7 色好い返事と着々と進む準備
「あら、ちょうどいい」
屋敷に帰るとちょうど2通の手紙が届いていた。先んじて出していたユージーン公爵とハーティス伯爵令息からの返事だった。お早いことだ。社交シーズンが終わったからだろうが、仕事もあるだろうし断りの手紙かもしれない、と思いながら差し出されたペーパーナイフで封を切った。
どちらも『必ず伺います』という返事で、特に社交性が死んでいるという噂のユージーン公爵の手紙は熱心だった。何を置いても、とまで書いてある。国王陛下とのお約束があってもこちらにきそうな勢いだ。
ユージーン公爵のこなれた文字と、ハーティス伯爵令息の少し線の細い文字を目で追って、二人の約束を取り付けられたことを再度確認してから私は手紙を封筒に仕舞い部屋に運ばせた。
この後は侍女たちと当日の招待客のリストアップと、人数に応じた部屋、どういう形のお茶会にするかを話し合う。ドレスアップしたままだが、今は時間が惜しかった。
バーンズも交えて、なるべく『噂好き』で『第二王女』の話し相手も務めるような令嬢を中心に、そのお友達という形で呼ぶ人を決めていった。基本的に伯爵以上の爵位の令嬢ばかりになったが、餌は独身の公爵本人と伯爵令息だ、ちょうどいい。
既婚の人を男性が居る場に初対面の私が招くものではないし、未婚の女性ならば噂の『怪物姫』を拝みながらうまくいけばワンチャン公爵夫人か優しい婿をゲットできるのだ。ここまで周到に準備しても来ないという理由は無いだろう。
餌(殿方)2人を交えても30人程という大人数のお茶会になってしまった。部屋だと少し狭いかもしれない、と思い、ちょうど薔薇の庭に面した部屋があるのでそこにした。しばらく雨は無い気候だし、大きく窓を開け放って庭にも出られるようにしよう。
立食形式で、中と続き部屋に休めるようにソファを準備しておけばいい。私は立ちっぱなしの歩き回りっぱなしになるが、私のお披露目なのでちょうどいい。
王都でぬくぬくとした社交をしていたご令嬢たちにしっかりと私の『怪物』っぷりを見せつけて、二度と馬鹿にする意味で『怪物姫』などとは呼ばせない。私の屋敷の家人たち相手に足元を見るような商売をした商人もちょうどいいから今回のお茶会に使う茶葉などを仕入れよう。
うんと高値の、最高級の茶葉をたっぷりと用意してもらわなければ。お父様、お母様、これは無駄遣いじゃないのでお許しを。許しが無くても勝手に使いますけどね、お金。
晩餐の時間も削って(軽食だけは食べたけれど)その日のうちにあらゆる手配を済ませると、夜も遅いのに伝令が手紙を持ってきた。
ハーティス伯爵令息が、お茶会の前に一度顔を合わせたいと追加の手紙を送ってきたのだ。構わないが、日時は明後日。私は首を傾げながらも、一番の婿候補ではあったので、了承の旨を書いて翌朝一番に伝令を走らせた。