあえず将来のことは考えられないから卒業までに数学のテストで満点取りたいとか。

 今やりたいことを書けばいいんじゃないかな?」


厳密にいえばこれは将来の夢ではない。

しかし、山田太郎は良い加減な答えを良しとしないだろう。

ならばこれが落としどころだろう。礼子先生も分かってくれるはずだ。


「納得したら、なるべく早く再提出しろよ」

「ああ、わかったよ」


山田太郎は大きくうなずいだ。



■■■


「裕太君、あなた太郎君に何かアドバイスしたかしら?」

裕子先生だ。昨日のことだ、と裕太はすぐにピンときた。


「何か、不味いことありました?」

ピンときた、がそんなこと言われても太郎が何を書いたのか知らないのだから、それだけ言われても困る。


自分の問いが抽象的なことに気が付いたのだろう。

礼子先生は暫く逡巡したのち、プリントを差し出す。


見ても良いのか?と目くばせすると、構わないわと頷いた。


A4のプリントには大文字ででかでかと一言


「普通の人間になりたいです。」

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